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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第四話:橋姫(はしひめ)
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陸・愛憎

 葉月の目の前には一枚の写真が置かれている。言わずもかな、浅葱橋で見つかった男女の死体が写っている写真だ。

 葉月は目を(つむ)り、一、二度深呼吸をすると、写真の上に手を置き、そっと撫で始めた。

「女の人の悲鳴……」

 葉月がそう口走った。「なっ? い、今なんて?」

 阿弥陀と西戸崎の驚いた声が偶然にも重なった。

「でも……写真に写ってる人の声じゃない……もっと違う人……」

「――違う人? それは一体……」

 西戸崎がそう訊ねようとしたが、阿弥陀がそれを制止した。「おい、どうしたんだよ?」

「まだ続きがありそうなんで……」

 阿弥陀の言葉通り、葉月の力が終わったわけではなかった。

「美亜さん……すごく嬉しそう……大好きな人と一緒になれて……」

「――え?」

 さっきまで少しばかり難しそうな顔をしていた葉月の表情がほころんでいる。

 まるで……写真を通して、死者と話しているのかと思ってしまうような光景だった。


「それで葉月や? 美亜さんと鋼さんは何と云っておったんじゃ?」

 そう拓蔵に訊かれ、葉月は少しばかり申し訳ないような表情を浮かべた。

「彼女を恨んでなんていない……」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ? 殺されたんだぞ? 殺されたのに、怨んでねぇっていうのかよ?」

 西戸崎が声を張り上げ、葉月に詰め寄る。

「好い加減にしろよ! さっきから変な事ばっかり言いやがって……これはなぁ、捜査を混乱させた事による公務執行妨害になるんだぞ?」

 西戸崎を拓蔵と弥生が宥めようとするが、それとは裏腹に阿弥陀は神妙な面持ちで何かを考えていた。

「どうかしたんですか?」

「いや、君に最初あった時も感じたんだが、君達は一体何ものなんだ? まるで私達とは一線をひいたような……」

 そう訊かれ、皐月は少しばかり考えると……「わかりません。でも葉月の力は霊の声を聞く事が出来るんです」

「霊の声?」

「私達姉妹は生まれた時から人には見えないものが見えたり、感じたりする事があるんです。特に葉月はまだ幼いから、その力が強くて、よく何かをれて帰ってきたりするんですが、そのほとんどが自分の声を聞いてほしいと願っている霊やあやかしなんですよ」

 そう聞かされるが、阿弥陀は信じられないと言わんばかりの表情を浮かべた。


「別に信じて欲しいなんて思ってませんよ」

 皐月は笑みを浮かべながら云ったが、阿弥陀はそう話す皐月の表情がまるで無理して笑みを浮かべているように感じていた。

「それに女性の恨み……特に男女関係において、本来どちらに矛先が向けられているか……」

 そう言われ、阿弥陀は何かに気付いた。

「西戸崎刑事。一度本部に戻って、被害者の友人関係……特に堂本鋼の女性関係を洗い直しましょう」

「はぁ? お前なんばいっとーと?」

 西戸崎がそう言うが、有無を言わさずに阿弥陀は神社を出ようとしたが、居間を出ようとした時、拓蔵たちのほうを振り向くや、「貴重な情報提供をしていただき、ありがとうございます」

 と敬礼し、去っていった。


「面白いお人じゃな?」

「――阿弥陀警部だっけ? 五道転輪王ごどうてんりんおうと同じ名前みたいだけど」

 そう弥生は皐月を見ながら云った。

「あの人、いの一番に私がうしろにいた事に気付いてた」

 それは境内で初めて会った時の事である。皐月は元々から二人が神社に来ていた事も、人がいない事に困っていた事も見ていた。

 皐月は気配を消していたのだ。声を出しても気付かれないほどに……。

 そして試しに声をかけてみるや、阿弥陀のみが振り向いた。

 その仕草は何度もあったが、皐月だと気付いたのは自分が声をかけた時が初めてだと、皐月は話した。

「それにしても『加害者を恨んでない』……か」

 たしかに奇妙な話である。西戸崎の言う通り、殺されたのだから怨むのが道理というものだ。

「でも、美亜さんはすごく嬉しそうな声してたよ」

「それ……梨元美亜さんだけ……よね?」

 そう皐月に訊かれ、葉月は首を傾げたが、すぐさま頷いた。

「どういう事? 梨元美亜は加害者を怨んでいないけど、堂本鋼は怨んでいるって事?」

「わからないけど、でも堂本鋼が梨元美亜さんを岸まで上げた可能性が……」

 皐月は拓蔵を見やった。

「浅葱なら出来るかもしれんな」

「でも、浅葱は被害者が殺される以前からいなくなってるし」

 つまり拓蔵が話した通り、川に流されている時、堂本鋼は気が付き、梨元美亜を岸まで運んだという事になる。

 可能性としては天文学的に低いが、断じて不可能とは言い難い。

「皐月、今日の晩、浅葱橋に行ってみてはくれんかの? 弥生、共を頼めるか?」

 拓蔵がそう訊くや、皐月と弥生は頷いた。

「よし、ならば腹拵えじゃ!」

 そう言うや、拓蔵は柏手をひとつ鳴らした。


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