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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第十四話:川姫(かわひめ)
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漆・遠吠

遠吠ハウリング:音響再生の際、スピーカーから出た音をマイクが拾い、それをまたスピーカーが再生するということを繰り返し、大きな騒音が連続して発生する現象。


「爆弾?」

 皐月が大声で阿弥陀警部と佐々木刑事に聞き返した。

「ええ。このイベントに協賛しているスポンサー各位に、爆破予告の手紙が届いてましてね。私たちもその捜索に参加させられてるんですよ」

「それで、爆弾が置かれている場所の目処はついてるんですか?」

「いや、それがまったく。会場は設置前に協力してもらって、爆弾反応がないか確認しましたし、観客の持ち物検査も徹底的にしました。これは出演アーティストやスタッフにも同じことをしましたが、全くといっていいほど反応も、不審なものも見つかりませんでした」

「いたずらなんじゃないんですか?」

「そう思ったんですけどね? どうも今回のイベント、裏があるんですよ」

「――うら?」

 弥生と皐月が首をひねる。

「このイベントの主催は『橋本芸能プロダクション』。今歌っている鮎川燈愛さんが所属している芸能プロダクションなんです」

 阿弥陀警部がそう言うと、「しかもちょっと噂があるんじゃよ」

 佐々木刑事が手帳を広げ、「『社長である橋本隆平には、暴力団の影がある』という噂がな」と言った。


「黒い噂ね」

 弥生が呆れた表情で言った。

「それともうひとつ、これは違う事件なんですが―― 先日、殺人容疑で指名手配された女性がいるんですよ。それがどうも、橋本が絡んでいることと繋がってるわけでして」

 そうは言われても、弥生と皐月は何のことかわからず、聞き返した。

「ある女性が男性に騙されましてね、その怨みでその男性を殺したんです。その男性ってのが『市柿組』の裏帳簿を持っていたらしいんですよ」

「らしいって、まだ確証があるわけじゃないんですね?」

 皐月がそう言うと、

「まぁ、こちらも別件になりますし、そちらは西戸崎くんの仕事ですからね」

「でも、芸能事務所が暴力団とつながってるとはね。金銭的な繋がりかしら?」

 弥生がそう尋ねる。

「まぁ、どこで借りるかはさておき、お金は必要となりますからね」

 阿弥陀警部は呆れた表情で言った。


「今、夕方の五時ですから、ライブがあるのも残り五時間―― このまま何もなく終わってほしいですね」

 阿弥陀警部がそう言うと、

「わしらは引き続き、爆弾の――」

 突然ステージ上からハウリング(スピーカーから出た音をマイクがひろい、それがスピーカーよりも大きいとなる現象のこと)が起き、皐月たちは硬直する。

「ちょ、ビックリした」

 弥生と皐月が両耳を塞ぎながら、ステージの方を見た。

「何か機材トラブルでもあったんでしょうかね?」

 阿弥陀警部はそう言うや、バックステージへと走っていく。佐々木刑事と弥生たちも後を追う。


 バックステージに入ると、騒然としていた。

 阿弥陀警部はステージの方を見ると、誰かが倒れているのが見える。

「おいっ! 菅原さんが倒れてるぞ! 中断しろ!」

 イベントスタッフが急いでステージに上がり、倒れている菅原を運び込む。

 突然のことで観客席はどよめいている。

「ご来場の皆様、ただいま機材トラブルが起きたため、一時ステージを中断します。復旧されるまで、しばらくお待ちください」というアナウンスが聞こえ、ステージを照らしていたライトは消えた。

 ステージ上の燈愛、宮村、銅石、国貴の四人も、バックステージに戻ってくる。


 運びこまれた菅原を見るや、出演者たちが動揺を隠せないでいる。

「おい。菅原くん、しっかりしろ!」

 宮村が声をかけるが、菅原は反応しない。

 裏口から救命スタッフがバックステージに入ってくる。

「動かさないように、ゆっくりと」

 指示を出しながら、菅沼を担架に乗せ、別室に運び込んだ。


「葉月、一体何が起きたの?」

 皐月がそう尋ねると、葉月は思い出すように

「それが、突然音がうるさくなって、みんなそれにビックリしたの。そしたらDrの人が倒れてて」

「ちょっと待って、それってステージの人も見たのよね?」

 皐月はそう言いながら、燈愛たちを見る。


「ええ。確かに、どのスピーカーから出たのかはわからないけど、ハウリングを起こしたのは間違いないわ。菅沼くんが倒れたのはその後よ」

 そう言いながら、国貴は円谷を一瞥する。

「彼女なら音を調整することは可能のはずよ」

「ちょっと待ってくれ。それじゃ彼女がハウリングを起こしたとでもいうのか?」

 銅石がそう尋ねると、

「だってそうでしょ? 私たちからは音量を調整することは出来ない。リハーサルの時に、音の調整をしてもらってるけど、本番ではそれが出来ないのよ?」

「確かに、ギターとベースは手元で歪みを調整したり出来るが、スピーカーの音量は調整出来ないな」

「でも、確か調整表があったはずだ。これは各アーティストで違うから、調整する時に必要になるはずだぞ?」

 銅石にそう言われ、円谷は急いでミキサーの上に置いてあるメモを手に取った。


「拝見してもよろしいですかな?」

 阿弥陀警部がそう言うと、円谷からメモを受け取る。

「確かに、Vo=20。Gt=16。と書かれていますね。これは音の大きさですか?」

 そう聞かれ、円谷は頷く。

「それを見て、音を調整するんです。人によって聞こえ方が違いますから」

「なるほど、これは皆さんされているんですね?」

「ええ。それにそれはステージ上だけではなく、演奏者の前にあるモニターからでる音の調整もありますからね」

「けっこう大変なんですね。ミキサーって」

 弥生が近くにいた国貴に尋ねる。

「ええ。ミキサーがしっかりしてると、私たちもしっかり演奏出来るのよ」

「それじゃ、そのミキサーってのが故障したんだろうかね?」

 佐々木刑事がそう言うと、

「それはないと思います。ずっとここで聞いてましたけど、みんな楽しそうにやってたから」

 葉月がそう言うと、

「でもね、興奮してくると聞こえなくなるなんて事あるからね」

「あれ? でも音の調整はミキサーでしか出来ないんですよね?」

 弥生にそう言われ、宮村は頷く。


「皆さん、そろそろ再開しないと」

 スタッフがそう言うと、宮村たちは準備に取り掛かる。

「ちょっと待ってください。菅沼さんがいない状態でどうするんですか?」

 燈愛がそう言うと、

「仕方ない。準備にかかろう。菅沼くんの容態も心配だが、今は仕事が先決だ」

 宮村がそう云うと、国貴と銅石も準備にかかる。

「燈愛、お前は見勝手なことをして、お客さんを困らせるのか?」

 秀隆がそう言うと、燈愛は小さく首を横に振った。


「調整完了しました。いつでも再開出来ます」

 円谷がそう言うと、宮村たちはステージに上がろうとする。

「ハウリングって、スピーカーから出た音をマイクが拾ってなる音よね?」

 皐月がそう言うと、

「え、ええ。そうならないように調整するんだけど――」

 円谷が首を傾げながら言った。

「それって、あなたも聞こえるんじゃないの?」

「えっと、どういうこと?」

「ライブが始まった時、私たちに説明しましたよね? モニターからは演奏者個人に適した音を出して、イヤホンからはヘッドマイクを通して指示を出してるって」

 皐月がそう尋ねると、「ええ、そうよ。それがどうかしたの?」

「ハウリングはスピーカーから出た音をマイクが拾うってことは、その音がモニターを通して演奏者全員に直接聞こえるんじゃないんですか?」

「確かに、そうなるが」

「それにあなた言ってましたよね? どのスピーカーから出たのかはわからないけど、ハウリングを起こしたのは間違いないって」

 皐月は国貴を指差し言った。


「ええ。確かに聞こえたけど、モニターからは――」

 国貴はハッとする。

「それじゃ、いったい誰のマイクから拾ったっていうの? マイクの位置は、そうならないように十分配慮されてるはずよ?」

「たしかに、そうならないように十分注意しているから、聞こえないはずだ」

「それに、その子が云ってる通り、ハウリングを起こしたなら、モニターからも聞こえてるはずだ」

 宮村、銅石、国貴の三人が円谷を見た。


「モニターだけを消すことは出来ないんですか?」

「モニターだけを?」

「モニターの音量を消せば、聞こえるのはイヤホンの音と、スピーカーの音だけですよね?」

「ああ、ミキサーでモニターの音を消すことも可能だけど」

「つまり、ステージにいる僕たちは、イヤホンの音とモニターから聞こえる音、そしてスピーカーから聞こえる音の3つというわけだね」

 宮村がそう尋ねると、皐月は頷いた。

「スピーカーから聞こえたってことは、モニターからは聞こえなかったってことですよね?」

「そうなると、やっぱりミキサーでモニターの音を消したってことか?」

「ちょ、ちょっと待ってください! 私がどうしてそんなことをしないといけないんですか?」

 円谷がそう言うと、救急スタッフが戻ってきた。


「菅沼くんの容態は?」

 宮村がそう尋ねると、「今は安静していますが、眩暈がすると」

「――眩暈?」

「それと、最初私たちが声をかけていましたが、反応がなく、しばらく待つと反応がありました」

「気を失ってたんじゃないんですか?」

「いや、倒れたことや、宮村さんが声をかけていたことも知っていました」

「それじゃ、一時的に耳が聞こえなかったって事?」

「多分、イヤホンからスピーカーの音が聞こえたからでしょうね」

 皐月はそう言うと、円谷を見た。


「な、なにを云ってるの? イヤホンからスピーカーの音が聞こえるわけがないじゃない?」

「確かにそうだ。モニターやスピーカーにつかうケーブルのプラグは3.5ミリ。イヤホンは2.5ミリとサイズが違う」

 銅石が近くにあったケーブルと、イヤホンを持ってきて見せた。

「銅石さんの言う通り、サイズが違いますね」

「ほら見なさい。それでどうやって――」

 円谷がホッとした表情を浮かべたときだった。


「変換プラグ」と国貴が言った。

「変換プラグ?」

 葉月がそう尋ねると、

「一般的なヘッドホンのサイズは、イヤホンと同じく2.5ミリになってるの。だけど、キーボードの音をヘッドホンで聞くには、変換プラグを使って、3.5ミリにしないといけない場合があるのよ」

「そうか、それならイヤホンからスピーカ-の音を聞こえさせるのも難しくはない」

「ちょっと待ってください。イヤホンからの音は電波に乗せて、みんなに」

「それを菅沼さんだけのイヤホンにしか聞こえないようにしたら?」

 皐月がそう尋ねると、円谷は表情を変えた。


「菅沼くんだけのイヤホンにしか聞こえなくする?」

「燈愛さん、ちょっとイヤホンを貸してくれませんか?」

 そう言われ、燈愛はイヤホンをはずし、上着からコードが繋がった小さな機械を取り出した。

「これは電波を通して使うやつですよね?」

「ええ。人によっては動き回る人もいるから、無線で飛ばせるやつだけど、今はほとんどそれが主流になってるわ」

 国貴がそう説明する。

「でも、今思ったんだが、イヤホンは無線で連絡を取るんだ。そもそもプラグを変えるなんてことは出来ないんじゃないかな?」

 宮村にそう言われ、皐月はハッとする。

「ほら、それじゃ私がしたなんて証拠がないじゃない。それに変換プラグなんて演奏中に交換したら、接続した時に音が可笑しくなるはずよ」

 円谷が勝ち誇った表情を浮かべた。


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