表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第十四話:川姫(かわひめ)
122/234

陸・神仙

神仙しんせん:日本音楽の十二律の一。基音の壱越(いちこつ)より一〇律高い音で、中国の十二律の無射(ぶえき)、洋楽のハ音(C)にあたる。


 ステージ裏では緊張した顔付きの燈愛が立っていた。

 彼女はすでにステージ衣装である、ナチス親衛隊の黒服を着ている。

「大丈夫だ。いつもどおりにやればいい」

 秀隆がそう言うと、燈愛は頷く。


「大丈夫だよ。僕たちもしっかりサポートするから」

 Gtの宮村がそう言うと、他のメンバーも答えるように頷いた。

「それじゃあ、まず――」

 秀隆がステージに出る順番を最終確認する。

 Dr、Ba、Kb、Gt、そして最後に、ボーカル(以降Voと表記)である燈愛がステージに登場する。

「う、うまくいきますかね?」

 燈愛がそう尋ねると、

「大丈夫よ。私たちが燈愛ちゃんを引っ張ってあげるから、あなたは思いっきり自分の仕事をすればいいの」

 国貴は赤のドレスを身に纏っている。


 これは燈愛の新曲である『嘆きの天使』という曲のイメージ衣装である。

 燈愛は曲の主人公である軍隊に入った恋人をまつ少女。

 国貴はその恋人が、軍隊の仲間に誘われて入ったキャバレー(今で言うスナックやホストクラブといったところか)で踊り子をしている女性の姿。

 あとのメンバーは軍人をイメージした衣装を着ている。

 国貴以外は軍服のため皮製である。燈愛は日中の出演じゃなくてよかったと思った。


 先日、新曲ジャケットの撮影のさいにも同じ服を着たのだが、それが暑くてたまらなかった。

 撮影場所が外だったため、その暑さに倒れそうになったのだ。


「あ、河本さん。ちょっとトイレにいってきていいですか?」

「後30分で出番だからな。急いで戻ってこい」

 秀隆がそう言うや、燈愛は急ぎ、ステージを後にした。


 燈愛は自分の控え室である、キャンピングカーの扉を開けた。

「っと、おかえりなさい」

 テーブルに座っている葉月が返事をする。

「ごめんなさいね。忙しくて、あなたたちのこと忘れてた」

「それはまた殺生なことで」

 皐月が皮肉っぽく言う。

「そろそろ私たちも観客席に行かないと、あなたのライブ見れないんだけどね?」

 弥生がそう言うと「私の見にきてくれてたの?」

 燈愛は驚いた表情で三姉妹に尋ねる。


「ええ、元々は葉月が葉書を応募して、それが当選したの」

「へぇ、聞いた話だと、100名当選で、応募が5万だったらしいから、結構運がいいのかもね?」

 燈愛とは違う声だったので、三姉妹は今の言葉を発したのは、川姫だとわかる。


「まぁ、葉月の場合、後先考えないで、遊び半分で応募してるから、運がいいか悪いかなんて、本人は思ってないだろうけど?」

「思ってるよ。私、結構籤運いいんだから。神社の御神籤おみくじはいつも大吉だし」

「逆に大凶の人だって、言い換えれば運がいいっていえない?」

 皐月がそう言うと、葉月は「どういうこと?」と首を傾げる。

「弥生姉さん、うちの神社の御神籤って何種類あるんだっけ?」

 そう尋ねられ、弥生は少しばかり考え込む。

「えっと、大吉・吉・中吉・小吉・半吉・末吉・末小吉・(へい)・凶・小凶・半凶・末凶・大凶」

 弥生は指折り数えながら、御神籤の種類を言っていく。

 スラスラっと云えるのは、さすが巫女として手伝っているだけのことはある。


「ちょ、ちょっと待って、『平』ってなに? 『平』って」

 燈愛がそう尋ねると、

「『平』っていうのは「物事が平らかになる日」って意味」

 弥生がそう説明する。

「まぁ、少なくとも13種類もあるうちの御神籤で、ずっと同じやつが出るのは運がいいって話」

 皐月がそう言うと、燈愛はクスクスと笑った。

「確かに同じ結果が出るのも運かもね」

 葉月は笑われた事に苛立ち、頬を膨らませた。


「燈愛、そろそろ出番だ」

 そう言いながら、秀隆がキャンピングカーの扉を開ける。

「おや、君たちは?」

 三姉妹に気付き、秀隆は尋ねた。

「あれ? 河本さん、私トイレに行くって云ったんだけど?」

「君はこういった大きなイベントだと、トイレに行くとか言って、楽屋に戻るだろ?」

 秀隆がそう言うや、燈愛は納得いった表情を浮かべた。

「ところで、君たちは?」

「え、えっと……」

 葉月がしどろもどろに言葉を捜す。

「あ、私の知り合いで、招待したんです」

 燈愛がそういうや、三姉妹は燈愛を見やった。

「それで、相談なんですけど、彼女たちをバックステージに招待出来ないかなって」

「うーん、迷惑にならないならいいが」

 秀隆がそう言うと、「ありがとうございます」と燈愛は頭を下げる。


「いいんですか?」

 皐月が秀隆にそう尋ねると、

「本当はだめなんだけどね。今から観客席に行っても、見られる場所がないだろ?」

「でも、私たちちゃんとチケット、というか当選葉書を持ってるから入れると思いますけど?」

「いいじゃない? お言葉に甘えましょ?」

 弥生がそう言うと、葉月は渋々それに従った。

 本心では、葉書を持っているのだから、観客席から見るものだと思っている。

「それじゃ、私は先に行きますから」

 そういうや、燈愛はステージのほうへとかけていった。


「それにしても君たち、どうして燈愛と一緒にいたんだい? ここは関係者以外立ち入り禁止になってるはずなんだけどね?」

 秀隆にそう聞かれ、葉月は公園で練習していた燈愛に声をかけてしまい、ばれそうになったので、ここまで連れてこられたと説明する。

「なるほど、まぁ緊張してしまうのは仕方ないことだし、公園で声出しの練習をしているのは今に始まったことじゃないからね。それに、プロの人でもそうやって練習している人は多いんだよ」

「そういえば、うちの吹奏楽部も、音楽室じゃなくて、廊下とかで練習してるわね」

「外では音が反響しないからね。肺活量を鍛えるにはもってこいの場所なんだよ」

「燈愛さんが云ってましたけど、外だったら思いっきり歌えるって」

 葉月がそう言うと、

「元々は僕が誘ったんだよ。燈愛は元々小心者で緊張しちゃうから、デビュー前は公園で歌やダンスの練習をさせていたんだ。公園だと人に見られたりするから」

「それで人に見られることを慣れさせたってわけですね」

 弥生の問いかけに、秀隆は答えるように頷いた。

「それじゃ、そろそろ時間だし、行こう」

 秀隆にそう言われ、三姉妹は頷いた。


 バックステージに案内された三姉妹はその光景に驚く。

 ステージは煌々と輝いているのに、ここはミキサーに橙色の光が照らされているだけだ。

「ミキサーは音の調整をするために必要だからね。手元が見えないといけないだろ?」

 秀隆が説明すると、外の音が聞こえ始めた。


「みんな! 今日はきてくれてありがとう! こんな大きなライブは初めてだけど、精一杯がんばりますから! みんなも精一杯楽しんでいきましょ!!」

 ステージ上の燈愛がそう言うや、観客たちは興奮する。

 そして、ドラムのカウントから、曲は開始された。


「すごい」

 葉月はただただ呆然と聞いている。

「あれ? すぐ近くなのに、どうしてうるさくないんだろ?」

 皐月が疑問に思い、呟く。耳が悪いとはいえ、聞こえないわけではない。

 野外ライブなので、ステージ上の騒音は仕方ないと思っていたのだ。

「それはね。ミキサーが各場所に設置したスピーカーから発せられる音を調整しているからなんだ。それにここは防音設備もされているから、あまりうるさくないしね」

 秀隆がそう言うと、

「アーティストの前にモニターがあって、演奏している人が聞こえやすい音量を出してるの。耳につけているイアフォンを通して、私たちスタッフが指示を出したりするのよ」

 そう言うや、音響(ミキサー)担当の円谷が「燈愛ちゃん、一瞬だけでいいから、バックステージの方を向いて、何かアクションをしてくれないかな?」

 ヘッドマイクで指示を出すと、ステージ上の燈愛がバックステージの方に視線を送るや、ウインクした。


「ほんとだ。でも、他の人にも聞こえるんでしょ?」

「まぁね。こればかりは仕方ないけど、でもタイムスケジュールもあるから、調整するという意味もあるんだよ」

 秀隆がそう説明していると、

「おや? 三人とも、どうしてこんなところに?」

 うしろから知っている声が聞こえ、三姉妹はそちらに振り返った。


「阿弥陀警部? それに佐々木刑事も」

「いやはや、また珍しいところで会いましたな?」

 佐々木刑事がそう言うと、「お知り合いですか?」と秀隆が阿弥陀警部と三姉妹に尋ねた。

「ええ。まぁ、知り合いといえば知り合いですけど」

 皐月が苦笑いを浮かべながら言う。

「しかし、どうして皆さんがここに? 関係者以外は立ち入り禁止なんですけど」

「あれ? 阿弥陀警部と佐々木刑事って、刑事部だから、こういう場所には呼ばれないと思うんですけど?」

 弥生が首を傾げながら言った。

 阿弥陀警部と佐々木刑事は私服とはいえ、警官である。

 警備をしているわけではないだろうし、そもそも私事プライベートできたのなら、なんともかけ離れている。


「いやね? ちょっとありまして、気になります?」

「まぁ、気にならないってわけじゃないけど」

 皐月は葉月を見るが、楽しそうに興奮しているのを見て、水を差すのは忍びないと思ったのだろう。

「ここじゃアレですから、外でお話しましょう」

 そう言われ、阿弥陀警部と佐々木刑事は頷き、弥生と皐月を外に連れて行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ