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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第六話:文車妖妃(ふぐるまようび)
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弐・傍観者


「眠そうですね? 阿弥陀警部」

「んっ? ふぁぁ、そりゃそうですよ。いきなり電話で起こされたんですから。君はまだ若いからいいですけど、年寄りは目覚めが遅いんですよ?」

 阿弥陀警部はそう話しながらも、しきりに欠伸あくびを浮かべていた。

 現在、時刻は午前二時を過ぎており、すっかり草木も眠る丑三つ時である。

 阿弥陀警部、もとい大宮ら警官数名が、人気ひとけのない駅のホームに来たのは、駅員が車内で眠っている乗客を確認し起こしていた最中、不審な乗客がおり、声をかけたところ、コロンと倒れた。

 最初は寝ているのだろうと思い、体を揺さぶったが、それでも反応せず、あたりを見るや、乗客の腹部から血が溢れていたという通報があったのだ。

「被害者は笹川直介ささかわなおすけ、二一歳。職業は大学生ですね」

 被害者の財布から学生証が出てくるや、物取りの犯行ではないとわかる。

 終電で最も多い犯罪が物取りだからである。

「車掌が点検をしていた最中のことみたいです」

「そりゃ、誰だって寝てると思いますよね。一見だけじゃ……」

 阿弥陀警部はそう言いながら、被害者の腹部を見やった。

「鑑識で調べるしかないでしょうけど、凶器はナイフで間違いないでしょうね。それと容疑者は既にそれを処分している」

 それはどうしてかと、大宮は尋ねる。

「降りた後、ゴミと一緒に捨てればいいでしょ? 始発から終電までの大凡二十時間の内に、何人の人がゴミ箱に捨てたかわかりませんけど、逆に言えば、持って帰るより処分する方を私は選びますよ」

 阿弥陀警部はそう云うや、辺りを調べていた警官を手招きし、ゴミ箱を調べるように伝えた。


 ホーム内には三つのゴミ箱が備えられている。

 それこそ自動販売機のアキカン入れも徹底的に調べた。

 燃えるゴミの蓋を開けると、鼻を曲げるほどの悪臭が漂ってきた。

 どうやら酔っ払いがそこで吐いたようだ。

「これも調べるんですか?」

「私だって嫌ですけど――あぁ……自分で言っといてなんですけど、言わなきゃよかったと後悔してますよ」

 そう云いながら、阿弥陀警部は肩を落とした。

 黒いビニールの上に、ホームにあったゴミ箱すべてをひっくり返し、その中から凶器を探すわけだが、それよりも悪臭の方に気が散りそうになっている。

「っいって……」

 探し始めて二十分頃、警官の一人が小さな悲鳴をあげ、口で指先を咥えた。

「どうした?」

「いや、なんか指切ったみたいだ」

 ――ということは凶器が入っているということになる。

「皆さん気を付けてくださいよ。どうやら刃が剥き出し状態みたいですからね」

 そう忠告し、警官らは再度調べ始めた。

 小一時間ほど調べると、ようやく血が付着したナイフが見つかった。

 先ほど警官が怪我をしたが、咄嗟に離していたので付着はしていない。


「鑑識に回しといて、それと監視カメラで不審な人物はいないかも確認しないといけませんね」

 阿弥陀警部はそう云うや、少しばかり考え込んだ。

「どうかしたんですか?」

「いや、今回は彼女たちの力を借りなくてもいいんじゃないかと思いましてね。今んところ人間で出来ることですから」

 大宮はその言葉に首を傾げた。

「いや、今までだって人間でも出来た犯行なんですよ。ただ、それが狂気の沙汰と云えるものが多かったですからね」

 帝王切開やら首切りやらという事だろう。

 たしかに人間に出来ないことではないが、刺殺に比べるとなると、狂気の沙汰というのは理にかなっている。

「ただ……証言する人間がいないでしょうね?」

「どうしてですか? 確か被害者が乗っていた車両には二、三人ほど乗客がいたと思いますが?」

「終電だからですよ。真面目なサラリーマンがこんな午前様までいるとは思えませんし、大抵スナックやキャバクラで呑んだくれて帰ってくるパターンでしょ? 睡魔に負けて眠りこけるのがオチですよ?」

 云われてみればたしかに。車掌も被害者を発見した時、眠っている乗客を起こし廻っていたとも言っている。

 つまり駅に着いた際、車掌に会わずに降りた人物ということになる。

 それも監視カメラでわかるものなのだが……


 それから小一時間ほど監視カメラに映ったホールを隈なく、それこそ穴が空くほど見て調べたが、「可笑しいですよね?」

 阿弥陀警部がボソリと呟いた。

 映像は終電がホームに着いてからを流しているのだが、被害者が乗っていた車両から人っ子一人出てきやしない。

「殺した後、ほかの車両から出てきたということじゃないですか?」

 言われればそうなるのだが、それでも二十分以上見ても、その車両からは誰も出てこないことに違和感を感じる。

「阿弥陀警部、自分で言ってたじゃないですか。乗客が乗っていても眠っていて気付いていない可能性があるって」

 つまり犯人は被害者を殺害した後、他の車両に移っていたとしても気付かれなかったということになる。

「逆にそこが怪しいんですよ。殺されようとしている人間が悲鳴のひとつもあげないってのが」

 被害者が俯いた状態で車掌に声を掛けられている。

「それに車両内に血溜まりがあったようですしね」

「そうなると、犯人は被害者を眠らせた状態で殺したということになりますかね?」

 一応鑑識と検死の結果を見なければわからないが、明日、念のために葉月に霊視してもらおうと、阿弥陀警部は被害者の写真を一枚くすねた。


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