拾肆・姦しく
二日後、その日は平日であったが、拓蔵は三姉妹を休ませた。
ひとつは皐月の力を回復させる理由もあったのだが、もっと大切な用があったからだ。
子安神社に辿りついた三姉妹は境内へと入っていく。信乃も先日遭った事故による怪我を理由に、学校を休み、拓蔵たちに同伴していた。
「おう、来たか」
源蔵の隣りには、海雪の姿があった。
「おばあちゃん、体大丈夫?」
皐月がそうたずねると、「あのね? 私いちおう死んでるから、体の異常は特にないわよ」
「そうそう。むしろあんたのほうが大丈夫なの? 一番力使ってて、毘羯羅や弥生さんたちの話だと、まる一日寝てたらしいじゃない?」
信乃がそう尋ねると、皐月はVサインを作る。
「もう平気。完全回復」
笑みを浮かべ、そう告げる。
「しかし、どうして三面六臂大黒天の力を使うのに皐月を選んだんじゃ? 正直言うと、お前たちより力は衰えておるだろうに?」
拓蔵が信乃と海雪にたずねる。信乃と海雪は、互いを見ると笑みを浮かべた。
「わたしたち、皐月と友達にならなかったら、たぶんずっと会わなかったんだと思うんです。皐月がいたからこそ、こうやって一緒に遊んだりしてる。云ってみれば、皐月はわたしやおばあちゃんにとって縁結びの神様だった。大黒さまは縁結びの神様でもありますから、だから皐月が、やっぱり大黒さまの力を使うのに適していたんじゃないかなって、そう思ったんです」
信乃がそう答えると、海雪は無言でうなずいた。
それを聞いた拓蔵は、納得したような、そんな表情を浮かべた。
――お前たちの祖父も、わしに似たようなことを言ったよ。じゃから、わしらは喧嘩をしても、決して離れなかったんじゃろうな。
「……ふたりとも、これからも、あのほっといたら無茶をしでかすかもしれん馬鹿孫を――よろしく頼む」
拓蔵は小さく頭を下げた。
「――はいっ!」
信乃と海雪は小さく、だがハッキリとした声で答えた。
「それで、もうみんなは集まっておるのか?」
拓蔵が源蔵にたずねると、「ぬらりひょんと田心姫は地獄に送られたよ」
「そうか、しかしやつはとんでもないところにふたりを封じていたな」
拓蔵は田心姫から聞いた話を思い出し、含み笑いを浮かべた。
「まさに灯台下暗し。いや、摩利支天も一役かっていたということか」
源蔵はゆっくりと視線を三姉妹に送った。
「それじゃぁ、皐月ちゃんたちに会わせたい人がおるのでな、すまないが、皆本殿の方に入っててくれんか?」
三姉妹と信乃はそう言われ、子安神社の本殿へと入っていった。
そこには十二神将の面々と、行方不明になっていた阿弥陀警部、佐々木刑事の姿があった。
「阿弥陀警部、無事だったんですか?」
皐月がそうたずねると、「はははっ! おかげさまで、ご迷惑をおかけしました」
阿弥陀警部は笑みを浮かべながら、皐月たちに頭を下げる。
「でも、大宮巡査は……」
皐月は寂しそうな表情を浮かべる。しかし、それを横目に、阿弥陀警部は含み笑いを浮かべていた。
「な、なんでそんな顔できるんですか?」
「いや……わたしたちがここにいると云うことは」
阿弥陀警部がそう云うや、本殿の襖が開いた。
「――あっ!」
葉月が小さな悲鳴をあげる。
「うそ……」
弥生も声をあげる。
「皐月ちゃん……ごめん。連絡が遅れて」
そこにいたのは大宮であった。そして気がついた時には、人の目を憚らず皐月は大宮をギュッと抱きしめていた。
「ほ、本物ですよね?」
「なにを言ってるんだい? 本物に決まってるだろ?」
大宮は泣きじゃくる皐月の頭を撫でる。
「……っ」
それを信乃はつまらなそうに見つめる。「あれ? どうかした?」
海雪がそうたずねると「な、なんでもないわよ? ただ、みんなが見てる前であんなに抱きつくことないでしょうに」
信乃は外方を向く。まるでその質問に逃げたように見えたため、海雪は含み笑いを浮かべていた。
「おい、皐月……。わしはまだお前と大宮くんの仲を認めたと云うわけではないんじゃがなぁ」
拓蔵が襖を開け、皐月と大宮を睨むように見つめる。
「あ、その……」
我に返った皐月は顔を紅潮させ、咄嗟に大宮と自分を離した。
「それに、今日は目出度い日ですからね。あなたたち姉妹にとっても……」
瑠璃がそう云うと、三姉妹は首をかしげる。
「瑠璃さん、それっていったいどういう……」
弥生がそうたずねると、「今にわかりますよ。二人とも入ってきなさい」
廊下の方に声をかけると、二人の男女が姿を見せた。
眼鏡をかけた男は松葉杖を支えに、骨折した足を引き摺りながら現れ、女性は烏羽色の艶がある髪だが、身窄らしい姿をしている。
「あ、あの……、いったい彼らは?」
大宮が瑠璃にたずねるが、瑠璃は笑みを浮かべながら三姉妹を見ていた。
大宮はゆっくりと皐月を見る。皐月の表情は、信じられないものを見たような表情であった。
「うそ……なんで……」
皐月は唇を震わせる。
「――あなた皐月なの? こんなに大きくなって……、そこにいる人はあなたの恋人?」
女性が優しい口調で、皐月にたずねる。
「お父さんはまだ恋人は早いと思うんだがなぁ」
「お父さん、もう皐月は中学生ですよ。恋人がいたって可笑しくないでしょ?」
女性が男性を宥める。
「お、お父さん……」
皐月は男性に飛び掛るように抱き付いた。
「会いたかった。お父さん、ずっと……ずっと会いたかったっ!」
その胸元で大きく泣きじゃくる。
「済まないな。すべてはやつを封じるためだったのだ」
男性――健介がそう云うと、皐月は上目遣いで彼を見つめた。
「お母さん、それってどういうこと?」
弥生が女性――遼子にたずねる。遼子はゆっくりと皆の前に座った。
「六年前、事故が遭ったあの日のことを皆さんにお話します。私はあの車の中で一人目を覚ましました。目の前には弥生と葉月が倒れていて、運転席の方では、皐月と健介さんが重なるように倒れていた。皐月のシートベルトが外れていましたので、たぶん健介さんに助けてもらったんだと思います」
遼子は皐月を見ながらたずねる。皐月は答えるようにうなずいた。
「その時、横転した車の上に、人が乗ったような気配がしたの。私は誰かが助けに来たのだと思った。けど、普通の人とは違う嫌な感じがしたのよ」
「それがぬらりひょんだった」
瑠璃がそう云うと、遼子はうなずく。
「酒呑童子は仕向けた朧車によって、私たちを崖に突き落とそうとした。ぬらりひょんは私たちにそのことを話し、協力をお願いした」
「それがお父さんたちを行方不明にさせることだったってこと?」
「そうすれば、少なくともいくらか時間に余裕が出来た。しかし、思いの外、三社の巫女の力を受け継いでいた皐月や信乃、海雪が力を得たことで、力を元に戻そうとしていた酒呑童子が焦ってボロを出したということですか?」
阿弥陀警部がそうたずねると、瑠璃が答えるようにうなずいた。
「最初、私たち夫婦よりも弥生たちを助けてあげて欲しいとお願いしたの。だけど近くには酒呑童子が仕向けた妖怪が徘徊しているから、それが出来なかった」
「だから皐月たちを、一時的に賽の河原に非難させた……ということですか?」
信乃がそうたずねると、遼子は答えるようにうなずいた。
「済まなかったな。ぬらりひょんはあえて悪役を演じていたのだ。かつての事件の時と同じようにな」
姿を現した夜行がそう話す。そして視線を響と濡女子に向けた。
「お役目ご苦労様です」
濡女子が、静かに頭を下げる。「ああ。響のこと、ありがとうな」
夜行はゆっくりと響の頭を撫でた。
「わしは倒されんよ……」
と、響は言葉を発して立ち上がるや、毘羯羅たちの元へと駆けていく。
「こい悪党! この正義の使者がお前たちを地獄に送り返してやる!」
そう云い放つや、響は迷企羅に飛び掛った。
「おっと、そう簡単にはやられんぞ」
迷企羅は体を翻し、響の攻撃を避ける。
「あ、悪党が逃げた。追いかけますよレッド」
安底羅が響に拍車をかける。
「ちょっとあんたたち静かに……って、だれ? いま私の頭殴ったの?」
珊底羅がそう云うと、他の十二神将はそれぞれ違う方向に視線を逸らした。
「そう? だったらあんたたち全員火祭りにしてやるわぁあああああ」
「わぁああああっ! 珊底羅っ! こんなところで炎出さないで! それに、『短気は損気』って諺がぁっ!」
伐折羅がそう叫ぶが、「大丈夫、陰火だから……」
珊底羅は周りに現れた炎を、逃げ惑う響と十二神将に放った。
「『わしは倒されんよ』か……、もしかしたらわしは心のどこかで、ここに戻りたいと思ったのかも知れんな」
夜行はそう言いながら、ゆっくりと瑠璃を見遣ると、「響のことありがとうございました。閻魔王」
跪き、頭を下げる。
「響はいつもあなたの事を気にかけていましたよ。ただお礼を云うなら、栢に云ってあげてください」
瑠璃は小さく微笑んだ。
「さてと、みな積もる話もあろうし……信乃、浜路は学校か?」
拓蔵にそうたずねられ、信乃はうなずいた。
「じゃったら、学校が終わったら、子安神社に来いと、小学校に連絡しておいてくれ。今夜は皆で祝いじゃっ!」
拓蔵がそう云うと、「酒か? 酒なのか? 拓蔵っ! 今日こそ飲み比べ負けんからなぁっ!」
宮毘羅が拓蔵に挑戦状を叩きつける。
「おっ、わしに勝てると思っておるのか?」
拓蔵も喧嘩腰であった。
「拓蔵、少しは控えてくださいよ」
瑠璃が釘を刺す。伐折羅も同様に宮毘羅に釘を刺していた。
その日の晩、子安神社の本堂では宴会が開かれていた。
「えっと……、今、何本目?」
浜路が冷や汗をかきながら、葉月にたずねる。
「じ、爺様が一升瓶十本目で、宮毘羅も同じくらい」
葉月も同様に冷や汗をかいていた。
「ぷはぁっ! まだまだぁっ! 酒は飲んでも飲まれるなってなぁ」
「なかなかやるわねぇ、でも私だって」
宮毘羅は酒が入った一升瓶を喇叭飲みする。
「これで十一本目ぇっ!」
むはぁと酒臭い息を吐く。「ふん。ただ単に酒を飲むだけでは駄目だぞ。たまには体を休めんとなぁ」
云うや、拓蔵はコップに酒を注ぎ、ゆっくりと口にする。数秒後にはコップに入った酒が空になった。
「――これで十一本目じゃ」
拓蔵は余裕のある笑みを浮かべる。それを見るや、宮毘羅は顔を紅潮させた。
いや、すでに酒で顔が紅くなってるので、傍から見ると判り難い。
「――みなさん、おかず出来ましたよ」
台所を借りて、瑠璃と弥生、遼子が宴会の肴を作り、宴会場と化した本殿へと運んでくる。
「大宮巡査、それすごくおいしいんですよ」
大宮の隣に座っている皐月がそう促す。
「本当だ。すごくあっさりしてておいしいよ」
大宮が声をあげて云う。
「大宮さん、この煮付けもおいしそうですよ?」
隣に座っている信乃がそう言うと、大宮は差し出された煮付けに箸を出し、口に運んだ。
「これも美味しいね」
大宮がそう云うと、「信乃……? あんたいつから大宮巡査のこと『さんつけ』にしてたの?」
皐月がそうたずねる。
「別に今まで云わなかっただけよ。それにしても、あんたまだ巡査とか云ってるの? もしさぁ、あんたが大宮さんのこと好きだったら、下の名前で云ってみたら?」
そう唆され、皐月は顔を紅くする。
「あれ? 皐月ぃっ! あんたも酒飲んでる?」
宮毘羅がからかうように云うや、「の、飲んでない。大体わたし未成年で飲めないから」
皐月は焦った表情で言い返した。
「ほら、言ってみなさいな。言えなかったら大宮さんもらっちゃおうかなぁ」
信乃は大宮に体を密着させる。
「わ、わかった……わかったからぁ……」
皐月はゆっくりと深呼吸し、気持ちを落ち着かせる。
「――たっ……忠治さん。これもどうですか?」
皐月は茶碗蒸しを大宮に差し出す。
「ありがとう――うん、これも美味しいね」
大宮は笑顔でそう答える。皐月は顔を真っ赤にし、俯かせた。
それが、さらに信乃や毘羯羅たちにからかわれる原因となる。
「賑やかですね」
瑠璃は拓蔵の隣に座った。「そうじゃな……」
拓蔵はゆっくりと酒を飲んでいた。
「宮毘羅ぁっ! 生きてる? 宮毘羅ぁっ?」
伐折羅がタオルをバタつかせながら、宮毘羅の酔いを冷ましていた。
「ま、まだ負けてない……負けてないんだからぁ」
宮毘羅はうわごとを発しながら、いつしか気を失うように眠りについた。
「――ズルしてましたよね? 自分の瓶だけ水にするなんて」
「なんでもお見通しじゃな。さすがにわしでも勝てん勝負はせんよ。宮毘羅がその名の通り、猪突猛進でなかったらどうなっておったかなぁ」
拓蔵はゆっくりと皆を見遣った。
「それに、無茶な飲酒を、酒豪は決してせんのじゃよ」
拓蔵はカカカッと笑った。
「――これでよかったのでしょうか?」
瑠璃は心配そうに、拓蔵にたずねる。
「そう云ってるわりには安堵しておるが?」
「遼子と健介さんがあの子たちの元に戻ってきた。田心姫の話だと、あの子たちが、事故が遭った六年前のままだったら、戸惑うと思い、二人が封じられていた場所では、時間がここと同じくらいの早さで流していたそうです」
「健介くんはあの事故で足を悪くしていたそうだが、すぐにでも仕事復帰出来るそうじゃ――。まぁ、年も年じゃってことで、レーサーは引退するそうじゃがな」
「ただ前の家がないので、稲妻神社の方に住むことになりますけどね」
「なに、部屋には余裕があるしな、そこは問題ない」
拓蔵の楽しそうな表情を見ながら、瑠璃は体を寄せた。
「なんじゃ、もう眠たくなったのか?」
「いいえ、こうしていると安心するんですよ。やっぱり、私はあなたの妻なんだなぁって」
瑠璃は拓蔵を見遣ると、気付かれないように拓蔵の頬に接吻をした。
「うーん、瑠璃さん……皆に気付かれないようにしたんじゃろうけど、体を寄せた時点でそうすると皆思ったようじゃぞ?」
拓蔵がそう云うや、瑠璃は「ふぇっ?」
と、皆を見た。
拓蔵と瑠璃以外は、目を爛々と輝かせ、あるものは興奮し、あるものは恥ずかしそうに顔を俯かせ、あるものは含み笑いを浮かべていた。
「閻魔王も隅に置けませんな? みなが見てる前で大胆なことを」
阿弥陀警部が含み笑いを浮かべる。
「えっ? っとっ? あ、あの……そのですねぇ?」
瑠璃はあたふたと弁解する。
「別にいいんじゃないのお母さん。夫婦なんだから」
遼子はケラケラと笑う。
「こ、この子は親をからかうんじゃありませんっ!」
瑠璃はそう言いながら、遼子をキッと睨みつける。
「わたしもいつか忠治さんにキスとかするのかな?」
皐月がボソリとつぶやくと、それを聞いた面々が目を点にする。
「も、もしかして、付き合ってからまだキスもしてないわけ?」
「いやありえないでしょ? 晩熟の皐月ならまだわかるけど……、まさか大宮さんって、こんな可愛い子が自分を好きでいるのに、まだ手を出してないってこと?」
信乃がそうたずねる。
「おい君っ! うちの娘に変なことしてないだろうなぁ!」
健介がそうたずねるや、「お、お父さんっ! 忠治さんがそんなことするわけないでしょ?」
皐月があたふたとしながら、大宮を見た。
「うーん。皐月ちゃん、こっちをみてくれる?」
大宮はうなりながら、皐月をジッと見つめる。
「な、なんですか?」
いくら疎い皐月でも、真剣な視線を向けられれば、いやでも覚悟を決める以外なかった。
ゆっくりと瞳を閉じる。しかし、いくら待っても唇に感触がない。
ただ聞こえてくるのは、周りからの小さな笑い声。
「皐月、ゆっくり目を開けなさい」
遼子に声をかけられ、皐月は目を開いた。足元に妙な重みがある。
見てみると、大宮が寝息を立てて倒れていた。
「た、忠治さん? ちょっと、大丈夫ですか?」
あたふたと、皐月は大宮を起こそうとする。
「……これ、アルコールだ」
大宮が飲んでいたコップのにおいを嗅ぎながら信乃は言った。
「そういえば、大宮くん車に乗るからってあまりお酒飲まないんですよね。まさか下戸だったとは」
「酒も飲めんやつに、わしの可愛い孫娘をやれるか」
拓蔵がそう云うと、「そういえば健介さんもお酒駄目でしたっけ?」
「あ、はいお義母さん。おれもあまりお酒は飲めないほうでして、お義父さんみたいにいっぱい飲めないんですよ」
健介は申し訳ない表情で云うが、「お父さん、飲めなくていいから、爺様が化け物なだけだから」
弥生と葉月が否定するように、手を目の前で振った。
「皐月、今がチャンスよ? こういうのは既成事実作っとけばいいんだから」
信乃が皐月に耳打ちをする。
「き、既成事実って……?」
「要するに、今大宮さんは無防備状態。キスするなら今のうちってこと」
その言葉に皐月は顔を紅くする。
「証拠は私たちが証言しますからご安心ください」
摩虎羅がそう云うと、「なんの証拠? それってなんの証拠?」
「もちろん、皐月さんが大宮巡査にキスをしたという証言です」
「しなくていい。そんな証言しなくてもいいっ!」
悲鳴にも似た声を皐月があげると、寝ていた大宮が起き上がり、皐月を見遣った。
「あ、忠治さん、起きたん……あれ?」
皐月は肩を掴まれ、身動きが取れなくなる。
「ちょ、ちょっと……忠治さん?」
皐月の言葉が聞こえないのか、大宮は、自分の唇を皐月の唇に重ねた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
それを見ていた面々が驚きの声をあげた。
「んっ! んぐぅっ! んはぁっ!」
なにやら様子が可笑しいと思った信乃は、咄嗟に大宮と皐月を離した。
――それがいけなかった。
「ちょ、ちょっと、大宮さ……、んぐぅっ?」
大宮は唇を信乃の唇に重ねる。そして皐月同様に、濃厚なキスを一方的に交わした。
「――もしかして、大宮巡査って、キス魔?」
「しか思えないわよね? 普段大人しい人が酔っ払うと豹変するって云うけど、あれは変わりすぎでしょ?」
海雪がそう云うと、大宮は再び眠りについた。
「き、キスされた。まだされたことないのに無理矢理キスされた」
信乃は、まだ大宮の唇の感触が残る自分の唇に触れた。
「さ、皐月、あんた大丈夫?」
そうたずねるが、皐月はうわごとを呟いており、意識を朦朧とさせている。
「しっかり、ねぇっ! しっかりしなさい!」
信乃と海雪が声をかけるが、皐月が正気に戻ったのは翌日のことであった。
「――姦しいな」
拓蔵はそう言いながら、どこかホッとした表情で皆を見た。
おつかれさまでした。これにて、『姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~』の本編終了となります。ここまで付き合って下さった方、どうもありがとうございました。打ち切り漫画の如く『皐月たちの戦いはこれからだ』みたいな終わり方ですが、……まだまだ姦は終わりませんし、本編書いている間も、色々と別の話が出てくるので、妖怪の数ほど、話のネタに困るということは、恐らく無さそうです。(ただわたしの飽きっぽい性格が災いしている気がしますけど)これからも筆者ともども、よしなに