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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第二十三話:件(くだん)
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弐・意外な客人


「ごめんください」

 と、冷たい秋空の下、男が稲妻神社の社務所に訪れていた。

「はい。何の御用でしょうか?」

 職員巫女が応対すると、「こちらに黒川拓蔵さんはご在宅でしょうか?」

 そう訊かれ、職員巫女はうしろを見やった。

 男の声が聞こえた拓蔵が足早に出てくる。

 そして男を見やるや、顎鬚を摩った。

「お久し振りです」

 と、男は頭を下げる。

「すまんが、応接間に彼を通してくれ」

 拓蔵がそう云うと、職員巫女は頷き、男を奥の応接間へと案内する。その様子を拓蔵は首を傾げながら見ていた。

 ――はて、あんな男、知り合いにいたか?

 拓蔵はそう思いながら、二人の後を追った。


 応接間には畳半畳ほどの大きさがあるテーブルを挟むように、ソファが置かれている。

 拓蔵と男は対面するように座ると、職員巫女がお茶を二人に渡した。「それでは失礼します」

 そう言って、職員巫女は部屋を出て行った。


「それで、あんたは一体何者なんじゃ?」

 拓蔵がそう訊ねると、「わたしはこういうものでしてね」

 そう云うと、男は懐から黒い手帳のようなものを取り出したが、拓蔵はそれがなんなのかが一目でわかった。

 いや、彼でなくても、この男と同職であれば云わずもかな判ってしまう。

「――警察が何の用じゃ?」

 拓蔵が険しい表情を浮かべる。

「こちらに腕利きのいい元警官がいると聞きましてね。少しばかり助言がほしいのですよ」

「助言するしない以前に、名乗ったらどうなんじゃ?」

「これは失礼。ですがあなたが話の腰を折ったのは間違いありませんが?」

 男にそう云われ、拓蔵は顔を歪める。


「私、渡辺篤志(あつし)と申します。階級は()()、警視となっています」

 その言葉に、拓蔵は違和感を感じる。

「あんた、キャリアか?」

 拓蔵は渡辺の容姿を見て、そう訊ねた。

 渡辺は三十代ほどで、キャリア組が警視になるのは大体それくらいだからである。

 拓蔵はノンキャリア組であるが、経験や実績で警視までなっている。

 とはいえ、なったのは警察を辞める一年前であったが……。


「いいえ、いいえ、こちらに来た時からですよ」

 渡辺の言動に拓蔵は眉を顰めた。

「そうか……。で、わしに何の用じゃ?」

「実は、ちょっと霊視してほしいんですよ。ほら最近話題になっている不正行為で逮捕された浦部という社長の話、お耳にしていると思いますが?」

 そう云われ、拓蔵は先日葉月が見ていたテレビを思い出した。

「それがどうかしたのか?」

「実はですね、逮捕された浦部の母親が自殺していたのを、警察は隠していたんじゃないかというね……」

 渡辺がそう話すが、拓蔵は特に変化を見せなかった。


「警察は浦部に母親を殺したのはお前だと云っているんですよ。こちらも吐かせるのに苦労しましたけどね」

 渡辺はそう言いながら、肩を窄めた。

「で、実際に母親は亡くなっていましたよ。ただ自殺というより、栄養失調による衰弱死なんですけどね。まぁ、浦部が逮捕されて精神的に駄目になったんでしょう」

「それを、どうしてわしに云うんじゃ?」

「ですから、その()()が知りたいんですよ。本当に母親は死亡推定時刻に死んでいたのか」

 渡辺がそう云うと、拓蔵は訝しげな表情を浮かべる。

「警察が死亡推定時刻を(いつわ)っているというのか?」

「浦部が態度を急変されたのは、牛頭野という占い師が言葉を発した三日前ほど。母親が死んだのはその二日前だったんですが……」

 渡辺は一度深呼吸し、「でも、母親が死んだのはそれよりももっと前だったんですよ。もともと心臓病を患っていたらしいですからね」

「なら、どうして衰弱死と判断したんじゃ?」

 拓蔵がそう訊ねると、渡辺は呆れたような表情を浮かべた。


「その方が()()()な《、》()と思ったんじゃないんですかね?」

 渡辺の言葉に、拓蔵は一瞬理解出来なかった。

「――演出? 演出とはどういう事じゃ?」

 拓蔵が身を乗り出すように訊ねる。

 渡辺はゆっくりと茶を飲むと、「つまり、警察はマスコミに尋問内容を公開していないんですよ。まぁ、浦部が不正行為をしていた理由は、母親の病気を治すためだった。というのは事実ですが、母親をネタに吐かせていたのは真っ赤な出鱈目だったというわけです」

 渡辺は肩を窄めると、拓蔵を見やった。


「――私はこの事件、裏があるのではないかと見ています。それに牛頭野という占い師が、浦部は誰かを庇っているとも云っていました」

「それも演出ではないのか?」

 渡辺は拓蔵の質問に答えるように首を横に振った。

「いえ、そう思いましたが、どうも違うみたいなんですよ。それにその牛頭野という女占い師も少し気になってるんですけど、詳細がまったく……」

 渡辺はそう云うと、壁にかけられている時計を一瞥し、「そろそろ署の方に戻ります。何がありましたら、警視庁にいる波夷羅を尋ねて下さい」

「波夷羅……っ? まさか、あんた文殊菩薩か?」

 拓蔵がそう訊ねると、渡辺は小さく笑みを浮かべた。


 十二神将の一人である波夷羅の本地仏は文殊菩薩である。

 本地というのは『本来の姿』を意味している。

 つまり、本地仏は『仏教の仏でありながら、神道の神でもある』という意味がある。

 例を挙げると、天照大神は大日如来。大黒天は大国主。機織(はたおり)の神と云われている稚日女神わかひるめのかみは毘沙門天と様々であるが、そもそも本地仏、並びに本地垂迹(ほんじすいじゃく)や神仏同体説というものは、神と仏は一緒であると日本人が勝手に決めたものである。(今日の仏の元となっている、ヒンドゥー教などからしてみれば、閻魔王ヤマ吉祥天ラクシュミーなど神なので間違ってはいないが)


「――霊視してもらいたいとは云っても、写真がなければなんとも」

 拓蔵が首を傾げる。

 ふと渡辺が座っていたところを見ると、ソファの上に写真が置いてあり、それには初老の女性の遺体が写っていた。


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