第九話 外界
ローゼは封印の洞窟に縛られていたとは言え、冒険者に対しての非道な行為を恥じて俺に対しても詫びた。
「ローゼ。俺に詫びるより犠牲になった冒険者や旅人に対して詫びよ。そして、其の者への贖罪の行脚の旅に出るのだ。そう俺について来い。お前は聖騎士を召喚した召喚士の末裔。今こそ大魔司教ガリウスを倒すのだ」
三鈷剣を手にしてから俺は全てを思い出した。
名は鏑木雄一。
バリバリの日本人であり、
妻子持ち。
大魔司教ガリウスの三柱と言われる
魔将軍メロスとの戦いに於いて俺は現代日本から転移してきた事。
その際全ての記憶を失い異世界マーラの封印の洞窟に導かれたこと。
俺を度々導き幾度救ったあの声。
その声の主こそローゼの祖先セシアである事。
そのセシアこそ邪神を封印した最後のハサンを召喚した『伝説の召喚士』である事を三鈷剣の記憶から理解したのである。
自覚の力。
俺は自覚した。
この世界を救う聖騎士である事。
大魔司教ガリウスを打倒する。
項垂れているローゼに
俺は続ける。
「お前も宿命に目覚めよ」
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私は迷っていた。
ハサンを名乗る転移者は、見事に三鈷剣を抜いた。
この時点で私は悪しき楔=呪いから解き放たれたのだ。
なら私は自由だろう。
宿命に殉ぜずとも、
私は普通の人間として
恋をして家庭を持ち、そして老いて死んでいく。
そして外の世界をもっと楽しみたい。
私はハサンに言った。
「ハサン。考えさせて。」
ハサンから距離を起き、数十年ぶりに外に出よう。
待ち焦がれた外の世界だ。
待ちわびた春の訪れ。
小鳥は囀り、
風は優しく音を奏でる。
私は思い出した。
この風景だ。
封印される前からこの風景だった。
久方ぶりの草いきれのする森の木々の香りや、その森に生きる生き物の鼓動。
見知った外の世界を数十年振りに
味わいたかったのだ。
当然だ。外の世界に出れなかったのだから氷と雪の世界なんて知らない。
私には、これこそ望んだ外界だったのだ。
洞窟を出て森へ向かう。
森にはかつてチンパンという村があり、フォロスという女の子(亜人)と遊んだ記憶を思い出した。
亜人と人間の村。
私はよく母と自家製の薬を売りにこの村に来ていた。
その時に
既にあれから数十年が経過している。
フォロスも既に成人女性となっているだろう。
でも、でも・・・
失った思い出の欠片を拾いに、
私はチンパン村へと向かう。
しかし、そこには何もなかった。
住居の跡らしき物は見えたが、既に人気は無く、ジャングルのように木々で覆われている。
予想はしていたが、いざ目の当たりにすると力が抜けた。
その背後からは、魔物の息遣いが近づきつつあった。
続く