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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第二十三話:件(くだん)
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陸・賭博


 警察庁の取調室には、先の不正取引の犯人である浦部が取調べを受けていた。

「好い加減、吐いてしまえ!」

 と、対面する刑事が、机をバンッと叩き脅す。

「これ以上話すことはない」

 浦部は素っ気無く言う。「笹倉刑事……」

 と、部屋に入ってきた婦警が笹倉刑事を呼び寄せた。

「なんだ? こっちは忙しいんだ」

「警視庁の人が……」

 婦警はそう云うと、少し横にずれる。

「警視庁?」

 笹倉刑事は首を傾げる。


「すまんな。無理を云ってしまって」

 初老の男が婦警に謝りを入れる。

「いえ、あなたがここに来たということは、()の所業ではないということでしょう」

 婦警はそう云うと、笹倉刑事に頭を下げ、部屋を出て行った。

「――あんたは?」

 笹倉刑事がそう尋ねる。

「初めましてじゃな。わしは元警視庁第五公安部の黒川と云うんじゃがな、あんたが浦部か?」

 拓蔵は浦部を一瞥する。

「公安の人間がどうしてここに?」

「あんた、牛頭野とかいう占い師と口裏合わせしておったじゃろ?」

 拓蔵がそう尋ねると、浦部は一瞬だけ拓蔵を一瞥した。

 その表情は驚きと同時に、諦めたような印象がある。


「口裏合わせ? どういうことだ?」

「口裏は『口占』とも書くでな。嘘も方便、牛頭野はお前の行動から出任せを言っていた」

 浦部は表情を変えない。

「出任せ? しかし、こいつは誰かを庇っているという」

「それこそ口裏合わせじゃよ。そもそもこいつは不正は不正でも、金銭での不正はしておらんかった」

「金銭での? しかしこいつは借金の返済を会社の金で……」

 笹倉刑事が顎を摩りながら唸る。

「その原因を作ったのは、お前の母親だった。しかもその母親……人を殺しておるじゃろ? しかも警察官を」

 拓蔵の言葉に、浦部は小さく震えた。


「――人を殺した? 出任せを云うな」

 笹倉刑事はパッと立ち上がり、拓蔵に詰め寄った。

「じゃったら、どうして母親が死んだ二日後に報せた? たとえ犯罪者であったとしても、すぐに報せてやるのが人の道理じゃろうが?」

 拓蔵は険悪な表情で吼えた。

「ふ、二日前? ど、どういうことだよ? 俺には今朝遺体が発見されたって」

 浦部が困惑した表情で訊ねる。

「で、出鱈目だっ! 出任せだっ! こいつの言ってることはすべて嘘だっ!」

 笹倉刑事は額に冷や汗をかく。


「証拠じゃったらあるぞ? お前たちの不正も……な」

 ドアが開き、中に湖西主任と波夷羅が入ってくる。

「あ、あんたたちは?」

 笹倉刑事が尋ねると、「警視庁刑事部鑑識課の湖西という死に損ないじゃよ」

「同じく、警視庁刑事部捜査一課の灰羅と申します」

 波夷羅はそう云うと、小さく頭を下げた。

「け、警視庁の人間がどうしてこんなに?」

 笹倉刑事は腰を砕いたかのように床にへたりこんだ。


「ちょっと別件でね……。笹倉刑事、あなたを浦部聖子(しょうこ)殺害の容疑で連行します」

「こ、こいつが、おふくろを?」

 浦部は困惑した表情で尋ねた。

「だけど母さんは心筋梗塞で……」

「心筋梗塞というのは急性がほとんどでな、予期せぬ症状なんじゃよ。それにあんた、こやつに嘘を吐いたじゃろ?」

 湖西主任はキッと、笹倉刑事を見遣った。

「な、何を云ってる?」

「ある刑事からのタレコミでな、浦部聖子の遺体が写った写真には、部屋がゴミだらけになっていたのが見えていたよ」

 拓蔵がそう云うと、浦部はギョッとした表情で「ちょ、ちょっと待ってくれ! 母さんは超が付くくらいの潔癖症なんだ。そんな人が部屋にゴミを置いておくなんて」

「ええ。わたしもそこが気になってました。おそらくあなたが逮捕されたというのを聞いた時、、精神に負荷が生じてしまい、あのような状況になったのでしょう」

 諸説あるが、ゴミ屋敷と云われる家に住む人の精神状態に、何かしらの精神異常が原因ではないかといわれている。

 そのひとつに『失ったものへの恐怖心』というものがあり、それが『不要』なものを捨てられない心理になると云われている。


「つまり、あんたら警察が遺体を発見するのが遅れたのは、ただたんに入りたくなかっただけじゃろ?」

「発見された部屋の中には、虫が()いていましたが、息子さんの部屋だけは綺麗なままでしたよ、おそらく足を洗って帰ってきて欲しいと思ったのでしょうね」

 波夷羅は浦部を見遣る。


「で、出任せを……」

 笹倉刑事はゆっくりと立ち上がり、「お前たちが警視庁の人間であるのかも疑わしい。そもそもこれは私たち警察庁の仕事だ! 関係のないものはすっこんでいろ!」

 笹倉刑事がそう怒鳴り散らす。

「じゃから、別件と言ったじゃろ? わしらが用のあるやつはあんたなんじゃよ?」

 拓蔵はビシッと笹倉刑事に指差した。

「わ、私は何も知らない……」

 笹倉刑事は顔を震わせ、壁際、窓の近くまで背中を向けた。


「……っ?」

 波夷羅は怪訝な表情で辺りを見渡した。

「どうした? 波夷羅……」

 湖西主任が尋ねたその時である。

 ゾワッとした寒気が拓蔵、湖西主任、波夷羅の全身を駆け巡ると同時に、突然窓が割れ、笹倉刑事は体を地面に持っていかれた。


 グチャッという奇怪な音が聞こえ、拓蔵たちが窓から覗き込むと、そこには無残な姿で横たわった笹倉刑事の成れの果てがあった。

「波夷羅、すぐにさっきの気配を追え!」

 湖西主任が大声で叫ぶと、「――御意っ!」

 波夷羅は細長い龍となって、窓から消えた。


 ――数分後、笹倉刑事の遺体が警察庁の中に運び込まれていくのを、拓蔵と湖西主任は外で見届けていた。

「浦部の件、どうやら笹倉が糸を引いていたようだ。それと浦部聖子の部屋から、彼女以外の指紋が出てきたよ。そっちはまだ検査中だが、恐らくお前の期待は裏切らんだろうさ」

「だといいんだがな。それで浦部は?」

「浦部の罪はあくまで税金逃れの不正行為。厳密な処罰を受けることにはなります」

 そう話すのは、先ほど拓蔵と湖西主任を取調室に入れた婦警であった。


「ももちゃんや、少し時間はあるかえ?」

 湖西主任がそう云うと、「あ、はい。少しくらいなら」

 婦警――東条(すもも)は答えるように頷いた。

「そうか。拓蔵、わしは署に戻る。わかったら連絡するからな」

 そう云うや、湖西主任は迎えに来た車に乗り込み、立ち去った。


「一体何を考えとるんじゃ?」

 と、拓蔵は首を傾げる。李に時間はあるかと聞いた本人が帰ったためだ。

 拓蔵が李を見遣ると、李はハッとした表情を浮かべると俯いてしまった。

「なんじゃ? 気になることでもあるのか?」

「い、いえ。別に……。や、薬師如来は何を考えているんでしょうかね?」

 李がそう云うと、「まさか、あの爺さん……。ああ、もう、わしはもう瑠璃さんだけじゃというに」

 拓蔵は顎鬚を擦った。


 李はそれを見るや、「本当に変わってませんね。自分に都合が悪いことがあると、すぐそうやって顎を擦る」

 と、小さく笑顔を零した。

「癖じゃからな。まぁ、あんたが人の心を読まんだけましじゃがな」

 拓蔵が苦笑いを浮かべる。

「もう、昔のことは忘れてください。今じゃ、人の心を読む怖さを知ってるんですから。それに瑠璃さんから云われましたよ、『わたしは人の行動がすべて見れても、あなたみたいに心が読めるわけではない』って」

 李はそう云うと、顔を俯かせた。


「じゃから、あえて十王はあんたを警官にさせた。ここじゃったら嫌でも人間の心を見ることが出来るからな」

「人の心ほど、怖いものはありませんよ」

 李はそう云うと、「それで、浦部の心はどうじゃった?」

「笹倉が母親を殺したかもしれないと聞いた時、心に乱れがありました。それと牛頭野という占い師のことを聴いた時も同様に。ただ……」

「――ただ?」

「一応、拓蔵さんだけには報せておいた方がいいかと思って、薬師如来の前では云わなかったんですが、どうやらぬらりひょんの手の者だったようなんです。ほら、先日テレビで浦部の母親の事を云っていたじゃないですか? 警察が発表していない事を、何故彼女が知っていたのかを考えると、いの一番に警察と通していたか、事件の当事者だったかなんですよ」

「云われてみればたしかにな。よし、その牛頭野という占い師のところにいくか」

 拓蔵がそう云うと、「無理ですよ。有名な占い師ですからね、会えるかどうか、わたしたち警察ですら、やっと三分ほど話が出来たくらいですから」

 李にそう言われ、拓蔵はぐぬぬと唸った。


久し振りの更新です。そして、また新キャラ出てきちゃいましたね。

まぁ、李に関しては、またいつか機会(書く気)があればやろうかなと思います。

因みにどんな人物なのかは、ここだけでもなんとなくわかります。

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