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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第三話:窮奇(かまいたち)
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捌・家族

 事件解決の報告が来てから一週間後、稲妻神社の境内には見るからに重そうな胸を持っているにも拘らず、華奢な体系をした女性が、なにやら拓蔵と楽しそうに話し込んでいる。

「あれ? おばあさん来てたんだ」

 皐月と葉月がその女性を老婆と云った雰囲気で声をかけたが、女性の見た目はどう見繕(みつくろ)っても二十代にしか見えない。

 その女性が二人に気付くや、皐月に対して少しばかり睨みつけた。

「皐月、あんた閻魔さまがあきれてたわよ? よくもまぁとんでもない罪状を叩き付けたわねって」

「いやだって、結局あの子達は阿弥陀警部にヒントを与えていたし、そもそも通り魔事件だって沢口芳信を騙していた妻の希を飼い主の沢口芳信が殺す前に切り離そうとしていたんでしょ?」

 老人が住んでいたあの家は沢口夫妻の家で、売り払われてはいたが隣の家が殺人事件があった事から買うものがいなかった。

 そしてあのいたち達は、五年前に沢口修造が亡くなった後、弟の芳信が引き取っていた。

「私を負かすほどの力を持っていたにも拘らず、誰も殺してないんだから、地獄裁判も少しは大目に見なさいよ」

 皐月の云う通り、かまいたちは結局誰も殺していなかった。

 通り魔事件もそうだし、沢口希の顔を切り刻んだ時も既に息絶えた後にやっている。

「そうは云ってもねぇ? こっちは小さな罪でも罰しないといけないのよ」

 女性は呆れながら云う。「それはおばあちゃんの仕事でもあるんじゃないの? 脱衣婆(だつえば)なんだし」

 葉月にそう云われるや、女性――脱衣婆は溜め息を吐いた。

「最近は死ぬ人間が昔より多いらしくて、天手古舞(てんてこま)いなんだから、余計な仕事増やさないでよね?」

「愚痴らない愚痴らない。それであのいたちと飼い主は逢えたんかな?」

 拓蔵がそう訊くと、脱衣婆は頷いた。

「幸せそうだったわよ。先に死んでいたいたちも……、そして沢口芳信も」

 結局は離されるが、それでも一時の安らぎではあった。


「それと、妻の沢口希には会わせてないわ。そもそもの元凶はあの女だからね」

「それはあのいたちたちが一番わかってるんじゃないかしら。微かにあの家には誰かに対しての怨みの念があったから」

 飼い主である沢口修造はもちろん、弟である芳信に向けられたものではない。

 ならば消去法で残った希に対してのものだったのだろう。

浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)に沢口希がいたちをいじめ殺していたのが映ってね、それがあの子達の怨みの原因だった。でも動物である自分たちではどうする事も出来なかった。だから“かまいたち”の力で婦女子を襲っていた」

「それじゃ、あの子達はもとから妖怪だったって事?」

 道理で強いはずだと、皐月は納得した。

「何かに傷を付けられていた時に沢口修造に看病してもらっていたらしいわね」

 それは恐らく五年前に起きた事件よりも前の事だろう。

「遊火が妖気を感じられなかったのは妖怪としてではなく、普段はただのいたちとして生きていたからだと閻魔さまは云ってたわ」

 それがもし本当だったとしたら、敵にまわさなくてよかったと皐月は心から思った。


「話が長くなったしお(いとま)するわ。こっちに長くいると閻魔さまに怒られるしね」

 そう云って脱衣婆はスッと立ち上がり、大きな鎌で虚空を切った。

 そこには裂け目が出来ており、その先に赤い川が見える。そこは俗に言う三途の川であった。

「少しお茶をしていけばいいのに」

 弥生が誘うが脱衣婆は首を横に振って苦笑いを浮かべる。

「今日は報告だけ。それに仕事しないと恐いからね、うちの“上司”は」

 脱衣婆はその裂け目に入るや、裂け目はスーッと消えていった。


 事件以降、あの場所での通り魔事件は起きなくなった。

 ただ皐月と弥生にはその場を通る度に聞こえる、小さくて可細い風の音が、人に助けてもらい、そしてその人の怨みを晴らしたかまいたちの鳴き声のように聞こえていた。


第3話終了です。

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