piece the four seasons
季節は嫌い。四季なんて、要らない。
春は嫌い…虫が沸くから。
夏も嫌い…熱いから。
秋は苦手…中途半端だから。
冬は嫌い…終わるから。
融通の聞かないこの国の気象。道行く他人はどう感じるのだろう。
私は何を感じれば良いのだろう、とてつもない寒気が私自身を襲う。
私は何かが足りない。何かが見えない。
私に無いのは何?
春の風が髪を撫で、黒髪の綺麗な少女はそっと頭に手を当てる。長い黒髪はそれでも風を纏う様に。あるいはただ流される様に、中空に漂う。傍から見れば爽やかな光景であった――。が。
「うざい…」
時間は現在朝の7時。春の日の某日だ。入学式を終え数日。
道もそこそこに慣れたであろう、そんな春の爽やかな朝、そんな朝を少女深織はバッサリ切り捨てた。
今だ続く春1番の中をを、爽やかな光景に似つかわしくない表情で進む残念な面持ちの美人。
きちんと皺無く着られた制服とは真逆に、髪の毛は威嚇中の蛸の様だった。
「慣れた道でも相変わらず嫌ね風避けの壁でも欲しいわ」
桜が舞い散る並木道を歩く人間には相応しくない台詞。
通い始めたばかりの近所の道で少女は一人。ポツリと呟く
「春は嫌い…」
桜並木をしばし歩き。住宅街を抜け、通学路。辺りにはちらほらと同じ学校の制服が見える。
やっと着いたか。深織は校門を前にドッと疲れを表す。
実際靡く黒蛸を大衆に晒すのはそれはそれで辛かった。寧ろ慣れた通学路を通っただけのうら若き少女は辱められた気持ちでいた。
「おはよーみーちゃん…」
背中から間抜けで低血圧な声が聞こえる。
「あー。お早う奈緒八。珍しいじゃないか早起きだな」
話し掛けて来たのは、色素の薄い髪を寝癖で跳ねさせたなんとも抜けた少年だった。
奈緒八。少年の名前。深織の幼なじみであり、深織が唯一気を使わなくて良い貴重な存在。深織にとっての僅かな色――――。
時刻は一時間目の真っ最中だった。クラスのささやかな喧騒、それを注意する先生の怒声。それらは深織には届かず、授業以外は受け付けない。
窓の外を眺める。窓側の席の特権、しかも一番後ろなのだから役得である。
フルカラー――絶色が深織を見る。深織は透かす様に見ていた。
「綏々名瀬、八重野を起こしておけ。………。綏々名瀬深織!!」
そこで深織は自分が呼ばれた事に気付く。先生の視線の先は幼なじみのアホ面だった。音も色も無い世界で、彼の寝息だけが小さく聞こえた。それを邪魔された深織は酷く不機嫌そうに答える。
「分かりました、ですから授業をお願いします」
「なら今、起こさんか」
「分・か・り・ま・し・た・か・ら」
怒気さえ感じれた瞳は一瞬で教室を圧迫する。耐え兼ねた先生は何か文句を言いながら授業を進めた。周りが深織の噂話ないし、何かヒソヒソ話す。『こわいなー』『魔女だー』『綺麗だ…』それらは聞こえなかった。
滞り無い授業と僅かな寝息が酷く心地よく。
空っぽな自分をあらわにした。
季節は嫌い。四季なんて、要らない。
春は嫌い…虫が沸くから。
夏も嫌い…熱いから。
秋は苦手…中途半端だから。
冬は嫌い…終わるから。
虫の沸く春の日。少女は寝息を聞いて、春を見た。色のまだない濁った春を。




