狙われたタマちゃん♡
翌朝、ナナミはウインクしながらおじいさんに駆け寄る――かと思いきや、すぐさま飼い猫のタマに飛びついた。
「キャー、タマちゃん♡ 写真で見るよりもっと可愛い~!」
タマは一瞬フリーズした後、「ニャアアア!」と悲鳴のような声を上げ、ナナミの腕から逃げようとする。しかしナナミはしっかりとタマを抱きしめ、離そうとしない。
「もぉ~、そんなに照れなくてもいいのにぃ♡」
おじいさんとおばあさんは、その光景に唖然とするばかり。
「……おめぇ、タマと何してんだべ?」
おじいさんが眉をひそめると、ナナミはタマを頬ずりしながら無邪気に答えた。
「だってぇ、おじいさんがタマちゃんの写真くれるたびに、会いたくなっちゃって♡ やっと本物に会えたよぉ。可愛い~♡」
おばあさんのクワがギシギシと音を立てる。
「おじい、タマの写真って何のことだべ!? なんでそんなもんナナミに送ってんのさ!」
おじいさんは顔を真っ赤にしてモゴモゴ。
「お、おら…ただ可愛いって言われたから、つい…」
「ついじゃねぇべ!タマは家族だっちゃ!遺産だけじゃなくタマまで狙う気か、この夜の蝶め!」
「都会にでも連れて行ってあげよっかなぁ♡」
おばあさんは震える声で叫んだ。
「タマはな、息子が家出てから、おじいが寂しくねぇように飼った猫だべ!」
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ナナミはタマを抱きしめたまま、にっこり微笑んだ。
「そうなのぉ?でも、タマちゃんは都会の空気も似合うと思うの♡おしゃれなターキッシュアンゴラって、やっぱり都会っ子だもんね!」
おじいさんはタマの耳がピクピクと動くのを見て、ついに我慢できずに叫んだ。
「タマは都会っ子なんかじゃねぇ!おらの家族だっちゃ!」
しかしナナミは全く動じない。
「家族なら、もっと可愛がってあげなきゃダメじゃん♡都会でおしゃれな首輪つけて、カフェとか行って、インスタにいっぱい載せてあげるの~!」
おばあさんの顔が真っ赤に染まり、クワを地面に突き刺した。
「インスタだぁ!?タマはそんなもんのために生きてるんじゃねぇ!!」
おじいさんもタマを取り返そうと手を伸ばすが、ナナミはひらりと身をかわし、タマを抱えたままクスクス笑う。
タマは村中の誰よりもナナミのターゲットになってしまい、ナナミの腕からスルリと抜け出す。
ナナミは残念そうな顔を、浮かべた。
「タマも逃げたくなるべ、あんたのしつこさに。」
おばあさんの冷たい一言にもナナミはケロリと笑う。
「タマちゃんもおじいさんも、私のものよ♡」
おじいさんはタマと一緒に逃げようとするが、おばあさんの鋭い視線に足が止まる。
「おめぇ、タマよりおらを守れや!」
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村の寄り合いでは、ナナミ対策会議が再び開かれ、今度はタマの安全も重要議題に上がった。
「タマちゃんまで狙うとは…あの女、只者じゃねぇ!」 「おじいさん、今度こそタマ守らねぇと、遺産も猫も取られっど!」
「猫まで騙す夜の蝶なんて聞いたことねぇべ!」
「タマちゃんも、おじいさんも、また会いに来るからね♡」
去り際に投げキッスを残すナナミを見送りながら、おばあさんは深いため息をついた。
「次はタマまで取られる前に、ちゃんとしろや、おじい。」
おじいさんはタマを抱き上げ、にっこり笑った。
「おら、タマもおばあも大事にするど。」
タマはその言葉に「ニャア」と一声鳴くと、おじいの腕からひょいと飛び降り、再び押入れに姿を消した。