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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第二十一話:幽谷響(やまびこ)
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弐・衝突


「死亡推定時刻は午前一時前後。死因は階段から転げ落ちた時に頭を打った」


 大宮が、阿弥陀に報告する。「頭をぶつけたのが致命傷でしょうね」

 阿弥陀はそう言いながら、遺体となって発見された野山治樹を見遣る。


 時刻は午前六時。明朝の通報で、彼らは現場となった歩道橋へと遣ってきていた。


「足を滑らせたんでしょうか?」

「それだったら、頭が階段のほうに向いてると思いますよ。上っていた時に前から押されたなら別ですけど、多分下りていた時に滑り落ちたんでしょうな」

「でも足を滑らすといっても、昨日は雨が降ってませんでしたし、被害者がアルコールを摂取していた可能性はないと、湖西主任が云ってましたよ」


 大宮はそう言うと、治樹の服に変な跡がある事に気付く。


「足跡? なんでこんなところに?」


 治樹の遺体は横向けに倒れており、足跡は横腹に付いている。


「誰かが踏んだんでしょうかね?」

「遺体があるのにですか? いくらなんでもそれはないでしょ?」


 阿弥陀がそう言うと、大宮は足跡を広げてみた。


「大体二十センチくらいですね。この大きさだと小学生でしょうか?」

「でも亡くなったのは午前様ですよ? そんな時間に子供が起きてますかね」


 阿弥陀の云う通りだと大宮は思ったが、その足跡がどうも気になって仕方がなかった。遺体が横を向いて倒れていない以上、足跡は付かない。


「まぁ、事故か殺人かはまだわかりませんね。検死と鑑識の結果を待つしかないですな」


 そう言われ、大宮はうなずいた。



「それじゃぁ、この前の漢字テスト返すわよぉ」


 葉月の担任である鶴見がそう言うと、クラス全員が文句を言い出した。一人一人名前を呼ばれていき、テスト用紙が返されていく。


「葉月ちゃん、どうだった?」


 市宮がそうたずねると、葉月は小さくピースマークする。


「百点とれた」

「すごい、私なんて二問間違えてたよ」


 二人がそう話していると、「――響くん」

 と鶴見は、響の席まで足を運ぶ。


「はい。この前のテスト。頑張ったね。百点だよ」


 そう言いながら、鶴見は響にテスト用紙を渡した。


「すんげぇなぁ。また百点かよ」


 クラスの男子や、響の周りの席に座っている生徒が、ワイワイと騒ぎ始める。


「みんな静かにっ! ほら、授業始めるわよ」


 鶴見がそう云うと、騒いでいた生徒たちは静かに座り、黒板の方に目を遣った。


 その日の昼休み、教室の中はワイワイと賑わった。


「くらえ! サンダーキック」「あまい! サンダーパンチ」


 と、男の子たちが(じゃ)れあっている。

 そんな中、響は机で本を読んでいた。


「ねぇ、葉月ちゃん? 葉月ちゃんって、なに座?」

「えっと、おとめ座だけど、それがどうかしたの?」

「実はちょっと占いにはまってるんだよね」


 そう言いながら、女子生徒の一人が手に持っていた雑誌を広げる。


「それ、学校に持ってきちゃ駄目じゃないの?」


 市宮がうしろからそう言うと、女子生徒はちいさく舌を出した。


「いいじゃん。あ、市宮さんってふたご座だっけ?」


 そう言われ、市宮はうなずく。


「えっと、ふたご座の今月の運勢は……」


 その先を読もうとした女子生徒の手から、市宮は雑誌を取り上げる。


「はい没収。学校に関係ないのを持ってこないように」

「えー、いいじゃん別にぃ」


 女子生徒は頬を膨らまし、市宮をにらむ。


「先生に云われてもいいの?」


 市宮がそう言うと、女子生徒は黙り込んだ。


「大丈夫。先生には云わないし、放課後になったら返すから」

「本当に?」


 女子生徒に聞かれ、市宮はうなずくと、雑誌を自分の机の引き出しに仕舞った。

 そうこうしている内に昼休みを終了するチャイムが鳴り、運動場に出ていた生徒がちらほらと戻ってきた。


「さてと掃除始めようか? 机うしろにまわして」


 市宮がそう言うと、クラスメイトが各々(おのおの)の椅子をひっくり返して机の上に置き、教室のうしろに置いていく。


「響くん、昼休み終わったよ」


 葉月が声を掛けたが、響は本を読むのを()めない。


 ――えっと……、たしか普通に声をかけちゃダメなんだっけ?


 葉月がそう考えていると、「おい、霞谷(かすみや)っ! ちょっと動いてくれよ」


 男子生徒が割って入り、男子生徒が響を椅子から退()かす。


「あっ……」


 葉月が声をあげる。


「ったく、お前頭がいいくせに(のろ)いよなぁ」


 そう言いながら、その男子生徒は響の机の上に椅子を乗せ、うしろへと運んでいく。響はそれを呆然と見ていた。


「ほら、黒川は廊下の掃除だっただろ?」


 そう言われ、葉月は少し響を見遣る。

 響はただ呆然と、なにがあったのかわからないといった表情で、首を頻りに動かしている。


「ほら霞谷、さっさと掃除手伝ってくれよ」


 男子生徒は手に持った箒を響に付き渡す。


「――いやです」


 響がそうつぶやくと、「――あっ? んだと?」

 男子生徒が顔を引き攣らせ、響をにらむ。


「――こわいです」


 そう云うや、響は教室を出て行った。


「ちょ、ちょっと? なにがあったの?」


 教室に戻ってきた鶴見が、教室にいるみんなにたずねる。


「そ、それが響くんが急に出て行っちゃって」

「あいつ可笑しいんじゃね? こっちは手伝ってほしいのにさぁ」


 先ほどの男子生徒が愚痴を零す。


「ね、ねぇ……、葉月ちゃん?」


 ドアの方から声が聞こえ、葉月はそちらを見遣ると、隣の教室にいる浜路が声を掛けてきていた。


「さ、さっきすごい勢いで廊下走っていった子がいたけど、何があったの?」


 そう訊かれ、葉月はどう答えればいいのかわからなかった。

 その日、響が教室に戻ってくることはなかった。



「うーん、失敗したなぁ」


 そうつぶやきながら、葉月はしょんぼりとした表情を浮かべる。

 授業が終わり、葉月は市宮と帰ろうとしていた。


「なにか失敗したの?」


 そう市宮がたずねると、「ほら、今日掃除の時に、響くんが教室から出ていっちゃったでしょ? あれ、私も悪いことしたなぁって」


 そう言われ、市宮は首をかしげる。


「先生がみんなに云ってたじゃない、響くんはみんなと少し違うところがあるって」

「あぁ、確かに頭がいいんだけど、ちょっとみんなと違うんだよね?」

「たしか先生が作業を止めさせる時は、なにか紙に書いてあげた方がわかるって云ってたの、出て行ってから思い出したんだよね」


 葉月はそう言いながら、学校の校門の前に停まっている車に目を遣った。


「あれ? 葉月ちゃん、今帰りかい?」


 車に(もた)れている大宮が、コーヒーを飲みながら、葉月に声を掛ける。


「――大宮巡査?」


 と、葉月は首をかしげる。


「そうだ。葉月ちゃん、靴のサイズっていくつ?」


 そう訊かれ、葉月は首をかしげた。


「何か事件でもあったんですか?」

「いや、ちょっとね……。まぁ参考までに」


 大宮は頭を掻きながら、申し訳ない表情で言う。


「えっと、私は二十一ですけど」

「私は二十です」


 葉月と市宮が自分たちの靴のサイズを言うと、大宮は靴の裏も見せてほしいとお願いする。

 葉月と市宮は片方の靴を脱ぎ、大宮に靴の裏を見せる。

 大宮はそれを携帯に撮り、靴を返した。


「あの、もしかしてロリコンですか?」


 市宮がそうたずねると、大宮は否定するように、苦笑いを浮かべる。


「美耶ちゃん、大宮巡査は警察の人だから、そんなことはないと思うよ」

「そ、そうだよ。それにちょっと参考にさせてもらうからさ、二人ともありがとう」


 大宮はそう言うと、車に乗り込むや、走り去っていった。


「変な大宮巡査」


 葉月は首をかしげ、消え去る大宮の車を見送った。



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