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森のヒウノと空のリト (全70話)  作者: このはりと
第2章 ふたりが見る世界
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第17話 あなたと歩く街

 シズに手を振りながら下船《げせん》したヒウノとリト。ふたりの姿は街への玄関口《げんかんぐち》である港湾《こうわん》空間にあった。周囲に目をやると多くの旅客船舶《りょかくせんぱく》が停泊していて、大きな人の流れを生み出している。旅の喜びを抑え切れない笑顔と声。つられて歩調が軽やかになる。


「こんなにたくさんの人が集まるなんて。お祭りがあるのかしら」


 少女は人々の行く先で待つものに胸を膨らませる。我先にと駆け出した子どもがリトにぶつかり、そのまま人の波へと消えてゆく。「元気な子ね」と笑みを絶やさない彼女の手を取り、少年は人混みを避けるようリードする。


「もうすぐ街に出るよ」


 ヒウノに導かれ、少女は活気と喧騒《けんそう》、そして陽光の射すまばゆい輝きの下へと足を踏み入れた。



 *



「──ねえ、ヒウノ。ここから見える建物のぜんぶに、人が住んでいるの?」


 街を見渡し、驚きを露わにするリト。よほど感銘を受けたのか、まばたきを忘れ瞳を潤ませている。他の観光客とは明らかに異なる感情の動き。少年はこれまでにも同様の反応を見せた彼女を思い出したが、話してくれるまで待つと決め、意識の外へと追いやった。


「僕たちがいるここは観光街なんだ」


 久しぶりに訪れたためか、ヒウノの気分も高揚していた。そこは中央大陸の東端にある、世界でも有数の観光地。

 バニラホワイトの石畳が敷かれた目抜き通りには、旅行を楽しむ人だけでなく、自動車や路面電車が行き交っている。赤色のレンガ屋根で統一された建物が道の両脇に並び、宿泊・服飾・食料品など多様な店が連なり活況《かっきょう》を呈《てい》していた。

 街の中心にはランドマークとしてそびえ立つ時計塔と、足下に緑豊かな自然公園があり、太い川がぐるりと周囲を流れている。低い鐘の音が響き、巨大な跳ね橋がおりてゆくのが見えた。


「どうしてかしら。こんなに大きな街なのに、とても落ち着くわ……」


 温《ぬく》もりのある色に包まれ、アンティークな雰囲気を漂わせる景観がこの街の持つ魅力であった。

 ほうとため息をつき、ふらりと歩を進めるリト。その手を何者かに勢いよく引かれ、突然目の前が真っ暗になる。彼女のいた場所を車が通り過ぎてゆく。顔をあげた少女は、自身がヒウノの胸に抱かれていたと知った。


「ごめん、痛かった?」

「ううん、なんともないわ。ありがとう。ごめんなさい、不注意で」

「手をつないで行こう」


 少年が微笑みながら手を差し出す。リトは彼の優しさをうれしく思い、品のよい所作でその手を取った。お互いの指と指をからませた握りかた。街ゆく年頃の女子たちが送る羨望《せんぼう》と憧れの眼差しを、当《とう》のふたりが気づいていないのは言うまでもない。



 *



(わたし、どうしたのかしら……。急に気分が悪くなって……)


 街並みを楽しんでいるさなか、リトはめまいに襲われ戸惑っていた。なぜ体調を崩したのか、はっきりとした原因がわからない。


「ちょっと休もう。ここで待っていて」


 少年を心配させまいと隠そうとしたが、つないだ手から伝わったのか、すっかり見抜かれていた。

 気づくと、いつの間にか人混みからはずれた閑静《かんせい》な裏通りにいた。街の賑わいが遠く聞こえ、屋根の落とす影が涼《りょう》を求める体に心地よい。壁にもたれかかり視線を横へ滑らせると、ガラスを隔てた先に飾られた女性用の衣服に目がとまった。


「このお洋服は──」


 リトは自分の格好とショーウィンドウに陳列された洋服とを交互に見た。窓越しにあるボルドーと、重なって映る青。色こそ違えど、そこには彼女が身につけているものと同じスカートがディスプレイされていた。

 ひっそりとした小路《こうじ》に建つ小さな洋裁店。おとぎ話の世界を想像させるたたずまいに惹かれ中を覗《のぞ》こうとすると、背中を快活な声に叩かれた。


「あの! そのお洋服、どうしてあなたが着ているんですか?」


 リトが振り返ると、自身と背丈が同じくらいの女の子が立っていた。

 上下どちらも黒を基調とした職業制服に身を包み、よほど訓練されているのか立ち姿が凛としている。肩口で揃えられたややくせのある短い髪と、整ったフェイスライン。勝気そうな目もとに見覚えがあり、リトは小首を傾《かし》げた。


「ここは『貴女《あなた》だけの一着』を作ってくれる、知る人ぞ知る名店です。ちょっと値は張りますが、女の子なら憧れちゃいますよね、ただひとつしかない、自分だけのお洋服。ああ、素敵──。つまり、あなたが身につけている服は、“誰か”のためのオーダーメイド品です」


 ころころとよく変わる表情と仕草《しぐさ》。愛らしい声は、決してリトを責めてはいなかった。そこではたと思い至る。


「──もしかして、シィちゃん?」


 名を呼ばれ驚きに目をぱちぱちさせる少女。不審がる様子はなく、瞳はすぐに出会いの喜びへと変わる。頷く彼女の顔に咲く大輪の花。リトはめぐり合わせも旅の楽しみのひとつと知るのだった。



 第17話 終

本話をお読みくださり、ありがとうございました。

もしよろしければ、つづきをお楽しみくださいませ。

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