018 エピローグ 今度こそ自分の意思で
そうかー。
アマリリス嬢にクロードが求婚、ね。
完全に他人事として、その二人の会話を聞いていた。
おおん? アマリリス嬢って、私の名前じゃなかったっけ?
義父とおぼしき人物を目の当たりにしたことで、意識がすっかり前の私に戻ってしまっていた。
ちょっと待って。今、求婚って言ったわよね。
しかも陛下も、勝手に二つ返事しちゃってるし。
あれー。おかしいなぁ。
殿下からの婚約がなかったことになって、私はこのまま一生お一人様ライフに行くはずだったのに。
どうしてそうなったの……。
「えっと?」
「アマリリス嬢、あなたさえ良ければ婚約を申し込みたいんだが、どうだろう。今すぐにというわけではない。わけではないが、引く手あまたな貴女を他の男になどとられたくないのだ」
「引く手あまた? クロード様は何か勘違いなさっていらっしゃるのではないですか?」
元旦那である、あのヒューズの食指に少しも引っ掛からなかったのよ?
しかも婚約が白紙になった身で、そんなことあるわけないのに。
「君こそ自分の魅力に気づいていないだけさ。その翡翠の瞳も、薔薇の様な唇も何もかもが美しい」
「うーーーー」
そんなことないと思う。
思うし、こんな風に面と向かって言われるのって恥ずかしいのね。
自分でも今、顔が赤くなっているだろうって分かるほど顔が熱かった。
「俺を一人の男として……君のそばに、まずはいさせてほしい。ゆっくりと口説かせてくれ」
「それってそれって……」
つまりは私を好きって意味ってこと?
あああああ、なになになに。
これはどうすればいいの?
どう言えば正解なの?
恋愛したいって思ってたけど、さすがにこれは急すぎるでしょう。
無理無理無理無理。
心の準備が……ああ、心臓が痛いわ。
「あ、あの! 友だちからなら?」
「それでも構わないさ」
そう言いつつもクロードは片膝を付き、私の手を取った。
そして私の手にそのままキスを落とす。
「クロード様!?」
「愛しているんだ、アマリリス嬢」
「ん-ーーー」
友だちって、その意味知ってます?
いきなり愛してるとか、反則でしょう。
みんなめっちゃ見てるし。
もー。なんなのよー。
叫び出したい私を無視し、何か新しい物語が始まるような、そんな時間がゆっくりと流れていた。
だけど私は今は自分の気持ちに気づかないフリをした。
ちゃんと今度こそは自分で自分の欲しいモノを見つけるために――




