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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第五話:火車(かしゃ)
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【番外編】三姉妹の極当たり前の一日【後編】

社務所の応対室に案内された阿弥陀警部の正面に、拓蔵が座っている。阿弥陀警部の横には大宮巡査の姿があった。

大宮巡査は今まで居間の方に案内されていた為、社務所はおろか、応対室に入ったことは無い。

さっきから部屋の中をキョロキョロと落ち着きのない様子だった。


「で? 君が此処に来たということは、また事件かね?」

「ええ。梅原という男性が自室で死んでいるのが妻によって発見されましてね。死因は過労死なんですけどね。ただその梅原というのが為体ていたらくな男で、よく遅刻や仕事をサボったりしてたらしいんですよ」

阿弥陀警部の違和感は仕事を真面目にやっていない人間が、過労死をしたとは考え難いことだろう。


「それで、わしのところに来たと?」

「……はい。真面目でもない人間が、過労死で死ぬとは思えませんしね。それに妻の話ですと、熱中するほどの趣味も無かったそうです」

過労死とはその言葉どおり、長時間働いたり、不規則な勤務等々によって蓄積された疲れやストレスからなる、脳疾患や心臓疾患を起こし死亡することである。

本来働いている人間にさす言葉ではあるが、たとえにマラソンなどのスポーツでも無理を通して行っていたとしても、なる可能性がある。


「会社はその事に対して何を?」

「いえ、会社は特に強いることはしていないようでしたし、休憩も入れていたようです。ただ、その休憩時間の間ですら、梅原は働いていたようです」

「それを止める人間はいなかったのかね?」

「何人かは止めていたようですが、止めたと思った数秒後にはせわしく動き回っていたようですよ」

「――――動き回る?」

「梅原が勤めているのが運搬会社なんですよ。作業2時間置きに30分の休憩を挟んでいたようです」

運搬会社ということは、荷物等を運んだりして疲れも余程のものだろう。それにもかかわらず、梅原という男は休みなしに働いての死亡ということになる。


「犯人は……いないでしょうね?」

「どういう事ですか?」

「人間の犯人はいないと思いますよ。梅原という男性が過剰に働いていたことを止めている人間が数人いると阿弥陀君はいいましたよね? つまり、止めている人間がいたことや会社自体が休憩時間を入れていたということは……」

拓蔵の言葉に阿弥陀警部は、少しばかり考え、

「そういう妖怪がいるという事ですか?」

「じゃから、君はわしのところに来たんじゃろ?」

何でもお見通しと言われたような気がし、阿弥陀警部は苦笑いを浮かべた。

「人を過労死させる妖怪なんているんですか?」

大宮巡査の問い掛けに、拓蔵は本棚から一冊の本を取り出した。


「いそがし……“人間がこの妖怪に憑依されると、やたらに落ち着きがなくなるとされる。しかし不快な気分ではなく、忙しく動き回ることで、なぜか安心感に浸ることができ、逆におとなしくしていると、何か悪さをしているような気持ちになってしまうという”。傍迷惑な妖怪じゃよ」

「つまり梅原はこの妖怪に表意されていたと?」

「可能性としてはおおいにあるじゃろうな。特に今はお中元の時期で、運搬会社は書き入れ時じゃろ?」

要するに忙しい時期という事だ。


「問題はいそがしを退治する事より、会社から労災保険が妻に入るかということじゃろうなぁ」

「えっと? それってどういう事ですか?」

「いそがしの仕業だったとしても、人から見れば会社が起こした過労死じゃろう?」

云われてみれば確かに……と、阿弥陀警部と大宮巡査は思った。


「では退治はしてくれないと?」

「いや退治はするよ。君はそれをお願いに来たんじゃろう? 弥生たちが帰ってきたら、すぐに会社の方に行かせる。まぁ、そんな無理な仕事じゃないじゃろうな」

そう云われ、阿弥陀警部と大宮巡査は首を傾げた。


夕刻、帰ってきた三姉妹は阿弥陀警部の案内で、梅原が勤めている会社へとやってきた。

妖怪がいると聞かされたので、皐月は会社内、特に倉庫の方を警戒していた。

運搬会社で一番労を催すのは、云うまでもなく倉庫の方にある。


「何か感じる?」

弥生の問いに皐月は首を振った。実際にはかすかに感じてはいるのだが、余りにもかすかで、幽霊なのか、いそがしなのかという判断が誤りそうになっていた。

「消えかけてるといったほうがいいかしらね?」

そう云った時、皐月の視線は非常口の方へと向けられていた。


「吾神殿に祭られし大黒の業よ! 今ばかり我に剛の許しを!」

手に持っていた竹刀は真剣へと変わっていく。


「えっと…… 一応過労死で殺してるから…… 閻獄第3条、意図的に相手に労を強いたものは、等活地獄、衆病処しゅうびょうしょへと連行する」

そう言い放ち、切っ先は微かにに揺れた布へと放たれた。すぐざま弥生はお札をその布に投げるつけるや、布は見る見るうちに燃え尽き、幽かに断末魔が聞こえた。


「はい。お仕事完了。さぁてと、さっさと帰ってご飯食べよう」

皐月は背伸びするや、阿弥陀警部の車に乗った。

「えっと? 私は彼女たちを送りますから、大宮君は後のことをお願いしますね」

後のこととは、会社や遺族に対しての説明だろう。


後日、いそがしの仕業だったとしても、結局は会社から労災保険が妻に渡された。

元ネタは鬼太郎(たしか第5期)に出てきたいそがしです。

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