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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第十九話:轆轤首(ろくろくび)
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拾・目的


 拓蔵ははてさてどうしたものかと頭を抱えていた。

 と言うのも、坂本隆平殺害の犯人である、妻の徳子は既に亡くなっており、証言が得られない。

 更には鳥居宏明殺害についても、結局(わか)からず(じま)いである。

「浄玻璃鏡で見れないんですか?」

「こっちにいる時は、自分の力で真相を知りたいと思っています。確かに浄玻璃鏡は死者が何をしていたのかを知る時に便利ですが、それをこちらで使うのは卑怯だと考えています」

 瑠璃が説明すると、拓蔵は首を傾げ、小さく唸った。

「それで、上にはなんて説明するんですか?」

 拓蔵の質問に、瑠璃は首を傾げる。「坂本夫妻の件は妻の死亡によって迷宮入りした。だけど家の中には友人の死体がありましたし」

「それだったら、夫を殺したのが妻だと知り、それをネタに脅迫していた――になるんじゃないですかね?」

「そんなのでいいんですかね?」

「最初の捜査会議で私が云いましたね。『シュレーディンガーの猫箱』のこと覚えてます?」

 そう訊かれ、拓蔵は頷くと、ハッとした表情で「それじゃ、最初から気付いていたんですか?」と聞き返した。


「本当の猫箱は、作業場ではなくあの屋敷全体だった。考えてもみてください。坂本隆平が作業場にいたと供述出来るのは?」

「そりゃ坂本隆平の家族か弟子…… あ、そうか。つまり作業をしていたとも云えるし、していなかったとも出来る」

「遺体が発見されたのは作業場ではなく道中。当然これだけでも不自然ですが、水本の証言で、昼食を促しても出てこなかったと云えば、何時出てきたのかわからない事になる」

「つまり、作業場から坂本隆平自身が出て行ったという証言も可能だと言う事ですね。でもそれでどうして犯人が妻である徳子になるんですか?」

 拓蔵がそう訊ねると、瑠璃はそれに関して何も答えなかった。

 ただ一言『知る必要のない真実は知らない方が身の為』と嘯いた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さてと、犯人はどこにおるかいな」

 警視庁に電話があった場所の特定が出来、佐々木刑事や、その他の警官らが発信源のあった公園内にある公衆電話の前に集合していた。

「不審な人物はいないようですね」

「まぁ、わしらは電話が切れた後じゃったからな、逃げるには十分じゃろうて」

 佐々木刑事はそう言うと、「仕方ない。一応周辺を探索。何もなかったら連絡をし、解散と言う事にしましょう」

 時刻は夕方6時過ぎ。本来なら事件がなければ、帰宅が出来るのだが、脅迫紛いの電話があり、それに居合わせた警官らは捜索に参加させられていた。

 警官らが公園内に散らばったのを確認すると、佐々木刑事は険しい表情を浮かべた。


「あなたの仕業だったんですか?」

 林道の茂みに向かってそう尋ねる。

「いや、わしは今来たところじゃよ――懸衣翁」

 林から出てきた老人がゆっくりと佐々木刑事に近付く。

「しかし閻魔王さまがカンカンですよ。大宮巡査が襲われた原因はあなたにあると」

「弁解の余地はないな。その事に関しては珊底羅に頼んで報せに行ってもらっている」

 老人――虚空蔵菩薩がそう言うと、その横に炎が現れた。


「虚空蔵菩薩さま、珊底羅ただいま戻りました」

 炎は人の形になり、女性の姿になった。

 その姿を見るや、佐々木刑事は首を傾げ、ハッとした声を挙げる。

「あんた、確か前に阿弥陀が連行しとった占い師じゃないか?」

「その件は大変お世話になりました。いくら鑑定した立場だったとはいえ、犯人扱いされたんですから」

「珊底羅が十二支における午というのは知っておるな。午は五行における陽の火であり、飛縁魔の語呂ともなっておる」

 虚空蔵菩薩がそう言うと、佐々木刑事は丙午を連想した。


 十干十二支という言葉がある、

 十干は『きのえきのとひのえひのとつちのえつちのとかのえかのとみずのえみずのと』の事であり、これを陰と陽にわけ、十二支をかけたものが還暦を意味している。

 還暦は数え年で61歳の祝い事で、自分の干支が一周したことを祝うためであり、『還』は(かえ)るという意味がある。

 なお『~え』は陽を表しており、『~と』は陰を意味している。


「ところで懸衣翁、朽田健祐のことは覚えておるか?」

 虚空蔵菩薩がそう訊ねると、佐々木刑事は首を傾げた。

「いや、そんな人物は知りませんが」

 そう答えると、虚空蔵菩薩と珊底羅は互いを見遣った。「やはり、覚えているのは、十王と、十二神将くらいのようですね」

「これも(きゃつ)の力によるものか…… 六年前起きた事件も結局それでお蔵入りされてしまったと考えると合点がつく」

 虚空蔵菩薩は悔しそうに唇を噛み締めた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ただいまぁ」

 稲妻神社の母屋の玄関から、皐月と葉月の声が家の中で響き渡った。二人の手には小さなバックが持たされている。

「お邪魔します」

 続いて信乃と浜路の声が謝りを入れる。


「ちょっと待ってて、お茶の用意するから」

 皐月はそう言うと、居間の方へと入っていく。

 葉月と信乃、浜路の三人は、そのうしろをついていくと、丁度居間の襖を開けた皐月が立ち止まっていた。

「皐月お姉ちゃん、どうかしたの?」

 葉月がそう尋ねると、皐月はそちらに目を遣った。

「ごめん、確かお茶葉(ちゃっぱ)切らしてたんだった。買い物に行くから三人ともついてきて」

 言うや皐月はうしろ手で襖を閉めた。「――誰か寝てたの?」

 信乃がそう尋ねると、皐月は苦笑いを浮かべながら、舌を出した。


『あんな幸せそうな寝顔見たら、起こせないでしょ』

 そう頭の中で呟きながら皐月は、葉月たちと一緒に母屋を出て行った。


 居間では、拓蔵と瑠璃が一緒になって眠っていた。

 二人は互いの手をギュッと握り締め、小さく笑みを浮かべている

 卓袱台には夫婦湯呑が置いてあった。


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