表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第十五話:石妖(せきよう)
135/234

玖・花崗岩

花崗岩かこうがん:火成岩の一種。流紋岩に対応する成分の深成岩である。石材としては御影石(みかげいし)とも呼ばれる。


 警視庁鑑識課の一室で、湖西主任がジッと緒形の死体が映された二枚の写真を見ている。

 一枚は正面から、もう一枚は傷が入れられている背中の写真である。


「どうなんですか?」

「やはり岩で引き摺ったにしては、変な方向に傷が入っておるな。というより肩に傷が集中しておる」

 阿弥陀警部の質問に、湖西主任は訝しげな表情で答えた。

「杉山は被害者を発見した後、湯船から引き摺りあげたと供述しています。となると、背中に傷が入っていないと可笑しいですよね?」

 殺された緒形の図体はでかく、杉山一人の力では引き上げることは困難である。

 そして湯船は岩で作られているため、挙げた時に岩肌に当たって、傷が入る。


「それと、遊火がわしに『カキ氷の袋が燃える時間はどれくらいか』と尋ねにきたんじゃよ」

「それで、どれくらいかかるんですか?」

「カキ氷の袋はビニールじゃし、急用じゃったからあまり答えられんかったがな」

 湖西主任は結局燃える時間を教えはしなかった。


「しかし、弥生さんから聞きましたけど、まさか石妖せきようがあそこで働いていたとはね」

 それを聞くや、湖西主任はキョトンとした表情を浮かべる。

「なんじゃ、お前知らんかったんか? あそこの露天風呂で使われている岩を運んだ時に、石妖も一緒についてきたようなものなんじゃよ。いってしまえばあの岩は石妖の依り代だったわけじゃよ」

 そして、按摩師として働いていた瞳美に取り憑いていたことが後になってわかった。

 石妖は石工の男たちに按摩し、眠ったところを殺す妖怪であり、按摩された男の背中には石で引っかいたような傷痕が残ると云われている。

「彼女は違うと、暗示してたんでしょうかね?」

「恐らくな、しかし、お前はどうして迷企羅(めきら)をあそこに向かわせたんじゃ?」

 そう尋ねられ、阿弥陀警部は壁に凭れかかった。

「地蔵菩薩からのお願いで、温泉に行った弥生さんに迷企羅を監視させていたんですよ」

 そう話していると、突然部屋の扉が開いた。


「た、大変です警部!」

「岡崎くん? どうかしましたか……」

「今、警察庁から連絡があって、昨日逮捕された杉山と、それを取調室で聞いていた警官三名。そしてそれをマジックミラー越しに聞いていた警官数名が何者かに殺されたとの報せです」

 それを聞くや、阿弥陀警部と湖西主任は顔を歪ませた。


「目撃証言は?」

「それが…… 誰もいません」

「そんなわけがないじゃろ! 誰もいない? いったいどんな風に殺されとったんじゃ!?」

「報告によれば、全員喉を切られた大量出欠によるショック死だそうです」

 喉を?と阿弥陀警部は湖西主任を見た。


「それ以外に報告は?」

「今はまだこれくらいしか」

「そうですか、わかりました。まぁ警察庁からは追って連絡があるかもしれませんから、私たちは自分たちの仕事をしましょう」

「わかりました。では失礼します」

 岡崎はそう言うと、部屋のドアを閉め、廊下を走っていった。


「迷企羅……」

 阿弥陀警部がそう言うと、暗闇から男が現れた。

 見た目は十八の青年で、肩まである長い白髪に、赤のメッシュが入っている。

「十二神将が一人、迷企羅ここに」

 迷企羅は跪き、頭を下げた。

「急ぎ、警察庁で起きた事件現場に行き、状況を把握してきなさい」

 阿弥陀警部がそう命ずると、

「――御意」

 迷企羅はそう言うや、スーと姿を消した。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 時間を戻して、橡温泉のロビー受付横にある休憩室。

 そこにあるベッドに弥生がうつ伏せに寝ている。

「それじゃ、深呼吸して、ゆっくり」

 瞳美にそう言われ、弥生はゆっくりと深呼吸する。


 瞳美は弥生の体に触れ、手に力を入れながらマッサージしていく。

「あなた、遊火が私たちのそばにいた時、気配を消したでしょ?」

 そう尋ねられた瞳美は首を傾げたが、ゆっくりと表情を和らげた。

「どうしてそんなことが云えるんですか?」

「人は突然あったものがなくなると緊張する。それはそこにいたはずの人がいなくなるのと一緒。つまり、あなたが普通の人には感じない妖気を微かに出していても、私にはすぐにわかったし、消えたからこそ、あなたが妖怪だってこともわかった」

「正確に言うと、私はこの子に取り憑いているだけ、私と同じ按摩師として働いていたこの子にね」

「それで、あのヤクザを懲らしめたのもあんたの仕業?」

 そう尋ねると、瞳美は首を横に振った。


「あれはあの子がしたことよ。護身用に杖術じょうじゅつを習っていたし、あの男はよく杉山に借金の取立てに来てたから、覚えてたのよ」

「それじゃ、杉山があのヤクザを殺したのも」

「ううん、それ以上のことは私にはわからないし、知っていても答えない―― はいおしまい。腰の状態もよくなってるはずよ」

そう言われ、弥生は腰を上げると、痛みはなく、すっきりとした表情を浮かべた。


「妖怪でも、私みたいに人の役に立とうとしているのもいるのよ」

 瞳美にそう言われ、弥生は何も云わず、頭を下げると、橡温泉を後にした。


お疲れ様でした。今回弥生メインでしたが如何だったでしょうか? では、次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ