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姦~霊能三姉妹の怪奇事件簿~  作者: 乙丑
第十三話:大禿(おおかぶろ)
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拾・引き取り


 バシャッと、水にあたる音が、稲妻神社母屋の庭先で響き渡る。

「びっくりした」と葉月が声を挙げている。

 彼女は薄着をしており、服の色が白いためか、濡れた服が肌につき、薄いピンク色の突起物が見えている。

「しかし、よくビニールプールなんてあるの覚えてたわね?」

 ホースの先を摘み、水を飛ばしている弥生が縁側で桶に水をはり、それに素足を入れている皐月に尋ねる。

「ちょっと思い出してね。ほら、よくお父さんが忙しくて、海とかにいけなかったでしょ? それで私が駄々こねちゃって、買ってもらってたの思い出したの」

「あー、確かにそんなのあったわね。あんた、お父さん子だったから、よくお父さんと一緒に行くなんて言ってたっけ?」

 皐月は真っ赤になるが、真実である以上、言い返せなかった。


「それで、穐原さんが言ってたことって実現出来そうなのかな?」

「それはちょっと難しいわね。一度、児童養護施設に預けられるけど」

 弥生はそう言いながら、あの時の事を思い出していた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「り、李夢さんを引き取る?」

 弥生がそう云うや、穐原は頷いた。

「あんた、いくらなんでも」

「いえ、あの子があんな目に遭っていたなんて思ってませんでしたけど、どうして僕にSOSを出したのか、彼女に何時の日か直接聞きたいんです。でも、あの母親の元に戻したら、あの子は」

「確かに、二度としないという保障はないな。ただ、李夢さんは、もう一度児童養護施設に入ることになるんじゃよ?」

 湖西主任がそう尋ねる。

「わかってます。それに僕だって、すぐに彼女を引き取れるほどの経済力はないです。大学を卒業したら、働きます。いや、今からバイトを探して、地盤をしっかりしてからでも遅くないですよね?」

 穐原がそう言うと、拓蔵が、

「あんたが本気でそう思っておるんじゃったら、立派な男になって、あの子を引き取ってやってくれんかの? 他人を護りたいと思う気持ちは、容易なことではないがな」

「はい。覚悟はしています」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「後は児童養護施設との相談や、引取りにおける裁判云々、色々やらないといけないらしいわね」

 弥生はそう言いながら、どこか楽しそうだった。

「どうかしたの?」と葉月が尋ねる。

「いや、李夢さんがどうして、あの日あの駅にいたんだろうって思ってね」

「そういえば、始めて会った時、母親が家から抜け出したって云ってたわね?」

「子供が裸足で、遠くに行くのはつらいのよ」

 弥生がそう言うと、

「それじゃ、李夢ちゃんは最初から」

「ええ。多分だけど、大禿があそこまで案内したんでしょうね。李夢さんを護ってくれる人が来てくれるって」

 それが穐原だったのかは定かではない。



 誰かが役場内にある町長室のドアを蹴り破った。

「いったい何をしてるんですかね?」

 中に入ったのは数人の警察である。その中に阿弥陀警部も含まれている。

「き、君たち! い、いったい何者だ?」

 慌てふためく町長が、震えた指で阿弥陀警部らを指した。

「見てわからないんですか? 警察ですよ。あなたを不当な方法を遣った疑いと、殺害を依頼したことに対してね」

「な、何を言っているんだ? 私は何も知らんぞ」

「そうですか? それじゃ、この二人をみても?」

 阿弥陀警部はそう云うや、黒服の男二人を目の前に投げ入れた。

 彼らはあの時、華蓮と話をしていた黒服の男たちである。


「彼らから聞きましたよ。あなた、自分の条約を実行させるために、お金を使って、ある家族を利用してましたね。それを不審に思った鈴崎司郎を殺害させるためにも利用した」

「い、いったい何を言ってるんだ? 私はそんなこと知らんぞ?」

 町長が慌てふためくと

「好い加減にせんか? 自分の思い通りにならんから、人生は面白いんじゃろうが?」

 そう言いながら、王様ロワが町長室へと入っていく。

「お、お前はあの公園のゴミ虫ではないか? こんなところに何のようだ?」

「人の名前を使って、少女を襲ったのもお前か?」

「い、いったい何の事だ? いったい何の冗談だ? 私は町長じゃぞ」

 町長がそう言うと、阿弥陀警部と王様ロワは顎を挙げた。


「あなたを最重要参考人として、連行します」

 町長の周りに数人の警官が立ち、町長の腕を後ろに回す。

「や、やめろ! お前たち、こんなことしてなんになると思ってるんだぁ」

 町長は喚きながら、連れて行かれた。

「葉月さんの霊視は間違ってませんでしたね。手袋の裏に犯人の指紋が付いてましたよ」

 葉月が霊視をした時に聞こえたのは、母親を止めようとした李夢の泣き声であった。

 ただ、声を知らなかったため、それに気付けなかったのである。


「しかし、犯人が手袋を捨てていなかったのは、まさに運だと思ったじゃろうな?」

 王様ロワはそう言いながら、阿弥陀警部を見たが、

「いや、恐らく李夢さんは母親が遣った事に違和感があったんでしょうね。だから、家が燃える前に血の付いた手袋を誰かに渡したかった」

 いや、指紋がなくても、被害者と同じ血痕が付着していたのだ。

 それだけでも十分証拠となった。


 後日、町長は汚職と不当な方法で条約を果たそうとした罰によって、辞任し、刑務所に連行された。

 鈴崎司郎殺害においては、町長に命令された華蓮が、実行犯であり、犯行を認めた。

 しかし、皐月を襲わせた事に対しては、いまだに認めていない。


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