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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第十四話:川姫(かわひめ)
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参・警告


「警備ですか?」

 警視庁刑事部の部署で、阿弥陀警部が岡崎巡査に尋ねていた。

「はい。今度行われる夏フェスの会場を爆破するという、犯行予告がありまして、その警備に当たってほしいと」

「でも、それってうちらの仕事じゃないでしょ?」

 爆破予告は、阿弥陀警部や大宮巡査、西戸崎刑事たちがいる刑事捜査一課の仕事ではなく、特殊犯捜査第3係の仕事である。

「上からの命令ですから、従うしかないですよ」

「でも、まだ予告でしょ? 脅迫されたわけでもあるまいし」

 脅迫となれば、自分たちも動かないといけない。そのことを阿弥陀警部は尋ねる。

「いえ、犯人はスポンサー宛に爆破予告の手紙を出しているようなんです」

「――内容は?」と佐々木刑事が尋ねると、岡崎巡査は持ってきた資料をひろげ、

『今年のイベントを即刻中止しろ。そうしなければ、コウカイすることになる』

 と、みなに告げた。


「後悔ねぇ…… そりゃ、イベント会場で爆破があったら、死者がどれくらい出るかわかりませんからね」

「しかし、犯行予告がスポンサーに直接とは、ネットの書き込みではないんだろ?」

 佐々木刑事が岡崎巡査に尋ねる。

「はい。脅迫状は差出人不明できたようですし、文章はワープロで書かれてます」

「愉快犯というわけではないようですね」

 阿弥陀警部がそう言うや、「しかしなぁ、警備といっても、夏フェスじゃろ? 人を殺すとすればどこに爆弾を仕掛ける?」

 佐々木刑事がそう尋ねる。

「そりゃ、観客席にでしょうね?」

 阿弥陀警部がそう言うと、佐々木刑事は頭をかく。


「あのなぁ、ハウスやホールじゃないんじゃよ? 観客席というものはあるにはあるが、大体指定席じゃろ?」

 そうは言われても、阿弥陀警部はそんなことを知らない。

「じゃが、ロック・フェスティバルは一日のもあれば、数日行われるものもある」

 そう言いながら、佐々木刑事は岡崎巡査を見る。

「確かそのイベントは一日だけじゃったな」

「え、あ、はい。午前10時から午後10時までとなっています」

「おおよそ半日ということですな」

「警備も交代交代じゃろうし、爆弾を――」

 佐々木刑事は言葉を止め、なにやら考え始める。

「どうかしたんですかな?」

「爆弾をいつ仕掛けるんじゃ?」

 佐々木刑事がそう尋ねると、

「そりゃ、イベントがやってる時に―― 可笑しいですよね?」

 岡崎巡査も違和感に気付く。気付いてないのは阿弥陀警部だけだ。

「えっと、二人ともどうしたんですかな?」

 阿弥陀警部が尋ねると、「爆破予告という事は、爆発させる事を目的としておるじゃろ?」

「え? ええ、そうでしょうな」

「じゃったら、その爆弾を何処に、どうやって仕掛けるのかということじゃよ。大規模なイベントじゃから警備は厳しくなる。検査されることは間違いないじゃろ?」

「それに、もしかしたら脅迫があったということを悟られないように、警備を薄くするでしょうね。一応あちらは警備会社にお願いしているでしょうから、私たちは警備というより、爆弾を探しながらということになるようです」

 それならば、ますます自分たちの仕事ではないような気がしてきた阿弥陀警部であった。

「それがどうして私たちも合同の仕事になるんでしょうかね?」

 阿弥陀警部はお茶を一口飲み、そう尋ねる。

「まぁ、警備と爆弾処理となると、わしらの仕事じゃないだろうし、上は何を考えておるんじゃ?」

 そうこう話している中、西戸崎刑事が汗だくになって戻ってきた。


「ああ。お帰りなさい。まなちゃん、西戸崎刑事にお茶」

 そう言われ、机に座っていた吉塚愛が立ち上がり、給湯室へと入っていく。

 1、2分して、冷たいお茶が入ったコップを持って、それを西戸崎刑事に渡す。

 西戸崎刑事は、グビグビと音を鳴らしながら、お茶を飲み干した。

「それで、捜査は進んでますかな?」

「ああ、まぁな。一応は目処がついとっちゃけどね」

「ほう、そっちは佳境ということかな?」

 佐々木刑事に言われ、西戸崎刑事は頷いた。


「しかし、もう犯人はわかってるんでしょ?」

「ああ、犯人は『若杉璃音わかすぎりおん』四五歳。同業者を殺害後、行方をくらませている。今夜あたりから指名手配にするそうだ」

 西戸崎刑事はそう言いながら、自分の手帳を見る。

 そこには若杉璃音に関する簡単な資料と、『マル暴』と書かれた印があった。

「うーん、そちらは組織犯罪対策部と合同の事件でしたね」

「あちらが絡んでいるからな、容易に捕まえられんとよね」

 西戸崎刑事はそう言うや、給湯室へと入っていく。


「確か『市柿組』じゃたろ? その事件に関わっとったのって」

 給湯室で佐々木刑事が、西戸崎刑事に尋ねる。

「ええ。若杉璃音は会社の同僚である男に騙され、多額の借金を背負った。その借金を貸したのが『市柿組』だとわかりました」

「殺しの経緯は?」

「えっと、殺された男の名前は『篠塚しのづか伊知郎(いちろう)』三七歳。シングルマザーであった若杉璃音に声をかけ、次第に二人は付き合い始めたが、篠塚は彼女を騙していた」

「それに気付いた若杉が男に詰め寄り、口論の末殺してしまったじゃったな。殺しとはいえ、彼女も怪我しておったじゃろ?」

 そう言われ、西戸崎刑事は手帳を見る。

「ええ。殺された篠塚の血痕が付いたガラス製の灰皿以外に、テーブルのかどに若杉の血痕が付着してました」

「頭を打ったのかね?」

「それはわかりませんが、そうでしたら、意識が朦朧とした中で殺しをしたということになりますね?」

 西戸崎刑事がそう言うと、佐々木刑事は少し考え、

「まさか暴力団が匿ってる――わけがないわな?」

「そんなわけないでしょ?」

 西戸崎刑事が笑いながらそう言うと、佐々木刑事も笑っていた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ええ。手筈通り、ことを運んでますよ」

 電話先の相手にそう言いながら、橋本はワインを飲む。

『しかし、コネでもあったんですかいな? まだデビューして間もないでしょ?』

「いやいや、人気があるうちが華。それは今も昔も変わらないことでしょ? 特にアイドルなんか鮮度が命ですからな、堕ちたアイドルが再度人気を得るには容易なことではない……」

 橋本はそう言いながら、グラスにワインを注ぎ込む。

「特に鮎川燈愛は、稼ぎどころですからね。毟り取るだけですよ」

『それは訴えられんかね?』

 電話先の男がそう尋ねると、

「いや、一応勤務時間は考慮してますからね。そのへんは大丈夫ですよ。それじゃ今度のイベント、必ず成功させますよ」

 そう告げるや、橋本は電話を切った。


「今度のイベント、成功すればかなりのお金が入るな。確か数百万とか云ってたが……」

 橋本は含み笑いを浮かべながら、部屋に置かれているTVを点けた。

『先週の金曜日未明に起きた殺人事件の犯人である、若杉璃音が行方をくらましており、警視庁は今夜、最重要人物として指名手配しました』

 と、ニュースキャスターが原稿を読む。

「まったく物騒な世の中になったもんだな」

 橋本はワインを一口飲み、シャワーを浴びようと立ち上がったときだった。

『なお、殺された篠塚伊知郎には、暴力団が関係しており……』

 それを聞くや、橋本は少しばかり笑みを浮かべ、携帯を手に取った。


『――もしもし』

 電話の相手は、眠そうな声で言う。

「ああ、寝ていたのか? すまないな」

『社長? どうしたんですか? こんな時間に』

「実はな、ちょっと知らせておきたいことがあってな」

 そう言われ、電話先の相手は『なんですか?』と尋ねる。

「ちょっとTVを点けてくれんか?」

 橋本がそういうと、電話先からゴソゴソと何かを探す音がする。

 そしてTVの音が聞こえだした。

 それはちょうど、先ほど橋本の部屋に置かれたTVで流れたニュースであった。

 ニュースというものは番組が違っても、報道される内容に大差はない。


『えっ?』

「どうした? 何か気になることでもあったか?」

 橋本は電話先の相手にそう尋ねる。

 その表情は不気味に歪んでいる。

『これ…… いつから……』

 電話先にいる相手の声が震えている。

「そういえば、忙しくて、ほとんどテレビを見ておらんかったそうじゃったな。部屋に戻っても、倒れるように寝ておったと河本くんから聞いておるよ」

『それで、どうしろと?』

 電話先の相手がそう尋ねると

「ちょっとうちに来てくれんかの?」

『そんな…… 明日、新曲CDのジャケットに使う写真を撮るから、朝早いんですよ?』

「そうか、今度のイベントで結構お金が入るんだがな? 確か五百万だったかな? それがチャラになったら、返せるもんも返せんわな?」

『――わかりました。二十分くらいで行きます』

 電話先の相手はそう言うと、電話を切った。


 ――三十分後、橋本の部屋のドアを叩く音が聞こえる。

 橋本はバスローブを羽織り、ドアを開けた。

「きたか。遅刻はどこの世界でも厳禁だぞ?」

「すみません。急に呼ばれたので、身支度に手間取ってしまって」

「いっその事、裸のままコートを羽織ってきてもよかったんだぞ? そうすれば、すぐに出来る」

 そう言いながら、橋本は少女の顎を上げ、唇を合わせる。

「ベッドに行くのも面倒だ。ここでするぞ」

「でも、私……」

 少女がそう言うと、橋本は少女を廊下に倒した。


「わかっているのか? お前みたいなやつなんぞ、いくらでもいるんだよ? それにお前は私に口出し出来ないんじゃないのか?」

 そう言いながら、橋本は少女の髪の毛を引っ張った。

 少女は悲痛な声を挙げる。

「それじゃ、今日はたっぷり遊んでやるからな―― お前の姉と同じようにな」

 そう言うや、橋本はバスローブを脱ぎ、少女を甚振いたぶった。


『死んでしまえ―― 死んでしまえ―― 死んでしまえ――』

 少女は心の中で、橋本に対する怨みを確認するかのように呟く。

 そして、この状況下においても、快楽に堕ちてしまう自分に対しても――


【お詫び】手違いによって、参であったこのページが、陸になっていました。

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