017 処遇ともう一人の
玉座の間には、元旦那以外の関係者たちが集められていた。
殿下はどうも、陛下より謹慎処分をうけているとのこと。
自分のしたことへの処分を自分で聞くことも、申し開きすることも出来ないって、処分としては重いと思う。
陛下は一度大きくため息を付いたあと、ゆっくりとそれでいてしっかり前を向いて話し始めた。
「この度のことは皆に迷惑をかけた。アマリリス嬢にも申し訳ないことをしたと思ってる。長年にわたりずっと、苦しめてきてしまったな」
「そんな、陛下。おやめください」
普通ならば一番上に立つ者は、頭など下げるべきではない。
それでも私に謝罪するのは、親としてなのか人としてなのか。
どうしてこの親にして、あの息子なのだろうかとさえ思ってしまう。
「いや……いいのだ。今度こそは、そなたと共になれば、心を入れ替えるのではないかと思った我の責任でしかない。何度繰り返そうとも、あれはもう治らぬさ……病気なのだろう、きっと。」
「……陛……下?」
この方は、いつのことを言っているの?
私と共になれば心を入れ替えるって。
もしかしてこの人は……。
「あの……」
聞きかけた私に陛下は、ふわりと柔らかい笑みを浮かべながら首を小さく横に振った。
細く、シワが深く刻まれた顔。
歳をとって苦労をしてきたことが、その顔からも手からも感じられる。
その面影が、どこか義父を思い起こした。
「お義父さん……」
私は誰にも聞き取れない小さな声で、その言葉を呟いていた。
この人がもし本当に義父ならば、ただ本当に子どものことを思っていたというのだけは分かる。
今度こそを信じていたのね。
陛下はただ眉尻を下げ、しっかりと私を見ていた。
「この度のことで、王位はヒューズの弟であるアルバートが継ぐこととなった」
「では、ヒューズ殿下はどうなるのですか?」
「あやつは、少し遠い南の国に婿として行くことが決定した」
あとでクロードから聞いた話だ。
かの国はとても強靭な女性たちが治める国であり、一妻多夫制をとっているらしい。
しかも女王はとても気性の荒い方で、夫となっても気に入られなければそのまま王宮で放置されるとこのとだった。
ある意味、あの人には一番の贖罪かもしれないわね。
逆ハーレムで、二度と女性と遊ぶことも出来ないのだから。
「よって、アマリリス嬢との婚約の話は白紙とする。そなたには迷惑をかけた。何か今まで苦労させた分の労いをしたいのだか?」
きっと『いえそんな』と謙遜する場面なんだろうなとは、思う。
思うけど、やっぱりねぇ。
「そのことは、少し考えさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ。そなたの気が済むまで、ゆっくり考えなさい」
今は特に欲しいものとかはないけど、いつかこの約束が役に立つ日がくるはず。
やっと自由に、私らしく生きれる日が来たのだもの。
その全てを大切にしていきたい。
「オルト公爵にも、何かと苦労をかけた。そなたはいつも褒美を受け取ろうとしないが、何か欲しいものはないのか?」
「そうですね……」
クロードが褒美を取らないという話は聞いたことがある。
元からとてもお金持ちで、国王陛下と変わらないくらいの資産があるとかないとか。
まぁこの手の噂って、当てにはならないんだけど。
でもいつも欲しいものは持っているので大丈夫ですと、陛下相手にも飄々と返す様からそう言われてるみたいなのよね。
そう考えると、あながち噂も真実味を増してくる気がした。
「では、一つだけ」
今回もいつもと同じように返すと思っていたクロードの意外な返答に、その場にいた者たちがざわつく。
陛下までもその瞳を輝かせ、前のめりになっていた。
「なんだ。今までの分もある。何でも良いぞ」
「ここにいるアマリリス嬢に求婚をする許可をいただきたいと思います」
「もちろんだ! アマリリス嬢はどうなのだ。相手はこの国唯一の公爵。相手としては不足はないと思うが」
陛下は嬉しそうに二つ返事をした。