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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第十二話:飛縁魔(ひのえんま)
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壱・呪


 夏季の特有というべきか、午前六時になる頃には、全国津々浦々、雲に隠れていても、ほとんどのところは朝日が昇っているものである。

 そんな中、朝のニュースで流れる天気予報を聞く度々、誰もが一度はその報道に、気持ちがぐったりとするはずだ。

『今日のお昼頃から、気温は三十五度以上になる……』

 という、天気予報士の言葉がテレビやラジオから流れるか、もしくは新聞に書かれているか、街頭の電子広告などで流れるように表示されるかのどちらかであろう。

 ――とにもかくにも、こういう時期は、最高気温を聞いただけで気持ちが億劫になるものだ。

 さらに云えば、湿気などで蒸し暑くなると余計に――。

 太陽が真上に昇り、いよいよ最高気温になろうとしていた昼頃、ある事件が起きた。

 消防署に連絡が入り、消防車がやって来た現場は密集した住宅街である。

 幸い目撃が早く、小火ぼや程度で事は済んだのだが、その事件から連鎖して起きたとしか言い様のない連続火災は、まこと奇怪なものであった。


 最初の被害にあった家の周りには、二メートルほどの高さがある壁があり、猫がその上を歩かないようにと、鉄骨が食み出ていた。

 さらに云えば、その家はセキュリティー会社と契約しており、空き巣が入ろうものなら、自動的に通報されるというシステムであったにも関わらず、通報は煙を発見した一般人が、119番に連絡しての事であった。

 センサーが作動していなかったのか、煙を感知しなかったのである。

「これ、どう思います?」

 西戸崎刑事が一緒に来ていた佐々木刑事に尋ねた。

「うーん……、小火が起きたと思われる時間、家には一人もおらんかったんじゃろ?」

 佐々木刑事が確認するように、周りにいた警官の一人に尋ねた。

「はい。主人であるAは会社に出勤。妻はお昼前からパートに出かけており、娘と息子はそれぞれ学校に出かけているので、小火が起きた時間、誰もいなかった事になります」

「ガス栓の閉め忘れは?」

 と、西戸崎刑事が尋ねる。「確認しましたが、しっかりと閉められていました」

「小火が起きたのはリビングか。タバコの消し忘れによるものじゃないのか?」

 リビングの設けられているテーブルの上が焦げており、そこから煙が出たものと考えられている。

「いえ、そのようなものはひとつもありませんでした。どうやら主人が禁煙をしていたようです」

「つまり、それに関しても火事の原因にはなっておらんのか……」

 西戸崎刑事、佐々木刑事の二人は小火があったリビングを眺めていた。

 西戸崎刑事が窓際にある金魚鉢に目をやった。金魚鉢の中を和金や出目金が二、三匹泳いでいる。

 西戸崎刑事は特に気にも留めず、すぐに他の場所を見渡していた。

「うーん、子供の悪戯ってわけでもなさそうじゃしなぁ」

 佐々木刑事はもう一度リビングを見渡したが、まったくといっていいほど証拠になるものはひとつも見つからなかった。

 ――それから一時間後の事である。

 別の場所でも同様に小火騒ぎがあり、またしても家には誰もいない時間帯に起きていた。

 今度は家の周りに井戸端会議をしていた奥様方が何人もいる状況での事だ。

 しかし家に不審な人物が入った様子はなかったと、その時近くにいた主婦が警察に話をしている。

 小火が起きた場所は一件目と同様にリビングだった。

 その家の主人が風水を趣味にしており、窓際に水晶玉を置いていたという証言もあった。

 さらにその十分後、今度は小火ではなく、部屋ひとつを焼くほどの火事が起きた。

 火災が起きた場所は厨房で、今度は窓際に水の入ったペットボトルが置かれており、火災原因は残った油に引火したものだと判明されたが、引火原因は未だに判明されていない。


「阿弥陀警部、お疲れさまっす」

 刑事捜査一課にあるソファに座っていた岡崎巡査が、部署に入ってきた阿弥陀警部を見つけ挨拶をする。

「あ、岡崎くん。首尾はどうですか?」

 阿弥陀警部も西戸崎刑事や佐々木刑事と同様に、今日起きた連続火災事件に回されていた。

 上からは事件性が少ないため、不可解な事故という扱いとして、あまり捜査に積極的ではないのだが、佐々木刑事と阿弥陀警部はそうとは思えなかった。

「誰もいないのに火事が起きるなんて不思議ですね」

「まったくですよ。連続して三件も……、冬じゃないんだから」

 何か、自動的に着火する仕組みでもあるんじゃないかと、阿弥陀警部は考えていたが、その様なものも見付からなかった。

「こりゃ、あの人たちに訊いたほうがいいんでしょうけど――」

 阿弥陀警部は少しばかり考えるや、頭を振り、逃げるように鑑識課へと向かった。


「っと、あれ?」

 鑑識課の部屋に入った阿弥陀警部は首を傾げた。

 鑑識課は小火騒ぎどころか、他の事件でも出払っているため、科学研究などによる原因追求している班以外はほとんど出張らっていた。

 阿弥陀警部は一連の火災事件のことを湖西主任に尋ねようと思ってやってきたのだが、その本人も不在である。

 阿弥陀警部は湖西主任が戻ってくるのを願いながら、少しばかり待つ事にした。

 すると彼の携帯が鳴り、電話に出た。

「はい、阿弥陀ですが……えっ? 今度は全焼ですか?」

 阿弥陀警部はふと、どうしてそのような報告を刑事部の自分が受けているのだろうか?

 と考える。

「それと……、現場から男性の焼死体が発見されました」

 それを聞くや、阿弥陀警部は慌てて刑事部に戻り、岡崎巡査に車を出すように急かすと、現場へと車を走らせた。


 阿弥陀警部たちが現場に駆け付けた頃には、既に遺体が運び込まれていた後で、火は消沈し、残ったのは木片のみとなっていた。

 火事があった家は、コンクリートで建てられた家がほとんどの閑静な住宅街としては珍しい木造一戸建てで、その後あった連絡には、運ばれた遺体はその家の主である『阪野章さかのあきら』であるとわかった。

 火災原因は遺体の近くにあり、発見された場所が寝室のベッドの上である事から、被害者は寝タバコをしていたのではないかという推測が出た。

 ――が、阪野章は肺ガンの疑いがあり、医師からタバコを止めるようにと云われていたため、ここ最近、被害者がタバコを買ったという目撃証言は得られなかった。

 それらの事から、火事は何故起きたのかという疑問視が出てくる。

 第一、焦げは熱せられなければ、点く事はない。

 最初に発見された小火の原因となった、リビングのテーブルにあった焦げ。

 二件目も最初と同様にリビングに焦げが出来ていた。

 三件目は全焼とはいかなかったが、厨房に置かれていた残り油に引火しての火事である。

 これらに共通して、引火させる原因が見つからなかった。

 すぐに阪野章に対する近辺の聞き込みが開始された。

 警察は火事を寝タバコによるものと、何者かによる証拠隠滅のために起こしたものというふたつの考えがあった。

 湖西主任ら鑑識課による検死結果によれば、死因は全身火傷によるものであったが、ひとつ奇怪なものがあった。

 それは脹脛に焦げのようなものが発見されたのだが、それをつけるようなものは発見されなかった。


 阿弥陀警部はその晩、稲妻神社へとやってきていた。例によって、葉月に霊視してもらおうと思っての事である。

 母屋の方に回ると灯りが点いており、家に人がいる事がすぐにわかった。

 阿弥陀警部はチャイムを鳴らすと、一、二分ほどして応答があった。

「どちらさまでしょうか?」

 応対したのは弥生であったが、声のトーンが低い。

「あ、阿弥陀です。いつもお世話になってます」

 阿弥陀警部がそう返事をすると、少しばかり間が空いた。

「今日はどのような用件で?」

 弥生の声に、阿弥陀警部は少しばかり違和感を感じた。

「実は先日、火事が四件ほど起きましてね。その中の一件に焼死体が発見されたんですよ。火事が起きた原因もわからないので、出来れば葉月さんの――」

「その様なことでしたら、お帰りください」

 そう云うや、弥生は乱暴にインターホンを切った。

 その様子に、呆気に取られていた阿弥陀警部だったが、ただで帰るほど素直ではない。

 何度もインターホンを鳴らし、誰かが応対に出るが、阿弥陀警部の声を聞くや、すぐに切られる。そのようなことが二十分ほど繰り返された。

「こっちだってねぇ? 地獄裁判にかける以外、瑠璃さん以外が浄玻璃鏡を使っちゃいけないってことになってるんだから、わかんない事があったら訊かないと先に進め……」

 阿弥陀警部が怒鳴ろうと、門の扉を開けようとした時だった。

 家の引き戸が開き、中から誰かが出た気配がしたのだ。

 暗闇だったため、阿弥陀警部は少しばかり目を細くし、出てきたのが誰なのかを確認した。

 するとギラッと何かが月光に当たり、暗闇に白く光った。

 阿弥陀警部はそれが何なのかを知るために身を乗り出すや、自分の顔の真下から、ビィンという、矢が当たったような音が聞こえ、それを見るや、背筋が凍るのを感じた。

 戸に矢が撃たれており、阿弥陀警部は辛うじて助かったが、もう一度弓を引く音が聞こえ、「わ、わかりました。今日は虫の居所が悪いようですし、失礼します」

 といい、阿弥陀経部はその場を立ち去った。


 そして翌日。阿弥陀警部は再び稲妻神社へとやってきた。今度は夕刻である。

 が、またしても門前払いを食らってしまい、阿弥陀経部は途方にくれていた。


第一期最終回です。というよりかは消化試合といった感じでしょうか。いつも通り、のんびりとお楽しみ下さい。

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