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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第三話:窮奇(かまいたち)
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壱・通り魔

「そうそう、無地を下地にして、柄を上地に段違いで二重(にじゅう)にしたら、(そで)にフリルを縫い付けて……」

 学生鞄を肩に背負った弥生が、福祠駅の改札口から同じ制服を着た友人二人と出てくる。

 一人は『片桐千夏』といい、背丈は百六十あるかというくらいである。

 もう一人は『横山麻実』といい、ボブカットの小柄な体格だ。

「でさカチューシャはどうする? ボトムスと合わせて縞にするとか」

「うーん、色柄にもよるんじゃない? 合わなかったらもともこうもないでしょ?」

「あ、弥生。今度の土曜、わかってるわよね?」

 片桐がそう云うと、弥生は答えるように頷いた。

「弥生は家で巫女さんやってるから和装のイメージかな。今度カタログ持ってくるよ」

「あ、前とうしろの写真だけでいいよ。後は自分でやれるから」

 弥生がそう云うと、友人二人は「おー」

 と、声をあげて感心した。

 三姉妹には母親がいない。云ってしまえば長女である弥生が、下の妹二人に対して母親代わりとなっている。

 炊事洗濯は各自分担してやっているが、趣味で裁縫をやっていることもあり、自然とそういう事が得意になっていた。

 自分の寸法と写真に写った服のデザインを見れば、大抵は出来るのだが、さすがにキャラクターや文字がプリントされた服は作れない。因みに神社で着ている巫女服だが、あれは弥生の手製である。


「それじゃ、また明日ね」

 そう云いながら、友人二人は去っていった。

「――うわ、寒い」

 ホームから出た弥生は肩を震わせ、帰り道を見遣った。

 神社までの道には、何故か街灯が設置されていない。

 神社近くまで行けば街灯はあるのだが、それまでがまた遠いのだ。

 しかもここ最近、この近辺で女性が襲われる通り魔事件が多発しており、住民の多くがその道に街灯を設置しろという働きを持ち掛けている。しかし町役場は行動を示そうとしない。

 少しうしろを見れば駅の周辺という事もあって、(あか)りが点々と輝いている。

 弥生は携帯を手に取り電話をしようとしたが、数分もしない内に携帯を閉じた。

 そして液晶の時間表記を一瞥するや、溜息を吐いた。


 時間は夜の七時を回ろうとしていた。空を見ると、うっすらと西日が出ている。

 まだ初夏を迎えたばかりで、日が落ちるのはもう少し後のことだった。

 福嗣駅から西へと真っ直ぐ歩けば神社なのだが、その距離が嫌になるほど長い。

 福祠駅から神社までは一キロほど離れているため、普段は自転車で通っているのだが、先日工事現場の近くを通りかかった時に古釘を踏んでしまい、タイヤのチューブに穴を開けてしまった。

 家の者で直せるものがおらず、また修理に出すのもそれはそれで勿体無い気がするというわけで歩きになっている。

 理由はそれだけになく、最近太ってきたのでダイエットも兼ねての事であった。


 駅を出てから十分が過ぎた頃、突然冷たい風の音が寂しく鳴るや、弥生は周りを警戒した。

 ――その時だった。

「――っ?」

 突然、脹脛(ふくらはぎ)に痛みが走り、弥生はその場で崩れる様に転倒した。「っつぅぅっ」

 家の塀に寄りかかるようにして立ち上がり、痛みが走ったほうの足を見ると、脹脛がざっくりと斜めに、まるで鎌で切りつけたような傷跡が出来ていた。

 だが弥生が驚いたのはその傷にではなく、一体いつ切りつけられたのかという事にあった。

 通り魔事件が多発しているため、周りを警戒しながら歩いていた。だから普通は誰かが通り抜けていく事に気付いていたはずだ。

 それなのに、そんな()()がまったくしなかった。


 突然目の前がカッと明るくなると、車のクラクションが聞こえてきた。

 そのまま車は弥生の隣りに停り、窓がゆっくりと開けられると見知った顔が覗きこんできた。

「あれまぁ、弥生さん。どうしたんですかな?」

「あ、阿弥陀警部?」

 弥生は阿弥陀を見やるや、「そうだ! あの、さっき変な人が通っていきませんでしたか?」

「んっ? いや、別にそんな人はいませんでしたよ。ねぇ、岡崎くん」

 阿弥陀が運転席に坐っている岡崎に尋ねるや、彼は頷いた。

「それで、一体どうしたんですかな?」

 阿弥陀は既に弥生の怪我に気付いていたが、その理由がわからず、尋ねる。

 弥生も、どうして自分が怪我をしたのかという理由が解からないため、答えられずにいた。

「とにかく車に乗って、家までお送りしましょう。岡崎くん、手伝ってください」

 そう云うや、阿弥陀と岡崎はパトカーから降りた。

 阿弥陀は弥生に肩をかし車に乗せ、岡崎は落ちていた弥生の鞄や中のものを拾い集める。

「――そう云えば阿弥陀警部はどうして?」

「いやね、最近通り魔事件が多発してるでしょ? それで神主からちょっとばっかしお願いされたんですよ」

 いくら阿弥陀が知り合いとはいえ、たかが神社の神主にそんな事が出来るのかと弥生は思った。

「それで、切りつけた犯人は見てないんですね?」

 見ていないというよりも、そもそも“気配”がなく、それどころか足音すらしなかった――。

 いくらなんでも人間なら気配の一つはするものだ。

「そうそう、これも通り魔事件に関する事なんですけどね。どうも襲われた人たちに共通するのが『脹脛を鋭利な刃物でやられている』事なんですよ、弥生さんと同様に――」

 阿弥陀が助手席から話す。「ちょっと気になるんでね、神主に相談しに行ってたんですよ」

 なるほどと、弥生は頭の中にあった疑問が解決した。

 つまり帰る途中弥生に会ったら送ってくれと頼まれたのだろうと弥生は思った。

 ――実際、車は稲妻神社がある方角から来ている。

「一回家に戻ってから病院に行きますか?」

「はいそうします。遅くなって心配させるのもあれですし」

 もちろんこれから病院に行くのだから心配させてしまう事には変わりなかった。


 車は稲妻神社の鳥居前で停まった、

 阿弥陀の肩をかりながら家に戻ると玄関で皐月が出迎えていた。

「ど、どうしたの?」

「皐月? あんたご飯作れたっけ」

 帰ってきて、開口一番がこれである。

「うん、まぁ簡単なのしか作れないけど……。ってかそんなこと言ってる場合じゃないでしょ?」

 皐月の言う通り、呑気な事を云っている場合ではない。

「ちょっとやられちゃってね。これから病院に行って治療してもらうから。大丈夫、すぐに戻ってくるから」

 弥生は家に上がり、阿弥陀に自分の部屋の前まで送ってもらう。

 そして入ってから五分くらいで戻ってきた。

「傷は大丈夫か?」

 拓蔵が玄関先で弥生に傷の具合を尋ねた。

「最初は結構血が出てたんだけど、今は大丈夫。でも大事をとって診てもらってくる」

 弥生は左足の脹脛を一瞥する。傷痕からは既に血が止まっており、赤い線が引かれたように瘡蓋となっている。

 三姉妹は神仏の力で護られており、多少の切り傷ならどんなに深い傷でもものの数分で治るのだが痛みはまだあった。

 念のために診てもらうと脹脛の傷とは別に捻挫を患っていた。

 痛みが走ったさい無理な体勢で体を崩してしまったためである。

 捻挫は全治一週間だが、脹脛を傷つけられた事もあり、大事をとって半日の入院と担当医に云われた。


弥生の友人名を入れてみました。というかちょい役なので、そんなに深くは考えてません。

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