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タマとアフロと新しい日常

おじいさんとおばあさんは、縁側でタマを撫でながら、穏やかな午後の時間を過ごしていた。


「うしろの空き家、売れたみてぇだちゃ。」おじいさんがのんびりと言う。


「ほんとだべ。こんな田舎の家も売れるんだちゃもの、すごいことだなぁ。」おばあさんも感心して頷いた。


「でも、都会の人だったりすんのかなぁ?」おじいさんがニヤリと笑う。


「おじい、まだ狙われんでねが?」おばあさんが冗談半分に言うと、おじいさんは胸を張って答えた。


「おらの筋肉、まだまだ現役だべ。都会の嬢ちゃんたちもほっとかねぇど!」


「じょうだんばい!」おばあさんが吹き出し、ふたりはタマの柔らかな毛を撫で続けた。


そのとき、玄関の方から「こんばんはー」と明るい声が響いた。


おばあさんとおじいさんは驚き、タマを膝からそっと降ろすと、玄関へと向かった。


戸を開けると、そこにはにっこりと笑うナナミが立っていた。


「ナナミ!」おばあさんが目を丸くし、隣でおじいさんも目を見開く。


おじいさんは思わず声を上げた。「まさか、おめぇが!? うしろの空き家を買ったんか!」


ナナミは得意げに頷いた。「うん! そうなんだよ、私が買ったの!」


「おめぇ、家買う金あったんか?」おじいさんが半信半疑の表情を浮かべる。


ナナミは少し照れくさそうに笑い、「コツコツ貯めてたしね。それに、ここが気に入っちゃったの」と答えた。


おばあさんは感心したように微笑み、「まさかお前がこの村に根を張るとはなぁ」と言った。


「でも、どうしてあの家を選んだんだべ?」おじいさんが首をかしげる。


ナナミはにっこりと笑い、「タマちゃんと、おじいさんの筋肉にも会いたかったから!」と冗談めかして答えた。


おじいさんはニヤリと笑って、「やっぱりおらの筋肉か!」と肩をすくめる。


おばあさんは笑いながら、「タマと筋肉、どっちが本命なんだべ?」と茶化した。


ナナミは肩を竦め、「もちろんタマちゃん。でも、ここでの暮らしも気に入ってるの。風景も、みんなも。なんか落ち着くの」と優しく言った。


おばあさんはその言葉に目を細め、「それなら安心だ。ナナミ、ここはお前の家だべ」と温かく言葉を返した。


その夜、ナナミは新しい家でタマと一緒にくつろぎながら、「ここでの生活、きっと楽しくなる!」と胸を膨らませていた。



---


翌朝、妙な静けさが彼女を迎えた。


「ん?なんか、静かすぎない…?」


おじいさんの家に着くと、玄関は開いているのに中から誰の声も聞こえない。ナナミは首をかしげながら中に入った。


「おじいさん?おばあさん?タマちゃん?」


しかし返事はない。ナナミが家の奥に進むと、居間のテーブルに置かれた一枚の紙が目に入った。


『タマがいねぇ!村中総出で探してくる!メシは冷蔵庫にあるべ!』


「ご飯の心配してる場合じゃないでしょ!」


ナナミの目が一瞬で真剣になった。



---


ナナミはすぐさま村を駆け回り、タマの行方を探し始めた。途中でスナックのママやお店のおばちゃんたちにも出くわす。


「ナナミちゃんもタマ探してんのか?」

「タマちゃんは私が見つけるわ!この直感、信じてね♡」


ナナミはそう言い放つと、村の外れにある森へと足を踏み入れた。


森の中を進むナナミの耳に、微かにタマの鳴き声が届いた。


「ニャア…ニャア…!」


「タマちゃん!!」


声のする方へ駆け寄ると、タマは木の根元で小さな怪我をしてうずくまっていた。ナナミは急いでタマを抱き上げ、優しく撫でながら呟いた。


「大丈夫よ、タマちゃん。もう安心だからね。」


その瞬間、背後から聞き覚えのある声が響いた。


「おーい!ナナミ!!」


振り返ると、そこには泥だらけの姿で立つ元カレがいた。**片目は青、もう片方は金色のオッドアイコンタクト、頭には信じられないほど真っ白でふわふわの巨大アフロ。**その奇抜な姿に、ナナミは一瞬言葉を失った。


「なによ、その目に頭!まさか、タマちゃんの真似してるの?気持ち悪いんだけど!」


元カレは顔を赤くしながらも、必死に反論した。


「うるせぇ!お前、タマのモフモフ好きだろ!これなら俺も少しは…」


ナナミは呆れた顔でタマを見つめる。


「はぁ…。あんた、タマに勝てるわけないでしょ。」


タマの手当てを終え、ナナミと元カレはおじいさんの家に戻った。おじいさんとおばあさんがタマの無事を確認すると、二人はホッとした顔でナナミを見つめた。


「ナナミ、ありがとな。」 「おら、ナナミンのこと誤解してたかもしれねぇ…。」


おばあさんもクワを置き、ナナミに微笑んだ。


「おめぇ、本当にタマのこと大事に思ってるんだな。」


ナナミは少し照れくさそうに笑いながら、タマを撫でた。


「当たり前でしょ。タマちゃんは私の大事な家族なんだから。」


その瞬間、タマがナナミの膝の上でゴロゴロと喉を鳴らし始めた。


そこで、元カレが少し前に出てきてアフロをフワッと揺らした。


「俺も…その家族の一員に…」


ナナミはじっと元カレを見つめた後、ふと悪戯っぽく笑った。


「じゃあ、交換する?タマちゃんとあんた。」


おじいさんとおばあさんは一瞬固まった後、大笑い。


「ナナミ、それはひでぇべ!」 「ほんとだ、おめぇ冷てぇな!」


元カレは顔を真っ赤にしながら叫んだ。


「冗談だろ!?俺はタマの代わりじゃねぇ!」


タマはゆっくりと目を開け、元カレの方をじっと見つめた。


「なんだよ?タマ、そんなにじっと見ないでくれよ…」元カレは気まずそうに言いながら、ふとアフロの髪を手で軽く直した。


タマは一瞬クンクンと元カレのアフロを嗅いだかと思うと、突然ピョンと飛び上がり、その真っ白なモフモフにしがみついた。**「ニャア!」**という満足げな声が響き、元カレは目を丸くした。


タマはアフロに潜り込み、まるで巣作りでもするかのようにゴソゴソと動き始めた。元カレは「おいおい、そこはお前のベッドじゃねぇ!」と叫びながらも、動けずに固まっていた。


ナナミもその光景を見て驚き、思わず吹き出した。


元カレは顔を赤くし、アフロをさらにふわっとさせながら言った。「お、俺のアフロがタマのお気に入りか?そんなこと…あるか?」


「タマには好かれてるのに、ナナミは冷てぇんだな…」

元カレがポツリと呟く。


ナナミは肩をすくめ、タマを撫でながらあっさりと返した。


「タマの方がモフモフしてるからね。」


タマはその後もアフロに頭をこすりつけ、満足そうにゴロゴロと喉を鳴らし始めた。


おじいさんとおばあさんは、タマが元カレのアフロを気に入った様子を見て、驚きとともに笑いをこらえきれない様子だった。


おじいさんが、腕を組みながら大笑いし、「おめぇ、タマに好かれたんだな。でも、アフロ気に入られるなんて、なかなかだべ!」とからかうように言った。


おばあさんも微笑みながら、「おらもびっくりしたわ。タマの嗅覚、侮れねぇな。アフロのモフモフとタマ、どっちも可愛いもんな。」と言って、タマと元カレのやり取りを楽しんでいた。


そして、おじいさんがニヤリと笑いながら、元カレに向かって言った。「でも、これでおめぇもタマの仲間になったんだべ。タマに勝てるように、もっとアフロ磨けよ!そのままアフロに猫耳でもつけたら完璧だべ!」


おばあさんがニヤリと笑いながら言った。

「ほんとだ、次の祭りの仮装にちょうどいいべな!」



---


ナナミの家には、都会で買い揃えた最新の猫グッズが並び、タマもその快適さに大満足。 大きな窓からは田舎ののどかな景色が広がり、タマは窓辺で日向ぼっこをするのが日課になった。


一方、元カレも都会には戻らず、村に通い続けるうちに本格的に村での新しい生活を始めていた。最初はナナミに未練たらたらだった元カレも、村の人々との交流を通じて少しずつ変わっていった。


「ナナミ!この前、畑の手伝いしてきたんだぞ。結構楽しかったかも。」


「へぇ~、都会の男が泥まみれになってるなんてね。少しは成長したんじゃない?」


ナナミはからかいながらも、その変化をどこか嬉しく感じていた。元カレのアフロはまだ健在で、タマと並ぶとまるで兄弟のようだったが、村人たちは相変わらず笑いながら言った。


「おめぇ、タマのモノマネでもしてんのが?」「ほんと、どっちが猫だかわかんねぇべ!」


元カレは頭を掻きながらも、村の生活に少しずつ馴染んでいった。それでも、タマがナナミに甘えるたびに少しだけジェラシーを感じていたのは、ここだけの話だった。


こうして、ナナミとタマ、そして元カレの新しい日常が村で静かに、でも確かに始まったのだった。

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