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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第七話:以津真天(いつまで)
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捌・蟠


 翌朝、応援の警官らがコテージに到着し、瀧瀬夫妻を死体遺棄、および会社の金を横領していた事について問い質すため、任意同行が求めた。

 後日、取り調べによって滝瀬夫妻は発見された白骨死体を埋めた事を認めた。

 犯行理由は瀧瀬晋平が会社の金を横領していた事や、金を使って犯罪をさせていたこと。自分の犯罪を金で隠蔽した事などを、息子である俊平が警察に密告していたためであった。

 当然今まで通り、金でものをいわせればいいのだが、俊平が密告していた警官が他でもない阿弥陀警部だったのだ。

 だからこそ今回の事件において、阿弥陀警部が捜査班から外されたのはそういう理由があり、阿弥陀警部が多少焦っていたのもこれがあったからである。

 瀧瀬夫妻は彼らを見ている希空に対して、「こんのぉ裏切りもんめがぁ!」

 と喚き散らしたが、当の希空はまったく聞く耳を持っていなかった。


「希空さんはこれからどうなるんですか?」

「話を聞くと、母親側の両親が引き取ってくれるそうだ」

 それを聞いて、皐月はホッと胸を撫で下ろした。

 昨晩、信乃が去った後、皐月は希空にこれからどうするのかを尋ねると、殺された母親の両親が北海道で農業をやっているので、そこを訪ねようと云っていたのだ。

「それと今回の事件、やはり上は秘密裏にするそうじゃよ」

「――爺様、どうしてここに?」

 パトカーの助手席から降りてきた拓蔵を見るや、皐月と弥生は呆然とする。

「ちょっと知り合いを呼んだのでな。では和尚さん、よろしくお願いします」

 拓蔵がそう云うや、後部座席から僧侶が降りてきた。

 それを見るや皐月は複雑な表情を浮かべる。

「信乃のお爺ちゃん」

「孫が大変迷惑をかけたようじゃな。まったく、あの子の思いを知っておると、戦い難いじゃろ? のう、皐月ちゃんや」

 そう云われ、皐月は頭を垂れた。

 鳴狗寺の和尚は希空を見やり会釈する。

「瀧瀬希空さんじゃったな。あんたが望めば、そのままにしておくが、どうする?」

 鳴狗寺の和尚は希空に取り憑いているのが彼女の父親だということを皐月たちから事前に聞かされている。

 本来、守護霊が先祖であることがほとんどのため、成仏はしないのである。

 しかし、それが妖怪ともなれば、たとえ父親でも成仏させなければいけない。

「いえ、父をこのまま天国まで成仏させてあげてください」

 はっきりと希空は云った。

 「ええんじゃな?」

 と鳴狗寺の和尚は確認を取ると、希空は迷いのない表情を浮かべ頷いた。

 ――お祓いはほんの数分で終わった。

 瀧原希空には特別なんの変貌もなく、体の異変もなかった。


「それにしても、どうしてあの時、あの人はトーマを切らなかったんでしょうか?」

 昨晩、飛びかかったトーマを切り殺そうとしていた信乃が躊躇ためらっていたことが気になっていた希空が皐月に尋ねる。

「――似てたからよ。あなたを守ろうと無茶なことをしたトーマがね……」

 皐月にそう云われ、瀧原希空は首を傾げた。

「さてと、事件も無事に終わったし、私たちは帰ろうかしらね?」

 弥生がそう云うや、皐月は頷いた。

「なんじゃもう帰るのか? すこしばかりのんびりしてもいいんじゃないのか?」

 拓蔵が不満そうに言う。

「爺様、そもそも私たちは事件の手伝いに来てたのよ? 終わったら帰るのが道理ってものでしょ?」

 皐月がそう言うと、弥生も同意見だった。

「いやなぁ、ここ最近腰痛が酷くてのぉ……調べてみたら、このコテージから少し離れたところにそれに効く秘湯があると聞いてな……しかも女湯の方はお肌が肌理きめ細かくなるとか――」

 それを聞くや、皐月と弥生は互いを見やった。

「そんなところがあったの?」

「え、ええ……温泉はありますけど――」

 希空にそう説明され、弥生は地面においていたバックから着替え一式を取り出す。

「それどこ? 案内して!」

「や、弥生姉さん?」

 皐月は弥生を見ながら唖然とする。というより、むしろ引いていた。

「皐月! 女の肌ってのはねぇ、いつ見窄らしくなるかわからないのよ?」

 弥生は希空に温泉までの道順を教えてもらい、一目散に走っていった。


「皐月さまはどうするのかな?」

 遊火が思ったことを口にした時だった。

「そうね……私は別にいいかな。耳が聞こえるようになるっていう効能があるなら話は……」

 皐月がまるで聞こえていたかのように返答したため、遊火と皐月は一瞬その違和感に気付かなかった。

「い、今……誰か私に話しかけなかった?」

 皐月にそう訊ねられ、拓蔵と大宮、そして希空は首を横に振った。

「それじゃ……今のって――」

「遊火じゃろうなぁ」

 と、拓蔵は笑みを浮かべた。

(そっか……あれがあの子の声だったんだ)

 皐月は遊火の気配を探し、そちらを見やった。

 姿は見えず、声を聞くこともできない。

 遊火は色々と言葉を発しているが、皐月には微塵みじんも聞こえてはいない。聞こえたのはほんの一瞬。それこそ無意識の内でだった。


 だけど何時の日か、二人でいろんなことが話せるようになる事を皐月は願っていた。


第七話終了です。

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