010 馬鹿にされてきた人生
「すいぶんと、殿下は婚約者候補である君を放置していたのだな」
「ですねぇ。元より、私に会うというお気持ちがなかったのだと思いますわ」
「まぁ、君には酷な言い方かもしれないがそうだろうな。会いたいと思ったのならば、どうにかしてでも会いに行っていたさ」
「そうですね。会うだけ時間の無駄と思われていたのだと、あの時気づきました」
だからこそ、相手の魂胆が開け透けて見えるのよ。
私にはあんなに大変なお妃教育をさせておいて、自分は散々遊び惚けてきたのだもの。
「あの手紙にも書いてあったが、俺に協力して欲しいというのはそのことか?」
「はい。私は殿下との婚約の話を白紙に戻したいのです」
「……そうか」
後ろ盾になってもらうには、最高の人材なのよね。
あいつにモノ言える数少ない人物だし。
でも、ただ後ろ盾になってもらうだけではダメなのよ。
もう覆せないような証拠を、公にしてしまわないと。
「未練など、あるわけもないか」
「そうですね。あの方は所詮、見ず知らずの方なので」
「あはははは。ずいぶんきっぱりと言うのだな。そんなに嫌いか?」
「どうでしょう。嫌いというくくりすら越して、気持ち悪いですね。だいたい他の女性にご執心ならば、その方とどうにかしていただきたいものです。別に王妃が私となる必要性などないではないですか」
「ああ、そうだな……」
「どう頑張ったって、体のいい言うことを聞きそうな私を王妃にして仕事だけ押し付るつもりではないですか」
「そうだな。そう言えるだろうな」
「公爵様もそうお思いになりますでしょう? 自分は浮気三昧しますって初めから言ってるようなもんじゃないですか! あああ、気持ち悪い」
「はははは。そこまでアマリリス嬢に言わせるとは、まったくすごいな」
「今まではずっと我慢してきたのです」
「だろうな」
「でも……もう限界なんです。どうしても嫌で嫌で……」
そこまでまくしたてるように言葉を吐き出すと、過去の元夫の顔が頭の中に浮かんできた。
あんなことをしでかしたのに、反省なんて全くしていなかったし。
しかもそんなヤツと一緒に異世界転生ですって。
冗談じゃないでしょう。
なんてあいつがセットなのよ。
私は幸せになりたかったの。
自分で決めた自分の道で、今回は恋愛だってしたかったのに。
なんであいつの顔色をまたうかがわないといけないのよ!
勝手にどっかでハーレムでも作ってこいとは死ぬ前に思ったけどさぁ。
それはあくまでも私のいないところでやってよね。
「少し落ち着いてお茶でも飲んでくれ、アマリリス嬢」
「はい……。すみません。興奮してしまったようで」
公爵の言葉で温かな紅茶に口をつければ、先ほどまでのイライラが流れていくようだっだ。
程よい甘さと、鼻に抜ける花の香り。
ああ、美味しい。
紅茶ってこんなに美味しかったかしら。
王宮では礼儀作法にばかり気にとられて、味を感じる余裕すらなかった。
それぐらい王妃になるということは、幼かった私には重圧でしかなかった。
毎日毎日、いろんな人に厳しく徹底的に叩き込まれてきた。
中には優しくしてくれた人もいたけど、それでも私の置かれた立場が変わることはなかったから。
家にも帰れない。
家族にも会えない。
泣くことすら許されない。
挙句に太ることもダメ。
遊ぶこともダメ。
檻の中で夢見た幸せが、全部あいつの手の上だったなんてね。
ホント、馬鹿にしてるわ。
この度は本作品をお読みいただきまして、ありがとうございました。
ブクマ・★・感想等
いただけますと、作者大変感激いたします。
たくさんの作品から見つけていただけまして、本当にありがとうございました(´;ω;`)




