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筋肉とモフモフとナンバーワン

ナナミは高級キャットフードの袋を片手に、おじいさんの家へと向かった。タマをスナックの看板猫にする作戦を練りながら、その足取りは軽快。しかしその瞳には、まるでハンターのような鋭い光が宿っていた。


「今日こそ、タマちゃんは私のものよ!田舎のスナックでナンバーワンになって、ガッツリ稼ぐんだから!」


都会の生活費は高すぎて、気付けば財布はいつもカラッポ。都会でナンバーワンになれなかった悔しさもあったけど、ナナミはすでに切り替えていた。田舎でなら、タマを看板猫にして人気を集めれば、ナンバーワンになるのも夢じゃない。おじいさんの筋肉に癒されながらなら、どんな仕事だって頑張れる気がしていた。


おじいさんの家に到着すると、古びた玄関がギィィと音を立てて開き、おじいさんが顔を出した。


「おぅ、ナナミン。また来たんか。今度は何の用だべ?」


ナナミはにっこりと愛想よく笑い、バッグから煌びやかなパッケージのキャットフードを取り出した。


「今日はね、タマちゃんに特別なおやつを持ってきたの♡ それと…タマちゃん、スナックの看板猫にしない?絶対お店の人気者になるって!」


おじいさんは眉をひそめて言った。


「ほぅ、そんなもん食わせたらタマが贅沢になっちまうべ。それに看板猫なんて、タマが都会のもんみてぇに扱われるのはごめんだ。」


ナナミは少しムッとしながらも、ニコニコと押し通した。


「でも、タマちゃんの可愛さをみんなに見せたいだけよ。お店も繁盛するし、タマちゃんも注目の的!ほら、いいことづくめでしょ?」


その時、玄関の奥からふわふわのターキッシュアンゴラ、タマが悠然と姿を現した。ナナミは目を輝かせ、タマに駆け寄ろうとした瞬間――


「ナナミ!!」


突如、背後から怒鳴り声が響いた。驚いて振り返ると、村の坂道を元カレが全力で駆け上がってくる。息を切らしながらも、目はナナミに釘付けだ。


「ぜぇ…ぜぇ…タマに会いたくて、俺も絶対一緒に行くから!頼む、連れて行ってくれ!」


ナナミは一瞬固まったが、すぐに涼しい顔で返した。


「いいけど。ほら。」


ナナミの指差す先を見ると――そこには優雅に毛づくろいをするタマの姿。


「……え!?猫!?俺、猫に対抗心燃やしてるのか?」


膝から崩れ落ちるように座り込む元カレ。その様子を見たナナミは吹き出しそうになりながらも、彼の肩をポンポンと叩いた。


「あんたのヒョロヒョロな腕じゃ、タマには勝てないわね。おじいさんの筋肉の方が断然魅力的なんだから♡」


おじいさんは頭をかきながら、まんざらでもない顔でつぶやいた。


「お、おらの筋肉もまだ捨てたもんじゃねぇなぁ…。」


元カレは慌てて立ち上がり、腕まくりして筋肉を見せつけた。


「見ろ!俺も鍛えたんだ!お前が“おじいさんの筋肉はすごい”って言ってたから、俺も本気でトレーニング始めたんだぞ!」


ナナミはその言葉に一瞬驚いたが、すぐにクスクス笑いながらタマに目を向けた。


「ふふ、でもタマちゃんのモフモフには勝てないわね。」


その時、背後でギシギシと不穏な音が響く。おばあさんがクワを握りしめ、鋭い目つきで二人を睨んでいた。


「おめぇら、何ぬかしてんだべ!!タマを看板猫?そんな都会みてぇなことさせるんでねぇ!」


ナナミは驚きつつも笑顔で返した。


「だって、おばあさん!タマちゃんがいればお店がもっと賑わうんだから。ね?お客さんも喜ぶし――」


「バカ言ってんでねぇ!タマはうちの家族だべ。猫に商売させるなんて恥ずかしいこと、村じゃ通用しねぇんだ!」


おじいさんもおばあさんの勢いに圧倒されながら、そっとタマを撫でた。


「おらも、おばあも、タマも家族だべ。商売に使うんじゃねぇ。」


ナナミは少し唇を尖らせながらも、タマを優しく抱き上げた。


「…わかったわ。でも、タマちゃんが可愛いのは変わらないんだから♡」


元カレはふとタマをチラリと見てつぶやいた。


「…でも、この猫、確かに可愛いな。」


「でしょ?でもタマちゃんは私のもの♡ あんた、もう帰っていいわよ。」


元カレはナナミの後ろ姿を一瞬見つめたが、結局何も言えずに帰っていった。村の空気に馴染めなかったのか、それともナナミの勢いに圧倒されたのかは定かではない。


おばあさんはため息をつきながらも、クワを握り直しておじいさんに鋭い視線を送った。


「おじい、筋肉もいいけど、大事なもん忘れてねぇか?」


おじいさんが少し照れながら「お、おらの筋肉もまだまだ現役だけどよ……おばあ、おめぇが一番大事だべ。」


その言葉におばあさんは少しだけ頬を緩めたが、すぐに真顔に戻り、クワを肩に担いでナナミに鋭い視線を送った。


「ナナミ、タマに変なことさせるんでねぇぞ。」


ナナミは肩をすくめて笑いながら、タマの頭を撫でた。


「はーい。タマちゃんは家族だもんね♡」

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