星夢をさがす探偵
ある日、雪が降る真夜中のお話。
静かな街でひっそりと暮らす、一人の若者がいました。
若者は、なんでも見つけられる探偵です。
失くし物を見つけたり、困っている人を助けたり。若者は、優しい心を持っていました。
でも、そんな探偵は、この世で一つだけ、見つけられないものがあります。
それは『夢』。
若者は小さなころ、将来の夢がなかったのです。
今は探偵の仕事をしているけれど、本当の自分は、何になりたかったのか。どんな自分でありたいのか。いくらさがしても、見つけることはできませんでした。
どんなものでもさがし出して、お客さんに返すことのできる探偵。
夢だけは見つけることができず、若者は不安でいっぱいの夜を過ごしていました。
空は黒い雲におおわれ、お月様が見えません。
冬の寒さに若者が凍えていると、玄関の扉がコンコンと、音を立てました。
「誰だろう?」
若者は起き上がり、目をこすりながら扉を開けます。
そこには、白いワンピースを着た幼い女の子が、今にも泣きだしそうな顔で立っていました。
若者はそっとしゃがみ込み、自分のマフラーを女の子に渡し、優しい声で言いました。
「そんな格好じゃ寒いだろう。こんな真夜中に、どうしたんだい」
すると女の子は、震える声でつぶやきます。
「探偵さん、私、大切なものを失くしちゃった。『星夢の本』を、見つけてほしいの」
「……本を失くしちゃったんだね。いいよ、僕が見つけてあげる」
若者がそう言うと、女の子は笑顔になりました。
「ありがとう、探偵さん!」
若者は玄関を閉め、寒い冬の外を、女の子と一緒に歩き始めました。
街を歩いている途中、若者は女の子に聞きました。
「星夢の本って、なんだい?」
すると女の子は、明るい笑顔を浮かべます。
「それはね、夢の世界に行ける本なんだよ! 『星夢の世界』っていうの。たくさんの夢が、きらきら輝く世界なんだ!」
「へぇ、そいつは面白そうな本だなぁ」
若者はにこりと笑って答えました。
ですが若者は、本当にそんな世界があるだなんて、思っていませんでした。
「どこで本を読んだか、覚えているかい?」
「街の先にある、丘の上。そこで読んでた」
「じゃあきっと、そこに本があるよ。一緒に見に行こう」
若者は女の子の手を引き、雪が積もる道を歩き続けました。
やがて、若者と女の子は、雪の色で真っ白な、丘の上へとたどり着きました。
「ここ、天気が良かったら、星が綺麗なんだけどな」
空には雲がたくさん。光る星は、ひとつも見えません。
「じゃあ、君の本をさがそうか。きっと雪の中に埋もれてるよ」
若者は地面にしゃがみ、冷たい雪を手でかきわけます。
女の子も若者の隣に座り、同じようにさがし始めました。
「あった! これだ!」
やがて、若者が大きな声を出しました。
青色で、たくさんの星が描かれた本が、雪の中に埋もれていたのです。
「これが君の本だよね。ほら、どうぞ」
「ありがとう! 探偵さん!」
女の子は大はしゃぎ。雪の上で何度も飛び跳ねます。
その元気な姿を見て、若者は静かに微笑みました。
女の子は本を大事そうに握りしめ、若者に言いました。
「私、探偵さんにお礼がしたい!」
「お礼だって? いいよ、僕は何もいらないよ」
「探偵さん、一緒に『星夢の世界』に行こうよ!」
「……なんだって?」
若者は目をまんまるにしました。
たくさんの夢が輝く世界なんて、本当にあるのでしょうか。
「『星夢の世界』なんて、本当にあるのかい?」
「うん! だって私、『星夢の世界』のお姫様なの!」
「えっ、お姫様!?」
若者はびっくり仰天。
なんと女の子は、不思議な世界のお姫様だったのです。
女の子は、「星夢の本」をそっと開きます。
中に描かれているのは、美しい星空が映る丘の上。翼が生えたペガサスが、空から舞い降りています。
「綺麗な絵……これってまさか、ここの丘の景色かい?」
「うん! 探偵さん、手を繋いで!」
女の子にそう言われ、若者は首を傾げながら、女の子の手を取りました。
すると突然、強い風が吹き始めます。
「うわっ!」
若者は思わず目をつぶってしまいます。
次に目を開けた時――若者は思わず、息を呑みました。
「これは……!」
なんと、真っ黒な雲が、みるみるうちに消えていくではありませんか。
色とりどりのお星さまが、空いっぱいに広がっていきます。
そして、真っ白に輝くペガサスが、翼を広げて空からやってきたのです。
「見て、空飛ぶお馬さんが迎えに来てくれたよ!」
「……僕、夢を見ているのかな」
「夢の中じゃないよ。夢をさがしに行く世界なの!」
女の子はステップをしながら、ペガサスの背中に乗ります。
若者は少しだけ戸惑った後、女の子の後ろに乗せてもらいました。
ペガサスは大きな翼を動かして、再び空へと飛びあがりました。
2人を乗せたペガサスは、みるみるうちに空高く舞い上がります。
地面が見えなくなるほど高くなると、若者は少しだけ、不安そうな声を出しました。
「……空へ行って、本当に大丈夫なのかな」
すると女の子が、遠くを指さして答えます。
「大丈夫だよ。ほら、見て!」
少女が指さした先には、煌めくお星さまが光を放っていました。
赤や青、緑や黄色、紫も。
数えきれない星々が、明るく輝いているのです。
やがて、空に虹色の橋がかかり、ペガサスが走り始めました。
女の子が両手を広げると、その姿が変わっていきます。
白いワンピースが、青と金色のふわふわしたドレスになり、頭には輝く王冠を被りました。若者からもらったマフラーは、いつのまにか星の模様が描かれています。
女の子は身を乗り出し、大きな声を出しました。
「みんなー、私を助けてくれた探偵さんだよ! パーティーをしよう!」
すると、若者の周りに、たくさんのカラフルな妖精たちが現れました。
妖精たちはクルクルと踊り、空を彩っていきます。
真っ暗な宇宙は、たくさんの星と光で、太陽よりも明るく輝きました。
「ここが『星夢の世界』。お星さまは全部、みんなの夢がつまっているの」
「すごい……」
若者の瞳は星が映り、きらきらと光り輝いていました。
「きっと、探偵さんの星もあるよ!」
「僕の星?」
「探偵さんの夢がわかるはず。みんな、案内してよ!」
すると、妖精たちが集まって、新しい虹の橋をかけ始めました。
ペガサスは大きく大ジャンプ。今度は新しい橋の上を、風のように走っていきます。
「僕の夢がこの先に……」
若者が、ずっと見つけることができなかった『夢』。
その答えは、この先にあるのでしょうか?
やがて、ペガサスが立ち止まります。
そこにあったのは、雲よりも雪よりも、真っ白なお星さまでした。
「……これが、僕の夢?」
若者の夢には、色がありませんでした。
他の夢はみんな、カラフルで綺麗だったのに。これじゃ夢が何なのか、わかりません。
「……やっぱり僕は、夢がないのかな」
少しだけ、期待していたのに……。
若者は悲しい思いが溢れ出し、うつむきました。
すると、女の子が声を出しました。
「違うよ、探偵さん! まだ、探偵さんの夢はこれから生まれるの」
「……えっ?」
「みんな、出てきて!」
女の子が声を上げると、妖精たちが楽しそうに空を舞い始めます。
「夢は星の数だけあるから。この世界で生まれるときは、必ず真っ白。でもそのうち、みんな違う色がついていくんだよ。流れ星になるまで、煌めき続ける光になるの」
「……僕の夢はいつ、色がつくの?」
「それは私にはわからない。でもいつかは必ず、探偵さんの色になる。『星夢の世界』に、きらきらしないお星さまなんてない。だって、みんな違う色なのだから!」
パーティーはいよいよ、クライマックスを迎えます。
ありったけの光は若者の周りで、声をそろえて歌い始めました。
「……どうやって、夢を見つけたらいいんだろう?」
「好きなものとか、楽しいこととか。自分らしさをずっと続けたら、星夢はどんどん膨らんでいく」
若者は、自分の好きなものを思い出しました。
コーヒー。温かいもの。人助け。
ふと若者は、こんなことを思いました。
「僕……もっとたくさんの人を助けたいな」
すると、真っ白だった星が、少しだけ桃色になりました。
若者は驚きます。女の子が、大喜びで言いました。
「見て! ほら、色がついた!」
「……これが僕の色……」
若者だけの色。同じ色の星は、他にありません。
「探偵さん、もっと好きなことをしてよ! 私、ここのお姫様だから、探偵さんの夢を、ずっと見守ってるよ」
女の子がそう言うと、歌っていた妖精たちが、光を放ち始めました。
自分の夢を見つめる若者は、少しずつ、妖精たちの光に包まれていきます。
「『星夢の世界』、楽しかった?」
「……うん」
「じゃあまたおいでよ。またいつか、本を失くしたら、さがしてほしいな」
その声はだんだんと、小さくなっていきます。
若者の目には最後まで、きらめく星々が映っているのでした。
そして――。
若者は、気が付けば白い丘の上にいました。
「……あれ?」
起き上がって周りを見ても、女の子の姿はありません。
光り輝いていた星々も、ペガサスや妖精も、もうそこにはいませんでした。
「夢……だったのかな」
若者はそうつぶやき、空を見上げました。
黒い雲はすっかり晴れて、お月様が真ん丸に輝いています。
そしてその横では、桃色のお星さまがきらきらとしていました。
「あれって、僕の星……」
そう、若者が見た『星夢の世界』は、夢ではありません。
今までずっと見つけられなかった将来の夢。若者は、それを見つけることができたのです。
「……人助け、明日からも頑張ろうかな」
若者の胸には、輝いて止まない夢の光が宿っています。
地面の雪は、不思議と冷たくありません。
お月様の光で煌めく雪の中を、若者は微笑みながら、歩いていくのでした。
冬の童話を書きたいと思い、この物語を考えました。
児童向けを想定しましたが、テーマは「夢」という難しいものを扱ってみました。
面白いと思っていただけたら幸いです。




