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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第九話:女化稲荷(おなばけいなり)
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捌・友白髪

友白髪(ともしらが):結納品のひとつで、白い麻糸のこと。ともに白髪の生えるまで、末永く幸せにという願いがこめられている。


 式が終わってから数日経ったある日。

 梅雨の時期だというのに、雲ひとつない晴れ晴れとした空が広がっている。

 賽銭箱の方からパンパンと手を叩く音が聞こえ、巫女の手伝いをしていた弥生がそちらを見ると、

「――閻魔さま?」

「仏がほかの神仏に頼るのは烏滸がましいことですかね?」

 瑠璃は苦笑いを浮かべ、弥生を見つめた。

「拓蔵と他の子達はいますか?」

「えっと…… はい。いますけど」

 そう聞くや、瑠璃は社務所の方へと歩いていった。

「弥生さん? 彼女は――」

 社員である巫女にそう尋ねられ、弥生は咄嗟に葉月の友達と説明した。

 容姿からしてそれくらいが妥当だと判断したからである。

 神社の人間で瑠璃が閻魔王であることを知っているのは拓蔵と三姉妹だけであるし、正体を教えてはいけないことになっている。


 居間でお茶を渡され、一服するや、瑠璃は険しい表情を浮かべた。

「先ず、幸宮雄平を騙した狐ですが、やはり金毛九尾による差し向けでした。結局、彼らはつまらなかったんでしょうね…… 人間を好きになった美咲とそれを許した花梅が――」

 その言葉はあまりに小さく、ハッキリとした口調ではなかった。

「それと…… 樹里ですが――ただひとつだけ、美咲の面影が残っていたことがわかりました」

「美咲さんの面影?」

 葉月がそう尋ねると、瑠璃は写真のようなものを一枚、卓袱台の上に置いた。


 その紙に写っているのは樹里である。

えん(えん)にお願いして、数日ほど監察してもらいました」

 瑠璃はそう云いながら、樹里の手元を指さした。樹里の右手薬指には指輪のようなものがつけられている。

「だいぶ昔に、結婚指輪と婚約指輪に関する違いを言いましたよね?」

 そう訊かれ、三姉妹は少しばかり思い出すと、答えるように頷いた。

 結婚指輪は左手薬指にする。そして婚約指輪はその逆である。


「しかし、樹里くんが婚約とは…… そんな話聞いたことないんじゃがな?」

 拓蔵が腕を組み、うーんと唸った。

「ええ。拓蔵の云う通り、樹里に婚約者はいませんよ」

「でも、それじゃ、どうして右手薬指に指輪なんて? 樹里さんそんなに着飾る人じゃないし」

 弥生がそう言うと、瑠璃は少しばかり写真を見た。

「それだけ、美咲のことが…… 美咲との思い出が心の底から消えていないということでしょうね」

 瑠璃は寂しそうで、それでいてどこかホッとしたような表情を浮かべた。


「訊き難いことなんだけど、美咲さんと花梅さんに対する処罰は?」

「――当然、二人は樹里や周りの人たちを騙した結果になりますからね。

 閻獄第五条一項において、人を騙したものは【大叫喚地獄・吼々(くくしょ)】へと連行しようと思ったんですけど、当人は深く反省していますし、人を殺したわけでもありませんから、多少なりとも罪は軽くなるでしょう」

 地獄において、殺生は一番低く見られている。美咲は樹里を騙してはいたが、誰一人殺してはいない。


「以上で、私が現状で伝えられることをあなたたちに言いましたが、何か質問はありますか?」

 そう尋ねられたが、拓蔵と三姉妹は何も訊かなかった。

「では、私はこれで……」

 瑠璃はスッと立ち上がり、居間を出ていった。

 そのまま玄関が開く音がするや、瑠璃は声を挙げた。

「どうかしたんですか?」

 その声で駆けつけた拓蔵と三姉妹は、瑠璃を見た。


 玄関から外を見るや、僅かだが雨が降っている。

「先程まで晴れていたのに――」

 ボツボツと降り始めた雨を見ながら、瑠璃は苦笑いを浮かべた。

「予定を変更します。弥生、久しぶりにあなたの手料理が食べたくなりました」

 それを聞くや、弥生は少しばかり表情を強ばらせる。

「えっと、優しくお願いします」

「ええ。厳しくいきます」

 瑠璃は楽しそうに、三姉妹たちと夕飯を共にした。


「ありがとうね…… 美咲、花梅」

 空に浮かんだ三つの影が稲妻神社を見下ろしている。

「これくらいのことでしたら、いつでも云ってください」

「でも、いいんですか? 地獄裁判で忙しいはずじゃ?」

 花梅がそう尋ねると、脱衣婆は呆れたような表情を浮かべた。


「瑠璃さんは、あの場所にいる時が一番素直なのよ。この前の結婚式だって、どこかつまらなさそうだったし、本当は行く気なんてなかった…… でも、拓蔵さんや皐月たちが来るってわかった途端、急いで休暇届けを出して、着ていく服をあーでもない、こーでもないって、選んで……」

「楽しそうですね」

「ええ。偶にはこういうのがあってもいい。勿論他の十王に迷惑はかけてしまったけど、みんなそれを理解してくれてると思う」

 脱衣婆はそう云うや、鎌で虚空を切った。


「さぁ、私たちは帰りましょ」

 そう云われ、美咲と花梅は地獄へと帰っていく。

(大切な時間を楽しんでください…… 瑠璃さん――)

 その日瑠璃から笑顔が消えることはなかった。


煙々羅【えんえんら】の部分がおかしくなっていたのを修正。

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