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夢想の苗木が育つまで。  作者: ONO大草原
第二話 光合成
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光合成 (中編)

静かな教室で机にへばり付いていた俺に春日野さんが挨拶をしてくれた。

少々不格好ながら挨拶を返した俺は、目前のおろしたてでまだ硬さが残っているブレザーに少しばかり春を感じつつ、彼女の顔に視線を合わした。


「もー、また私の顔じっと見つめてるー、やっぱり私の顔に何か付いてるんじゃない?それとも、私の顔変な所ある?」

どうやら俺は無意識のうちに再犯を犯してしまったらしい、これは情状酌量の余地も貰えないかもな。


「すみません寝不足気味でぼーっとしてしまいました、顔の方なら大丈夫です、何の問題も無い、ご尊顔を拝見できて光栄ですよ」

また良く分からないことを口走ってしまった、恥ずかしい。


俺の発言を聞いてふふっと声を出した彼女は

「私の顔がとっても良いのは分かるけど、ご尊顔は言い過ぎじゃない?」

と俺の戯言に笑みを浮かべながら返事をした、謙虚さを出しながら自分の顔の良さは肯定する、均衡を取るのが上手い人だな。


静かな教室で二人だけ会話をしていたからだろう、小声でのやり取りだったのに随分と目立ったのか、机でスマホをいじっている他の生徒からは横目での視線攻撃をくらった。

関わりの無い人間から注目されるのは余り好きじゃないが、今日の午後はこの何十倍もの目線に晒されなければならないのだ(しかも蠍の姿で)、このくらいの視線では動じないようにならなくては。


HR開始まで10分程になると段々と登校してくるクラスメイトも増えてきた、その内の一人栗田(くりだ)さんは教室内に入るや否や自分の机にジャラジャラと小さなぬいぐるみを付けてある鞄を置いた後、春日野さんに話しかけてきた。

「春日野さんおはよ」

「栗田さんおはよう~」

まだ知り合って浅い人間同士特有の何とも初々しい挨拶をしている、昨日栗田さんがその他大勢と一緒に春日野さんへ質疑応答をしていた時はとてもフレンドリーに話していたように見えたが、一対一の会話となると勝手が違うようだ。


女子同士の会話に混ざれるはずもなく、俺はHRが始まるまでもう一度机にへばりつくことにした。

その間も彼女たちの会話は続き、何となく聞き耳を立ててしまっていると、俺は栗田さんの発言に驚かされる事になった。


「そう言えば芽久(めぐ)は何処の学校から転校してきたん?」


この数分で下の名前呼びまで関係を向上!?流石はギャル、と言う驚きもあったが問題はそこではない。俺が昨日してしまった質問、春日野さんが返答に困っていた質問を昨日のことなど何も知らない栗田さんが春日野さんにしてしまっていた、一体春日野さんはどんな反応を見せるのだろうか.....。



「え~とね....、白雲(しらくも)高等学校って所だよ」

俺はまたしても驚かされた、昨日はあんな返答に悩んでいたのに春日野さんは栗田さんの質問にはあっけなく答えた、白雲高校....前に聞いたことがある、確か千葉県の有名な私立学校だったか。


「え~何処それ~」

「知らない?」

「知らなーい」

「ここら辺だと知名度低いのかもね」

「後で調べてみる~」


そんな会話が後ろの席で繰り広げられてる中、HR開始のチャイムが鳴った。

正直色々聞き出したい気持ちはあったが、人目も有るしな、まあまた別の機会にしよう。

立ち上がっていたクラスメイトも自分の席に戻り、何人かの生徒はチャイムが鳴り終わるまでに教室内へ滑り込んで来た。おい豊島、お前は90分前には学校に居ただろうに何故遅刻しそうになっている。


朝のHRでは担任教師が5,6限目の部活動紹介に参加しない生徒は4限目が終わり次第帰宅してよいと改めて説明をしていた、本当なら俺は4限目が終わった瞬間にさっさと図書室に籠りたかったのだが、急用が入ってしまったのでな、悔しいが潔く諦めるしかない。


水曜の4限目の授業は体育、今年度最初の授業内容は例年通り体力テストだ、男女で館内科目とグラウンド科目で別れて測定を行う。

今日は男子が館内科目を測定する日で 3限目が終わり次第 俺は体育館履きとジャージを持って男子更衣室へ向かった。

電気を付けてもまだ薄暗い 少しカビ臭い更衣室で浅緑色のラインが入ったジャージへと衣装替えをしてから体育館内へ出向き、チャイムが鳴った後、教師による点呼と計測前の準備運動が行われた。


左手の握力42kg 右手が45kg 上体起こし26回 反復横跳び50回 立ち幅跳び239cm 長座体前屈 60cm...

特に凸も凹も無い記録を出しては記録用紙に書き込んで行く、ついでの様に計測された身長は173cm、去年よりも0.5cm伸びていたからこのまま行けば71歳を迎えるころには夢の身長2mだな。


今日の通常授業はこれで終了、部活動紹介に縁のない生徒は直ぐにでも帰宅したいのか迅速に体育館を出て行った、俺と豊島は更衣室で着替えてから 活動日には天文学部の部室扱いをされているらいしい4階の地学室で石神と合流をし、昼飯を食べながら作戦会議と言う名の雑談が始まった。


「地学室には初めて入ったが結構綺麗なんだな」

この学校では2年時に地学基礎か物理基礎を選択して履修しないといけない、俺は豊島が『なあ、来年の理科選択 一緒に物理基礎にしないか?』と言ってきたから余り深く考えずに物理の方を選択してしまったが 昨日の初回授業時には早くも後悔したね、この学校にしては珍しく授業内容がしっかりし過ぎていて付いていける気がしない。


「物理室の方は大分古びてたからな それに比べてこっちの部屋は机や授業機材も新しそうで羨ましい、そう言えばそこに望遠鏡が何台かあるだろ?それも念のため1台体育館に持っていきたいから飯を食い終わったら手伝ってくれ」


「それは別に構わないけど、劇の方は本当に大丈夫なの?多分ダダ滑りするよ」


石神が当然の疑問を豊島に投げかけた、確かに今になって俺も不安が再発してきたぞ、ただでさえ軽音部のドラムやらアンプやらが設置されている狭い空間の舞台上でダイナミックな動きを出来るわけも無いし、照明係が居る訳でもないから臨場感のカケラも無いしな。


「そこはまあ、俺の朗読力に期待してくれ、もし滑ったとしても.....ほら、赤信号皆で渡れば怖くない、だろ?」


「勝手に危険な横断歩道を渡らされる俺らの為にも”一応”は期待しとくぞ」

「百千に同じく」


昼飯も食べ終わった所で 豊島と石神は地学室の奥に置かれていたダンボールとガムテープを持って先に体育館へと向かっていった。

対して 石神とのジャンケンで負けた俺は地学室から望遠鏡を体育館へと持ち運ぶ、小柄な望遠鏡だからか三脚が付いているとは言え想像していたよりは軽くて助かった、4,5kgぐらいだろうか?


部活動紹介開始まで後20分少々 先に体育館へ到着していた豊島と石神は舞台袖で突貫のダンボール工作をしていた、どうやらオリオンの棍棒を作っているらしい。

「豊島、結局ライオンの毛皮はどうするの?」

「ああ、それならさっき家庭科室で黄色のテーブルクロスを借りてきた、本当はもう少し毛皮感のある材質のが良かったんだがな」

「まさか家庭科の先生もライオンの毛皮を求めて訪ねて来る奴が居るとは思ってないだろうよ」

「それもそうだな」


石神らが棍棒を完成させた頃には徐々に体育館内の人数が増えていた、運動部のパフォーマンスの為に舞台側からフロア中央周辺に置かれた三角コーンの外側になるように人が埋まっていく、その大半は入学したてでまだ息吹高校の雰囲気に飲み込まれていない1年生だ、この白布達の殆どが有らぬ色に染まって行くかもしれないと思うと心が痛いな。


天文部ら文化部の出番は運動部の後でまだ時間がある為俺らは一旦フロアへと降り、入り口側の壁沿いから暫くは部活動紹介を見守ることにした。


「俺らの番は....生物部の後で茶道部の前だな」

「後ろから3番目か、大分後だね」

「他の部活が目的の奴はその部活の紹介を見次第さっさと帰る奴もいるだろうし、後ろの方が悲劇的な物を少しでも多くの人に見られなくて済むから良いんじゃ無いか?」

「でも、一番最後の軽音部を目当てに見に来てる子は多いだろうから結局そんなに変わらないと思うよ」

「百千、始まる前から悲劇的とは何だ悲劇的とは、いやでも...オリオンが蠍に殺されるのは悲劇と言えばそうかも知れないな」


何て雑談をしているときにも、体育館の入り口を跨ぐ人物がまた一人...

この学校では珍しいコツコツと気品のある歩き方、新入生達の青色の館履きに混ざるには少々目立つ緑色の館履きに 女子にしては少し高めの身長、間違いない

春日野さんがやって来た。



体育館に入って来た彼女は一旦場の雰囲気の確認の為か辺りを見回した後、俺らに気がついたのか歩を進めてきた。

「百千君! それと、、豊島君だよね? 二人とも部活動紹介を見に来たの?」

俺と豊島が挨拶を返し、石神が軽い会釈をしてから質問の返事を返した。

「違います、俺とここに居る1組の石神は何故か豊島の部活動紹介を手伝う破目になったんです」

「そうなんだ、豊島君は何の部活動をしているの?」

「天文部です、春日野さんもどうですか?今天文部に入部したら即座に副部長の席へ座れますよ」

豊島が何とも強引な勧誘をしている、そんな誘い方じゃ推薦入試の為に調査書を濃くしたいような輩ぐらいしか引っかからないぞ。

「考えておくね!」

ほら、はぐらかされた。


「春日野さんは何の部活動をするか決めるためにここに?」

「うーん....部活動に入るかは悩んでるんだけど、一応 一通りの部活動紹介は見とこうかなって」

どうやら取り合えずの下見程度って感じらしい、そう言えば昨日の自己紹介の時<前の学校では部活動を頑張ってた>と言っていたが、一体何の部活に所属していたんだろう......聞いてみるか?いや.....


「前の学校ではどんな部活動をやっていたんですか?」

まさにいま俺も気になっていたことを豊島が聞いてくれた、昨日の事があって前の学校の事を探る質問をする気にも為れなかったからな。


「文化部だよ~、スポーツはそこまで得意じゃ無いから、授業でやるくらいなら好きなんだけどね」


またこの人は随分と曖昧な返答をしている、文化部と言っても 情報系,芸術系,理科系,囲碁将棋部じゃ抱く印象もかなり違うんだが。

「なら尚更 天文部に向いていますよ、是非」

「豊島 諦めが悪いよ、大人しく新入生を勧誘しないと」

果たしてあの劇を見て天文部に入りたいと思う奴は居るのだろうか.....

もし入部希望者が居たとしても、そいつは多分劇なんかしなくても天文部に入る気があった 元から夜空とかが好きな奴だと思うぞ。


「新入生の勧誘頑張ってね! 」

春日野さんの元気な声援が眩しい。その言葉を聞いて活き活きとしているのは豊島だけで、俺と石神はお互い何とも言えない顔になっていた、と言うかあの蠍姿を春日野さんに見られるのか、恥ずかしすぎて明日からはもう顔を合わせられないかもしれない。


そんな考え事をしている間に体育館内の設備時計は時刻13時15分を指し、 新年度部活動紹介が始まった。

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― 新着の感想 ―
やっぱ底辺校といえばギャルだよな。
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