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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第三話:窮奇(かまいたち)
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伍・立ち退き

「リストラですか?」

 阿弥陀が大宮とともに、殺された沢口希の近辺を調べていると、町工場自体も結構な借金を抱えていた事がわかり、夫である芳信(よしのぶ)は二重の苦しみを受けていた事がわかった。

 社員を(やしな)うにも工場を運営するにも金は必要になってくる。

 増してや工場というのは作るのは大前提に研究費も必要になる場合がある。

「その事を妻である沢口希は知らなかったんでしょうかね?」

「どうやら夫は物作り以外はてんで興味がなかったみたいなんですよ。会社と云ったって父親がやっていたのをそのままもらったらしいですしね」

 そう二人が話している間、大宮が運転する車は工場の前に来ていた。


「それで……こうなっちゃってるわけですか?」

 沢口希が住んでいるところを探してみると、なんともまぁ見事にぼろく、月とスッポンといった感じである。

 借金がだいぶあったらしく、その返済に工場全体や住まいである一軒家とその土地、家具やら金目になるものはすべて差し押さえられたらしいが、それでも足りなかったようだ。

「自分の持ってる宝石でも売ればいいのにねぇ」

 阿弥陀が呆れ顔で大宮を見る。考えてみれば、沢口希が作った借金は自分を大きく見せようとしたことで招いてしまったことだ。

「それにしても工場に一軒家、家具やら何やら……、売っても足りないってどれだけ借りてたんでしょうかね?」

「たしか十億とか何とか」

 それを聞くや阿弥陀は飲み始めていた缶コーヒーを吹き出してしまい、車内のインストアッパートレイの上がコーヒーまみれになった。

「じゅ、十億って……、まぁ足りないといえば足りないでしょうね」

「いや、それがまともなところならいくらか話がつくんでしょうけど」

 その言葉に阿弥陀は首を傾げたが、即座に借金が闇金だったことに気付く。「――利息は?」

「まぁ、オーソドックスにトイチみたいですね」

 借金していた金融会社に連絡をするが、まぁ当然と言えば当然で、すでに使われてはいなかった。

「皆さんもお金を借りる時は、相手がちゃんとしたところかどうかを確認してからかけましょう」

「警部、どこに向かって云ってるんですか?」

 大宮にツッコまれ、阿弥陀は咳払いをして誤魔化した。


 車は工場があった更地に着いた時だった。阿弥陀は「あれ?」

 と思い、窓を開けると気配を消した。

「警部、どうしました?」

 大宮が声をかけるが、阿弥陀は人差し指を唇に添え言葉を遮った。

 そして視線でそれを示す。

「なんですかね? あれ……」

「いたちみたいですね」

「何でこんなところにいたちが?」

 それはこっちが聞きたいと、阿弥陀は目で訴えた。

 目の前には薄茶色のいたちが一匹、更地に現れてはぽつんと立ち尽くしている。

 福祠町は都会とまでは云わないが、それでもいたちが出てくることは珍しい。

 首輪は付けられていない。野良のようだ。

「あっ!」

 大宮が声を出す。その声に吃驚してではなかったが、いたちはどこかへと去っていった。


 二人は車から降り、先程までいたちがいたところを探していると……。

「なるほど、こんなところから出てきてたんですね」

 コンクリートの壁に小さな穴がポッカリと空いており、いたちや子猫くらいの細長かったり、小さい動物なら簡単に出入りできる大きさだったが、成長した猫では入れない大きさでもあった。

「壁のうしろに家がありますけど、そこで飼ってるんですかね?」

 そう大宮が尋ねるが、阿弥陀はその答えに気付いていた。

「いや『飼えない』はずですよ。だってあそこ、五年前に事件があってから誰も住んでいないはずですから」

 そう話す阿弥陀の表情は険しかった。

 五年前に起きた惨殺事件の被害者である沢口修造は、殺された沢口希の夫、芳信の兄である。

 一つ溜め息を吐くや、阿弥陀は大宮とともに、車でそちらに回り込んだ。

 そして玄関前に来て、嫌な物を見た。


「借金返せっ! この泥棒っ!」

 阿弥陀は壁一面に書かれている文字を読んでいるだけだった。

「ヤミ金業者はこんな事もしていたんですかね?」

 壁の文字はペンキで書かれており、簡単には落ちそうにない。

「おや? 見ない顔だねぇ」

 隣りの家から声がし、二人はそちらを見る。

「これはこんにちわ。あの、ひとつ訊いてもいいですかな?」

「ああ、ええよええよ。何でも訊きなされ」

 物腰の低い好々爺(こうこうや)だなぁと思いながら、阿弥陀は質問内容を考えていた。

「実は裏側にある町工場があった更地を見てましたらいたちが出てきましてね。で、こっちの方に逃げていったんで確認しに来てたんですよ」

「ほうかい。お前さんたちもあん子らに化かされたんかねぇ」

 何か話がずれている気がするが、その事を確認すると老人はクスクスと笑った。

「昔はなぁ、いたちは狐や狸と一緒で人を化かすって云われておったんじゃよ」

 そう話しながら老人は沢口修造宅を眺めていた。

「あん子らとは?」

「あそこに住んちょったいたちじゃよ。主人が殺されて野生に戻る事も出来んかったからなぁ……わしが育てておったんじゃよ」

 そう云えば事件当時どういう訳か沢口修造が飼っているフェレットが見つからなかったと、昔聞いたことがあったことを阿弥陀は思い出す。

「そのフェレットは今もご老人が?」

「うんにゃネズミ捕りにはいいんじゃがなぁ、やっぱりもといた場所が恋しんじゃろうな」

 老人の家から電話が鳴る音がし、老人は慌てて家に入っていった。

「そう云えば、あの事件も今回と似てるんですよね」

「どう云った事件だったんですか?」

 と大宮が尋ねるが、阿弥陀の話しを聞いた後には、どんよりとした表情で聞かなかった方がよかったと口にした。


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