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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第二十一話:幽谷響(やまびこ)
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参・片手落ち

意味は本編で話しているので割愛します。意味がまったく違う言葉を狩るのは如何なものかと思う。


「えっと……新作チョコはっと……。あ、あった。うわぁ、あと一個しかなかったんだ」


 学校の帰り、コンビニで新発売のチョコ菓子を探していた皐月が、商品を手に取り、カラになった棚の列を見遣っていると、


「ドロボウは駄目……」


 という、男の子の声が聞こえ、皐月はそちらを見遣る。

 そこには、ランドセルを背負った響の姿があった。


「ドロボウって……。私はちゃんと買うから、ドロボウじゃないわよ」


 皐月はそう言うと、他にほしい物や頼まれた物もなかったので、そのままレジに進み、商品を購入する。


「ほら、ちゃんと買ったんだからドロボウじゃないでしょ?」


 皐月がそう云うが、響は外方を向いていた。


 ――変な子……。葉月と同じくらいの子みたいだけど。


 皐月が首をかしげていると、店の自動ドアが開いた。


「響、こんなところにいたのか?」


 托鉢僧が慌てた表情で店の中に入ってきた。


「まったく、少し目をはなすとこうだ。少し待っていてくれがいかんかったな」


 托鉢僧は自分に対して愚痴をこぼすと、響の視線に合うよう、中腰になる。

 そして、キッと険しい表情浮かべ、「勝手に行ってはいけません」

 そう叱ると、響は「ごめんなさい」

 と、謝った。


「……せっかく来たんだ。今日は何か買ってやろう」


 托鉢僧は、ふところから財布を取り出し、響に言う。

 響はお菓子売り場のところに行き、先ほど皐月が買っていた商品のところを見たが、先ほど皐月が買ったため、商品はない。


「残念だな……、欲しいのがないのか?」

「……ないです」


 響は頬を膨らませる。その目にはうっすらと泪が出ていた。


「あ、あの……、よかったら、一緒にどうですか?」


 皐月が声を掛けると、托鉢僧はそちらに振り返った。


「……閻魔王の孫娘」


 托鉢僧がそう言うと、皐月は首をかしげる。托鉢僧はつぶやいたため、耳が悪い皐月には、言葉が聞こえてはいなかった。


「あ、いや……。この子に変な癖をつけてはいかんし、商品が必ずしもあるとは限らないことを学ばせないとかんのでな」


 そう言うと、托鉢僧は響の頭を撫でる。


「響、他のやつにしたらどうだ?」


 そう言われ、響はすぐそばにあったヒーロー物のお菓子が目に入り、それを手に取った。


「それにするのか?」


 そう訊かれ、響は小さくうなずいた。

 托鉢僧は響の手を取り、一緒にレジへと向かう。


「商品とお金をレジの人に渡します。レジの人がお釣りと商品を渡してくれます。商品は響のものになりました」


 托鉢僧がそう説明すると、響は納得した表情で、商品を抱える。


「響、今日はお前の好きなカレーにしてやろう。材料を切るのを手伝ってくれ」

「はじめちょろちょろなかぱっぱあかごないてもふたとるな」

「ははは。それはご飯を炊く時のやつだ」


 托鉢僧と響は、楽しそうに店を出て行った。


 ――なんだったんだろ? あの親子……。


 皐月はそう思いながら、コンビニを後にした。



「大宮巡査が福嗣小の前にいた?」


 夕食時、皐月は葉月から放課後にあったことを聞かされる。


「うん。なんか私たちの靴のサイズとか、裏を見せてくれとか云ってた」


 話をしている葉月も、どうしてそこにいたんだろうと、不思議そうな表情を浮かばせる。


「大宮巡査、皐月に()きて……、どんどんダークサイドに」


 弥生がそう言うと、「変なこと云わないでよっ! ってか、ダークサイドって何? ダークサイドって」

 皐月がそう怒鳴る。


「大宮くん以外には誰かいたのか?」


 拓蔵がそうたずねると、葉月は首を横に振った。


「何か事件でもあったのかなぁ? 靴のサイズとか、裏ってことは、現場に跡があったって事だろうし」

「しかし、警察は基本二人一組で行動するのが決まりじゃからなぁ、それに葉月が下校する時間となると、まだ勤務中じゃろうし」


 そう言われ、葉月は答えるようにうなずく。


「皐月、大宮巡査に、そこはかとなく事件の事訊いてみたら?」


 弥生がそう言うと、皐月と拓蔵は彼女を見遣った。その目は少しばかり(さけず)んでいる。


「警察は家族にも事件のことを話してはならんのじゃよ。彼らがわしらを頼ってきてくれるのは信頼しておるから、事件の内容を教えてくれるんじゃ。今は訪ねに来るのを待つ以外ないじゃろ?」


 拓蔵にそう言われ、弥生は肩を窄めた。


「そう言えば、葉月? そろそろしたら鮎川燈愛が出るって云ってた音楽番組があるんじゃない?」


 皐月が思い出したようにそう言うと、葉月は拓蔵を見遣った。食事中はテレビを見てはいけないというのが、この家でのルールである。


「別にかまわんよ。ただし、手と口は動かすこと。ボーとして零したり、食べるのが遅くならないようにな」


 そう言われ、葉月はテレビのリモコンを手に取り、電源を入れた。

 ちょうど番組が始まり、出演者紹介のところである。


「燈愛さん、なんか吹っ切れたって感じよね?」


 テレビに映っている燈愛を見ながら、弥生は言った。


「彼女が川姫に取り憑かれていたというアイドルか」


 拓蔵がそうたずねる。


「まぁ、本人はその正体を知っていたし、取り憑いていた川姫も、特に悪い事をしていたわけじゃないからね。今は彼女自身の実力でやってるみたい」


 そう話していると、テレビに映る燈愛に司会者が質問しようとしていた。


『そう言えば、燈愛ちゃんは今度ドラマに出るんだって? それに写真集も出すみたいだね?』

『はい。色んな仕事をして、もっと視野を広めたいなって』


 そう話している燈愛を見ながら、「アイドルやめるのかなぁ?」

 と、葉月は寂しそうな目でつぶやいた。


「別にアイドルを辞めるってわけじゃないでしょ?」

「でもその仕事が忙しくなったら、アイドルの仕事出来なくなるんじゃない?」

「そうならないように、自己管理するのも芸能人の仕事でしょ?」

「しかし、他の事に手が回って、そちらに行くならまだしも、片手落ちになるのだけは気に入らんがな」


 拓蔵がそう言うと、三姉妹は首をかしげた。「燈愛さんは別に片手がないわけじゃないよ?」

 葉月が、ムッとした表情で拓蔵に言う。


「はははっ! 葉月、『片手落ち』というのは、二つあるうちのどちらかひとつにだけ集中してしまい、もう片方を(おろそ)かにしてしまうことをいうんじゃよ。『手』というのは、そのままの意味の手ではなく、仕事や手段の事をさす。手落ちというのは、手を抜くという意味なんじゃよ」

「でも、聞きようによっては、差別的な言葉だけどね」


 弥生がそう言うと、拓蔵はちいさくうなずいた。


「そういう意味では、目眩(めくら)ましもそうじゃな。そもそも目を(くら)ませるという意味で、『(めくら)()す』という意味ではないし、文法的にも可笑しい。そもそも盲という言葉は、比喩であって病名ではない。正確に言えば、失明するといった方が合っておる」


 そうこう話している間に、鮎川燈愛の出番が終わってしまい、葉月は聴くのに集中出来ず、しょんぼりとしていた。



 夜も静まった午後十時、小さなアパートの窓際で、男は紫煙を吹かしていた。窓から差し込む十五夜の月が、寝静まった響の顔を照らしている。


「ぐっすりと眠っていますね」


 部屋の隅で女性が男に声を掛けた。彼女の髪は、まるで濡れたように艶やかである。


濡女子(ぬれおなご)か……。片付けご苦労だったな」


 男がそう言うと、濡女子は小さく笑みを浮かべたが、次第に哀れむような形相へと変えた。


「そろそろ悪鬼の正体もわかってきたのでしょう? 夜行(やぎょう)……」

「ああ、鴉天狗と田心姫の協力を以って、やつの監理をしていたからな」


 夜行は自分の左腕を握り締める。


「言霊使いとして、やつの命令を聞いているのは釈然としないが、やつはあの二人の心に付け込んだ。特に鴉天狗の過去を(うそぶ)いてな」

「しかし、鴉天狗が親を殺した事に変わりありません」


 濡女子がそう言うと、夜行は顔をゆがませる。


「だからこそ、彼女は地獄で罪を償わなければいけない。だがこれ以上やつの思惑通り事が運べば、彼女の罪はなかった事になってしまう」


 夜行は歯を軋らせた。



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