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封戦機構《リミット・アリーナ》  作者: Y.M
第1シーズン

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23/25

「対話プロトコル」

《生成対象 → 対話対象へ移行》


 その一文が出た瞬間、空間の“圧”が変わった。


 攻撃でもない。修正でもない。生成でもない。


 ただ、世界そのものが「話す準備」を始める。


 佐倉 恒一は一歩も動かず、その変化を見ていた。


(話す……って何とだよ)


 相手は人間じゃない。


 観測体でもない。


 設計体でもない。


 生成核のさらに奥にある“仕様そのもの”。


 少年が小さく言う。


「最悪のパターンに入ったな」


「でも、同時に一番“上がれるルート”でもある」


「上がる?」


 佐倉が聞き返す。


 少年は視線を上げたまま答える。


「敵対してた層が全部、“会話可能”になったってことだ」


 空間が静かに展開する。


 目の前に“扉”が現れる。


 ただし物理的なものではない。


 情報の流れが一点に集まり、「入口」という概念として成立している。


《対話プロトコル領域:展開》


 その奥から、“声”が落ちてくる。


 だがそれは音ではない。


 意味が直接、認識に流れ込む。


《未定義存在》


《なぜ“拒否”する》


 佐倉は即答しない。


 いや、できない。


 質問の意味が広すぎる。


 少年が横で小さく言う。


「普通に答えろ」


「ここは“思想”を見てる」


 佐倉は息を吐く。


「拒否っていうか……」


「勝手に決められるのが気に入らないだけだ」


 空間が一瞬だけ揺れる。


《回答:確認》


 生成核の奥で、“何か”が動く。


 それは今までのどれとも違う反応。


 評価でもなく、修正でもなく。


 “理解しようとしている”。


《仕様再読込》


《未定義存在:観察継続》


 少年が眉をひそめる。


「やばいな……これ」


「何がだよ」


 佐倉が問う。


 少年は短く答える。


「お前の存在が、“仕様側の解釈対象”になってる」


「つまり……世界のルールが、お前を基準に書き換わる可能性が出てる」


 佐倉の中で、嫌な感覚が広がる。


(またか)


(今度は“俺基準”か)


 その瞬間だった。


 対話の奥が変質する。


《質問変更》


《核心プロトコルへ移行》


 空間が静止する。


 今度は軽い問いじゃない。


《未定義存在》


《お前は“何を望む”》


 佐倉は一瞬固まる。


(望む?)


(そんなの……)


 だがその問いは、逃げられない種類だった。


 戦闘でも観測でもない。


 “存在理由そのものへの質問”。


 少年が小さく言う。


「ここ、答え間違えると“形が固定される”」


 佐倉はゆっくり息を吐く。


 そして、答える。


「望むとかじゃない」


「俺は、決められないままでいい」


 空間が止まる。


《回答:矛盾》


《望まないことを望む構造》


 生成核が揺れる。


 初めて明確に“処理不能の思考”に触れたように。


《仕様:再評価要求》


 少年が息を呑む。


「今の……通したぞ」


 空間の奥で、“仕様そのもの”が沈黙する。


 そして、ゆっくりと変わる。


《対話結果:暫定承認》


《未定義存在:保留維持》


 佐倉 恒一はその文字を見て、静かに息を吐く。


(また保留かよ)


(でも……今までとは違う保留だ)


 少年が言う。


「お前、今“世界に保留権”持ったぞ」


「なんだそれ」


「世界が勝手に決めるのを、一時停止させる権利だ」


 空間の奥で、仕様がわずかに揺れる。


 まるで“初めて人間に見られた設計書”のように。


《対話継続準備》


 そして最後に、一行だけ追加される。


《未定義存在:次回回答保留》


 佐倉 恒一はそれを見て、小さく息を吐く。


(やっと対話になったかと思ったら)


(まだ途中かよ)

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