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011 取り戻すための準備

「美味しい……」

「お菓子も、君が来ると聞いたシェフが腕によりをかけたみたいなのだが」

「そうなのですか! わざわざすみません。こんなに美しいお菓子たちや紅茶をいただけるなんて夢見たいです」

「その分だと、口に合ったようだ」

「はい、とっても」


 前世ですら、のんびりカフェとか行くことはなかったからなぁ。

 もっとも、あんな田舎じゃあこんな高級でおしゃれなモノ食べれるお店もなかったわね。


 イチゴのような赤い果実の乗ったタルトを、私は口にした。

 サクッとした歯ごたえと共に、果実の甘酸っぱさが口いっぱいに広がっていく。


 うーーーー。

 なにこれ、美味しい。美味しすぎる。

 甘すぎなくて、すごく美味しいわ。


 私は思わず他のお菓子にも手を伸ばした。

 もう王妃になることもないんだし、体重制限なんてしーらない。


 だいたいこんなに美味しいものを今まで食べてこなかっただなんて、人生どれだけ損してるのよ。

 今からでもとっとと、取り戻さないと。


 私は私の人生を、今度こそ自分のために生きるのよ。


「公爵様、どれもこれもすごく美味しいですわ! タルトが特に好きですが、このクッキーもサクほろですし。王宮の食べ物よりも、ずっとずっと美味しいです」

「そうか。気に入ってくれて良かったよ。シェフも喜ぶはずだ」

「ふふふ。ココはとてもやさしくて居心地がよいですね。皆さん、良い方たちばかりで」

「王宮は窮屈か?」

「どうでしょうか。侍女たちは、皆私に同情的で優しいですけどね」


 いくらみんなが優しくたって、王宮は伏魔殿だもの。

 気を緩めれば命取りになる。

 

 だけど公爵邸はどこを見渡しても、柔らかで優しい空間と時間が流れている気がした。

 やっぱり世間の噂なんてあてにならないわね。


「君は、俺がまったく怖くないのだな」

「ああ、髪の色とかですか? だって、ただの色ですよね」

「ははははは、ただの色か」

「そうですよ。髪や瞳の色がなんだというのです? 赤でも青でも黒でも、ただの色ですよね。中身なんて、色で分かるわけないじゃないですか。むしろ金髪蒼眼でもクズはいますし」


 誰とは言わないけどね、誰とは。

 思い出すだけでも腹が立つ。


 まさに王子様って感じが、余計に腹立つのよね。

 不細工転生しろっつーの。


 何、転生成功しちゃってるのよ。

 前世であんな酷いことしておいて。


「本当にアマリリス嬢は面白いよ。美しいのもそうだが、君を見ていると飽きないな」

「あのー、一応それは褒めてもらえていますか?」

「俺としては、最大限に褒めてるつもりだったのだが。ダメだったかな」

「いえ……ダメなんかではないですわ」


 微笑みながら、公爵はこちらを見た。

 よく笑う方ね。

 悪魔とか冷徹だなんて言葉がどこから出てくるのか不思議なくらいだわ。


 雰囲気もすごく柔らかいし。

 むしろこの世界では珍しいあの黒く神秘的な瞳の公爵が微笑むと、それだけで攻撃力が高い気がするんだけどなぁ。

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