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夢想の苗木が育つまで。  作者: ONO大草原
第二話 光合成
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光合成 (後編)

部活動紹介の始まりはこれぞ The部活と言った雰囲気の野球部からだ、十数人のバッドやらボールやらを持った坊主頭達が舞台上に横並びになっている。

そして屈強な雰囲気の肩幅を持つキャプテンが活動日や活動実績,目標を力強い声で説明した後に数人が舞台下に降り、コーンで囲まれたエリア内で軟式ボールを使用したバッティング練習の実演が行われた。


「野球部はやっぱり厳ついな」

「そうだね、僕とは一番遠いタイプだ」

「それは自虐か?」

卓球部所属の石神は確かに普段は物静かで大人しい、それにしても一番遠いって程ではないと思うがな、お前は自分が思っているよりも人との関わり方が上手いぞ。

「ん?そう言えば、石神は卓球部の方の部活動紹介には参加しなくていいのか?」

「この学校の卓球部なんて、特筆して紹介する事も無いからね、部活動紹介は部長と副部長と副副部長だけで足りるんだよ」

副副部長って何だよとツッコみたくなったが、これ以上話を展開する気も起きなかったので「なるほど」とだけ返事を返した。


そして、部活動紹介は既に1年生女子の心を掴み取ることに成功し、キャーキャーと黄色い歓声を浴びたバスケットボール部、サッカー部と続き、次は女子バレーボール部の番だ。

と言うか、サッカー部の女子マネージャー流石に多すぎやしないか? パッと見ただけで6、7人は居たぞ。俺が知らないだけで、サッカーってこんなにも人材を必要とするのだろうか、もしくは〔誰が一番美味しい物を作れるか!スポーツドリンク ダービーマッチ〕でも開催するのだろうか。


そんな意味不明な想像をしている間にも、既に女子バレー部の紹介は始まっている。

多種多様....いや、大半は茶か金の髪色をしたユニフォーム姿のギャル達が舞台上に並び、恐らく部長と思われるプリンへアのギャルが自分のスマホを横目に部の紹介を始めた。

正直言ってこの部活の評判は学校内でも良くはない、素行不良者だとか校外で軽犯罪を犯した奴などが多く在籍していると言う話は、余り校内事情に詳しくない俺ですら知っている。

まあ、彼女たちの人生なのだから好きに生きればいい、そして後で苦しんでくれれば無問題(もうまんたい)だ。


「あ、栗田さんだ」

そう呟いたのは部活動紹介が始まってからと言う物、俺たちの会話を隣にしながらも黙々と部の紹介を見聞きしていた春日野さんだった。

舞台上の下手(しもて)側に立っている金髪、ミディアムロングを一つにまとめたポニーテール姿のギャルは確かに俺らのクラスメイト、2年6組の栗田さんだ。

「あの人、女子バレー部だったんですね」

「うん、私も今初めて知った」

どうやら昨日今日と彼女と会話をしていた春日野さんもまだ知らなかったらしい、そう言えば昨日の自己紹介時も栗田さんは部活動の話題に一切触れていなかったかもしれない。

帰宅部の俺ですら自己紹介では部活について触れざる負えなかったのに、部活の話題を一切出さなくても自己紹介用のエピソードを作れるのはギャルの強みの一つなのだろうか。


ギャルと言えば....

そう思い俺は豊島の方に顔を向ける、すると

「・・・・・・」

黙々とそしてマジマジとギャル達を眺める豊島の姿がそこにはあった、まあ何と言うか、誤解されないよう程々にしといた方が良いと思うぞ。



運動部の紹介も終わりに近づくにつれ、ダンス部、剣道部、弓道部、卓球部、と段々文化部との境目が曖昧になってくる、そして次の部活からはいよいよ文化部のターンだ。


文化部の一番手は吹奏楽部、吹奏楽部と言ってもこの学校では人数が全然集まっていないようで僅か6人しか部員は舞台上に姿を現さなかった、これでは大会などに参加しても結果を出すのは中々厳しい物が有るだろう。

それでも彼女達の演奏は素人の俺からしたら非常に良い演奏に聞こえ、指揮者の音楽教師がタクトをおろした時には自然と拍手をしていた。


「吹奏楽って何かいいよな、心がウキウキすると言うか」

さっきまで好色な目を女子生徒に使っていた奴とは思えないセリフを豊島が吐いている。

「僕はあのデカい楽器の音が好きだなー、ブオーッって音がインパクトある」

「チューバ良いよね!あのどこか温かみのある低音、私も大好き」

楽器の話だからか、石神の感想に釣られて春日野さんまで会話に参加してきた、どうやらここに居る奴らは程度に差はあれど吹奏楽を良い物と捉えられる心を持っているらしい。


「そう言えば春日野さんは芸術授業の選択もやっぱり音楽ですか?」

「うん! 工芸とかにも興味あったけど、前の学校との単位照合関係でね、この学校でも音楽選択だよ~」

「それなら俺と豊島と一緒ですね、金曜の三,四限はよろしくお願いします」

「良いな~、僕も音楽選択にすれば良かったよ、美術の先生は厳しすぎる」

残念だったな石神、入学前に教材費が一番安いからと言う理由で音楽を選択した俺の勝利だ。



その後は 美術部、イラストレーション部、ボランティア部、囲碁将棋部、写真同好会と続いて行き、いよいよ天文部の2個手前、化学部の紹介が始まった。

「百千、石神、そろそろ準備しに行くぞ」

豊島の声に促され俺と石神は覚悟を決める、嘘だ俺はまだ決まっていない、今になって羞恥心が爆発しそうになっている。

一瞬でも現実逃避をしたくなったので、隣に立っている春日野さんの方に顔を向け、彼女の立ち姿を拝む事にした。

やっぱり彼女の凛とした立ち姿は美しい、花で例えるとあれだ、8月のロシア向日葵のような美しさだ。


「みんな、頑張ってね!」

再びの春日野さんからの声援、その声に反応をして豊島は彼女の方を見ながら笑みを浮かべ、石神は少し照れくさそうに会釈を返していた。

彼女の声援を無下には出来ない。

俺は一呼吸をしてから「はい」と返事をした。



結論から言おう、天文部の部活動紹介は見事にスベった。

舞台袖からオリオン姿の石神と蠍姿の俺が出陣した時はその異質な姿からか、多少なりとも笑いなどが起きていた。しかし、肝心の劇は鳴かず飛ばずと言った感じで、ただ黙々と時間が流れていき、最終的には劇終了後、舞台袖から出てきたマイクと望遠鏡を持った豊島が、活動日や活動内容などを説明すると言った部活動紹介のテンプレートに沿った演説をしてから、俺達は舞台袖へと()けた。


「良い部活動紹介だったな!」

舞台袖で豊島が元気よく発言をした。

俺はこの発言に、何と返すのが正解なのか分からなかったので一旦沈黙を決め込んだ。石神も同じ雰囲気だ。


「これ、劇必要だった?」

数秒の沈黙後、石神がようやく声を出した。冗談交じりの言い方で当然の疑問を口に出している。

「反応自体は薄かったが視線はしっかりと集めてたからな、その後の演説を聞かせるための掴みとしてはバッチリだ」

果たして本当に最初からその役割を狙っていたのだろうか、劇の受けが想像よりも悪かったから豊島が急いで舞台袖から出てきたように見えたが.....恐らく、俺らに気を遣わせない為の豊島なりの配慮なのだろう。


「そう、なら良かったよ。」

石神もその意図を理解したのか、笑みを浮かべながら返事をしていた。


「でも、本当に良い劇だったぜ?石神と百千はちゃんと俺のセリフ通りに動きを付けてくれたし、俺の朗読も素晴らしい物だったしな」

確かに、自画自賛するだけあり豊島の朗読はヤケに上手かった、そこは評価してやらんこともない。

ただ、蠍がオリオンを刺すときのセリフが『アチョォー』だったのはどうしてだ?朝のリハーサルではそんなセリフ聞かなかったぞ。


「と言うか百千、劇の最中顔こわばり過ぎ、面白過ぎて吹き出しそうになっちゃったよ」

石神から指摘をいただいた。

今回改めて気づかされたが、やはり俺は大人数に注目されるのに向いていない。

何食わぬ顔であの舞台に立てていたコイツらと他の部活の奴らを尊敬してしまう。


「舞台の上に立ってみると、思ったよりも多くの視線を感じて緊張してしまってな、顔に筋肉を集めることに集中する事で精神的ダメージを抑えていたんだ」

例え友人相手だとしても自分の未熟な部分を告白することは少々恥ずかしい、もしかしたら暫くの間あいつはビビリだとネタにされてしまうかもしれない。


「よくその状況で最後までやり切れたね、お疲れ様」

「苦手な事を頼んで無理させちっまたかもな、百千 大丈夫か?」


....俺はバカだな、こんな良い奴らを少しでも疑ってしまった。再発防止のため今夜のベッド内一人反省会の題材にするとしよう。

「ああ、何とか致命傷で済んだから大丈夫だ。」


俺と石神は舞台袖の暗闇で衣装を脱ぎ、制服へと着替え直した。

流石に入学して一年も経つとブレザーに身体がスっと入るようになっている。



茶道部の部活動紹介が佳境に入っているなか、舞台から降りた俺達は春日野さんと再び合流をした。

「みんなお疲れ様! 面白い紹介だったよ!」

開口一番、春日野さんは天文部の紹介について感想を述べてきた。

「ありがとうございます!、どうですか天文部に入りたくなってくれましたか?」

「ちょっと興味沸いたよ!」

良かったな豊島、入部してくれるかも知れない確率が0%から0.2%くらいに上がってそうだぞ。


その後は部活動紹介の大トリ、軽音部の紹介兼ミニライブを舞台から反対方向の壁に寄りかかり、皆で鑑賞をした。

強烈に歪を作られているギターとベース、髪を荒ぶらせながらダイナミックに手を動かし続けるドラム、明日の喉の調子が心配になってしまうほどの雄叫びを出しているボーカル。

部活動紹介を見に来た一年生達には、初めは困惑を示している者も多かったが、部員たちのMCを経て2曲目に入ろうとする頃には過半数が既に沸点へと到達していた。


「部活動紹介にしては少々ハード過ぎやしないか?」

「この学校の生徒は血の気が多いからな、このくらいで丁度良いんだろ」

「耳が痛い.....」

「私は結構好きだな~ 何か、青春って感じがする」

俺達に三者三様の反応を見せた軽音部のライブも終わり、これで長かった部活動紹介も終了だ。


帰宅する1年生の波を見送ると、春日野さんも「じゃあ私はここで、今日は一緒に部活動紹介見てくれてありがとう!」と別れの挨拶を残して体育館を出て行った。


「はぁ、ようやくひと段落って感じだね」石神が指を組んだ腕を上げ、背筋を伸ばしている。

俺もようやく肩の力が抜けきり、閑散とした体育館を見ながら安堵感に包まれていた。

片付けを手伝ったら、すぐにでも図書室に籠るとしよう。


「百千と石神、今日はマジで助かったぜ!片付けは俺がやっとくからお前らは先に帰っていいぞ!」

豊島、お前は本当に気が利く奴だな、もう少し性癖を広げたら結構モテるんじゃないか?


「ありがと、じゃあまた明日な」

体育館を出た俺は、武道場で卓球部の練習が有ると言う石神と別れの挨拶をしてから 図書室へと歩を進めた。

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