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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第十一話:朧車(おぼろぐるま)
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拾・塵芥


 翌日、大宮巡査と皐月はとある駐車場へと案内されていた。

 そこには朽田健佑と政所涼子の姿があり、二人は一体何が起きるのかといった感じにそわそわしていた。


「あ、あんた…… 俺たちに何か用があるのか? おれ、今日会社だったんだぜ?」

「わ、私だって、大切な用があったのに」

 健祐と涼子がそう大宮巡査に尋ねる。

「いえ、僕たちもある人から来るようにと云われましてね」と大宮巡査は答える。それに同意するように皐月は頷いた。


 すると四人に近付くように一台のワゴン車が駐車場へとやってくる。

 そして、まるでアクション映画のようなセットが駐車場に組まれていく。それは緩やかな坂となっており、その上にワゴン車が上っていく。

 皐月と大宮巡査はただただその光景を呆然と眺めていた。

 が、健祐と涼子はまるで恐ろしいものを見んとばかりに体を震わせていた。

 それもそのはずである。やってきたワゴン車は彼らが乗っていたワゴン車と同じ車種なのだから。


「ほう、集まっておるようじゃの? それじゃさっさと実験しようかの」

 昨日皐月たちの前に現れた老人である野中虚空が、あの時と同様に目を細めた優しそうな笑みを浮かべながら、ことを進めていった。

「それじゃ嬢ちゃんや、トリックの説明してくれんかの」

 野中虚空が皐月にそう云うや、皐月は首を傾げる。

「なんじゃ、自分の考えに自信がないのか? それとも生身の人間でないと証明することもできんというのか」

 そう云われ、皐月は坂道で停まっている車に近付く。


「まず、これは事故ではなく計画的殺人である事を前提に聞いてください」

「さ、殺人? 歩夢は殺されたっていうのか?」

 健祐が狼狽するように訊ねる。

「ええ。犯人はMT車の落とし穴を知っていた可能性があるんです。MT車にあって、AT車にないもの―― それはサイドブレーキなんです。AT車はギアをPにすれば車は停まります。ですがMT車の場合はブレーキをかけたあと、サイドブレーキをかけないと自然と車は勝手に走り出してしまうんです」

 大宮巡査が健祐と涼子に説明する。

「つまり犯人がMT車にしたのは、車が勝手に動くようにするためだった。もちろん被害者が気付かないよう、車の中にいる時はサイドブレーキをかけた状態で」

「そのあと、睡眠薬か何かを飲ませ、被害者を眠らせる。そして被害者を運転席に座らせ、ある方法をした」

「ある方法?」と健祐が尋ねると、皐月が説明するので来てほしいと皆を車のところまで呼んだ。


 車の中には被害者と同じくらいの大きな人形が運転席に座らされていた。

「犯人は被害者を運転席に座らせ、足をアクセルのところに乗せようとした。だけどそれだと発進してしまうから、その間に氷を挟んだ」

「氷? そんなもので出来るのかよ?」と健祐は訊ねる。

「でもそれだと足の重みで溶け切る前に発進してしまう可能性がある。だから犯人はこうやって、被害者を縄で固定した」

 皐月は人形の体にあるものを仕込んだ縄で縛った。

「ほう? それなら被害者は転落しても運転席から動けんなぁ。しかし燃えたあと縄が見つからんかったはずじゃろ?」

「縄にガソリンを含んでおくんです。そうすれば証拠は残らないと思いますよ」と大宮巡査が説明する。

「でもその後はどうするの? 体は固定できても、犯人は急発進してふりとばされるんじゃない?」

 涼子がそう訊ねる。


「同じように油を含んだ縄を足に結ぶんです。そしてそれを重みで壊れないほど太い氷柱に結びつけ、ハンドルに固定する」

 皐月は説明するようにそれをおこなった。そしてエアコンをクーラーから、ヒーターに切り替える。

「こうすることで次第に氷が溶けて、足が落とされる。するとアクセルが踏まれた状態になるはずなんです」

 皐月はちらりと野中虚空を見やった。野中虚空は横にいた男にエンジンをかけるようにと伝え、男は皐月をどかせるや、サイドブレーキを解除し、エンジンをかけた。


 サイドブレーキが掛かっていない状態なので車は勝手に坂道を下っていく。そしてゆっくりと平地まで下ると、仕組んでいた氷が溶けるや、急に車は猛スピードで走り始めた。

 目の前にはガードレールがあり、それを突き破る。そして崖に見立てたジャンプ台に差し掛かり、車は飛び出し横転するや、炎上した。

 車全体が燃えたあと、消火活動が行われ、人形は丸焼けとなっており、縄は発見されなかった。


「あ、歩夢が殺された方法はわかった。だけど、犯人は一体誰なんだ?」

 健祐がそう訊ねると

「確かお前さんたち、夜中逢引をしておったそうじゃな?」

 野中虚空にそう訊かれ、健祐と涼子は躊躇いながらも答えるように頷いた。

「その時なぁ…… わしあんたらが茂みに入るのを見ておってな、嬢ちゃんからガソリンの臭いがしたんじゃよ。あの臭いはなぁ簡単には取れんからなぁ」

 野中虚空がそう云うや、涼子は健祐の腕にしがみついた。

「あ、あんた、涼子になんか恨みでもあるのか?」

「怨みなんぞない。人を殺した人間なんぞ人間と思っておらんからな。怨むというのは人に対しての言葉じゃろうが?」

 ふと皐月は野中虚空を見やるや、背筋が凍りつく感覚に陥った。

 何ら変わらない目を細めた優しそうな顔なのだが、それは目だけで口元は大きく歪んでいた。

 そしてなによりも先ほどの言動である。

「皐月ちゃん、どうかしたのかい?」

「あ、いや何も……」

 大宮巡査の問い掛けに、皐月は曖昧に返事をした。


「や、やめてっ! 離して!」

 野中虚空の連れの男二人が、涼子を連れて行こうとする。

「おい、やめろ! まだ涼子が犯人だって決まったわけじゃねぇだろ?」

 健祐が必死になって涼子を助けようとするが、体格の差もあってか、それは無駄な事であった。

「証拠なんぞ後で見つかるじゃろうよ。今はこの塵芥虫ゴミムシどもを厳重に閉じ込める事が先決じゃろう」

 野中虚空はそう言いながら、皐月と大宮巡査を見やった。

「それじゃぁなぁ、お嬢ちゃん。今度は失わんようにな」

 そう云うや、野中虚空は車に乗り込んだ。

 そのうしろに停まっていた車に涼子は無理矢理入れられ、健祐は共犯という形で、やはり同様に無理矢理連れて行かれた。


「皐月ちゃん?」

 大宮巡査がそう皐月に声をかけた。

 しかし、皐月はまるで幼子のように大宮巡査の腕を力強くギュッと握り締め、怯えるように体を震わせていた。


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