表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/18

002 度重なる偶然

 本来だったらこの夜会へは、お相手である王太子殿下と入場をするはずだった。

 しかし会場についた私に告げられたのは、すでに王太子殿下は入場をしているとのこと。

 

 今回もまた()()()すれ違い。


 こんなにも偶然が重なることなんて、あるのかしら。

 いくらなんでも酷すぎるわ。 


 今日こそは大丈夫だって思っていたのに。


 こんな時にまでと泣き出しそうになる私に、一人の貴族が声をかけてきた。


「美しい翡翠の姫。どうされたのですか? そのような悲しそうな顔をされて。エスコート役も見えないようですが」

「あの……。それが……何かの手違いで先に入られてしまったようで……」


 黒く短い髪に紫の瞳のその貴族は、格好からしてもかなり身分は高そうだった。

 しかし私はお妃教育という名のこの閉ざされた世界で生活をしているため、あまり他の貴族のことは詳しくはない。


 親切に話しかけて下さったのに、お名前も知らないなんて。

 私なんて失礼なのかしら。


 でも今ここでお聞きするのは、もっと失礼にあたるわ。

 貴方のことを知りませんって、自分から言っているようなものだもの。


 お妃教育も大事だけど、国内外の貴族の方たちの名前と顔を覚えることもその中に入れてもらわないとダメだわ。

 これこそ、最低限のマナーだと思うもの。


「それはまた……。災難というよりも、どうしてそうなったのか追求せねばいけないですね」

「いえ、でも……。きっと何かあったのだと思います」

「だとしても、ですよ。あなたにこんな悲しそうな顔をさせるなど許されることではありません」

「……」


 でなければ、自分の婚約者となる者を置いてきぼりになんてしないはず。

 違うわね。私がそう思い込みたいのかもしれないけど。


「貴女のような美しい方が一人で入場などするものではない。今宵だけはエスコートさせていただけませんか、翡翠の姫よ」

「あの、でも」

「ああ、あいにく俺には婚約者がいないので。ここは人助けだと思っていただけると幸いです」


 そう言って彼は軽くウインクした。

 なんだか女性の扱いに慣れていらっしゃる方ね。

 婚約者がいないなんて、そんな風に見えないわ。


 遊び人さんなのかしら。


 でも、私には他の選択肢もない。


「それなら……お願いいたしますわ。あの、私は翡翠の姫ではなくアマリリスと申します」


 王太子の婚約者たる者、他の男性の手を取って入場などしてはいけないとは思う。

 だけどこんな大きな夜会に一人で入場なんかしたくない。


 いくら仕方がないとはいったって、惨めすぎるもの。

 かといって引き返せば、せっかく今日のために仕立てたドレスも、朝から頑張ったメイクも全部台無しになってしまうわ。


 ダメだと分かってはいても、私は縋るような思いで彼が差し出した手を取った。

 そして後ろめたさを隠し、仮面のように作った笑顔で彼と入場した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ