拾・不器用
「鶴の基本形にしたら……」
稲妻神社の母屋にある居間で、葉月と遊びに来ている浜路が隣り合わせに折り紙を折っている。
二人の目の前には宝静が描いた手描きのメモが置いてあり、それには『雉』の折順が書かれている。
「えっと、下半分を折り線にあわせて、広げる…… これってどうやるの?」
浜路が自分の折った紙を見せながら、葉月に尋ねる。
「下半分を横の折線にあわせて、それを横二枚のうち、一枚を広げ折りするって書いてある」
折り紙は図形を見ながら作るが、手描きということもあってか、図形が歪んでいる。
四苦八苦しながらも、子供ながらに理解が早いためか、十分くらいで二人とも完成させていた。
「それにしても、二人ともよく折れるわね?」
TVを見ていた弥生が横目でチラリと覗き込む。
「弥生さんも折ってみます?」
「そうね。他には何か教えてもらったの?」
弥生は何種類かの折り方が書かれている紙の束を捲りながら、適当に選び、紙を折っていく。
「浜路ちゃん、わたしたちもなんか折ろう?」
葉月がそう言うと、浜路は頷き、折り紙を折りはじめた。
「ただいま」
出かけていた皐月が居間を覗き込むと、浜路が遊びに来ていることに気付く。
「浜路ちゃん、こんにちわ」
「あ、皐月さん。こんにちわです」
浜路が笑顔で答えると、皐月は卓袱台で折り紙をしている三人に目をやった。
「それって、宝静暦から教えてもらったってやつ?」
そう尋ねると、葉月が頷いてみせた。しかし、顔は皐月のほうを向いておらず、折り紙に集中している。
「わたしも一枚折ってもいいかな?」
言うや、皐月は折り紙を一枚取り、弥生が折っているやつを見やる。
弥生が折っているのは『テーブル』というものである。
横目で折り順を見ながら、皐月は手順通りに折っているのだが、なんとも不恰好なものになっていた。
「あ、あれ?」
皐月は手に持っているモノと弥生が折ったものを見比べた。
どちらも同じ『テーブル』であり、同じ折順で折っている。
「皐月…… あんた、本当に、これ見てやった?」
弥生は皐月に紙を見せながら、尋ねた。
「や、やったわよ」
皐月はそういうが、弥生と同様、葉月と浜路もどうしてそうなったのかが理解出来なかった。
「それで、葉月ちゃんと一緒にいろいろ折ってたわけか」
信乃は浜路が葉月と一緒に折っていた折り紙を見ながら尋ねる。
「うん。それでね、ちょっと面白いことあったんだ」
「面白いこと?」
浜路がなんとも楽しそうな笑みを浮かべるので、信乃は首を傾げた。
「弥生さんと皐月さんも一緒に折ってたんだけど、皐月さんの折ったやつはぐっちゃぐちゃになってて」
「まぁ…… 皐月って、ああ見えて結構不器用なところがあるからね。小学校の時、クラスが一緒になったことがあるんだけど、その時入院している子がいたから、みんなで千羽鶴を折ろうってことになったの」
「そうなんだ、それでどうなったの?」
「他のみんなはそれなりに出来てたんだけどね。皐月だけは何回やっても鶴のつの字もなかったわ」
昔話をしている信乃を見ながら、浜路は笑みを浮かべた。
「なに?」
「――なんでもない」
浜路はそう言うが、顔はにやけたままである。
信乃はそれを見るや、頭を抱え、「宿題するから、部屋出ていって」
といい、浜路を部屋から追い出した。
(まったく、変な事思い出させるんじゃないわよ)
信乃は机に頭を寝かせた。
(わたしが何回教えても、皐月ったらきれいに折れなくって、結局わたしが折ることになったんだよな)
信乃は昔のことを思い出しながら、不意に涙を流していた。
――それは何を意味していたのか、彼女は知る由もなかった。
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