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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第三話:窮奇(かまいたち)
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弐・顔無


 阿弥陀や大宮を含んだ、警視庁刑事部に通報の連絡が入ったのは、現場に着く十分ほど前だった。

 一応大事をとって半日入院となった事を稲妻神社に報告しようとした矢先の事だ。

 無線から連絡が入り、内容は福祠駅近辺で変死体が発見されたとの事だった。

 それより少し前、阿弥陀警部は電話に出た拓蔵に要件だけを云い済ませると、急ぎ現場へと駆けつけたのだった。

 ――そして死体を見るや、否応なしに目をそむけた。


 被害者は()()()からして、四十から六十くらいの、少しぽっちゃりとした中年女性だったが、その顔面は無残に切り刻まれており、顔の判別はまず不可能に近かった。

 女性とわかったのはそれ特有の特徴があったからである。

「被害者の身元は?」

沢口(さわぐち)(のぞみ)、五二歳の専業主婦。パートの帰りに襲われたようですね」

 大宮がそう伝えると、阿弥陀は表情を曇らせた。

「――襲われたで済みますかね?」

 その問い掛けに大宮は少し考え込み、「済まないでしょうね。被害者に対して加害者がどれほどの怨みを持っていたのかわかりませんが」

 大宮の言う通り、阿弥陀も同様の考えだった。

「パートと云ってましたが、被害者の勤め先は?」

「駅前にあるスーパーマーケットのようです。勤務時間は朝八時から夕方五時まで。仕事が終わった後、いつも夕飯の買い物をしていたようです」

 まぁパートも兼ねた専業主婦なら妥当な時間だろうと阿弥陀は思った。

「最後に見たのは?」

「見た人はいませんでしたが、店の入り口に防犯カメラが設置されていまして、彼女が店を出て行くのがそれに映っていました」

 そう言うと、大宮は懐から一枚の写真を取り出し、阿弥陀に見せる。

 そこには遺体と同じ服を着た女性の姿があった。

「つまり被害者が襲われたのを目撃した人はいないと」

 阿弥陀はそう云うや、少しばかり考え込んだ。たしか今日の夕方ちょうど弥生が駅を出ていた頃だ。

 スーパーマーケットの入り口は駅の出入口と向かい合わせになっている。

 つまり弥生が被害者を見ていた可能性があるが、訊こうにも顔がこれではどうしようもない。

 しかも写真からわかった事は写っている女性と被害者の服装が一致した事くらいだ。


「阿弥陀警部、同店員に訊きましたところ、被害者の沢口希は噂ですと夫が多額の借金を抱えていたようです」

「つまりそのお金を夫婦で返済してるってわけですか?」

「いえそれが――主な理由は被害者にあるそうなんです。借金の主な理由が宝石関係にあるそうで、まぁ夫が小さな町工場をやっていたみたいですね」

「社長婦人というわけですか。大きく見せたいという気持ちはわからないわけでもないですが……ところで『やっていた』という事は今は『やっていない』という事ですかな?」

「借金と今の不況が重なって差し押さえを食らったようです」

「町工場って今結構注目されてますけどね。人工衛星を作った大阪の町工場とか痛くない注射針を作ったところとか……」

「でもそれってかなりの技術が必要じゃないですかね? それに当たり外れがあるそうですし、被害者の会社はそういう波に乗れなかったようです」

 大宮の話を聞きながら、阿弥陀は被害者の顔を見ていた。

「ここ最近起きている通り魔事件とは、もしかすると関係ないのかもしれませんね」

 阿弥陀の言葉に、大宮は首を傾げた。

「どうしてです? 発見されたのは通り魔事件が起きている近辺なんですよ」

「今まで起きた事件に共通したものは覚えてますかな?」

「えっと、被害者のほとんどは脹脛を鋭利な刃物で切られている」

「弥生さんもつい先程被害に遭ってましてね。彼女も脹脛に傷を付けられてましたよ」

 阿弥陀の言いたい事がわかったのか、大宮は被害者の顔を一瞥した。

 運び行く鑑識官を呼び止め、遺体を降ろさせる。

「阿弥陀警部、傷がありましたが今までと違います」

 大宮が確認したのは被害者の脹脛に傷痕がある事だった。

 今まで通り魔にあった被害者に共通するものは、多少なりとももう片方の脹脛に傷痕があった。

 それは共通して冷たい風の音が聞こえ、立ち止まった事にある。

 人間立ち止まれば、足は少なからずとも揃えてしまう。

「殺した後に付けたんでしょうかね? 通り魔事件の犯人がしたと見せかけて」

「だったとしても……こんな事はしないでしょうね?」

 阿弥陀は被害者の潰れた顔を見る。

「詳しい事は検死結果を待ちましょう」

「検死でわからなかったら……、彼女たちに訊くんですか?」

「そうなりますね。ただもう遅いですし、検死結果が出てからにしましょう」

 阿弥陀にそう云われ、大宮は頷いた。


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