第七話 再びの魔女
私は思う。
逃がした!
と思う一方であの男は、
私が待ち望んでいた人では無かったのか。
従来のように、無理やり
強いて三鈷剣を抜く様仕向けずとも、
自ずから剣を抜いてくれたのではないのか。
それを私の早合点で、急かしてしまった。
後ろから魔法を打つ素振りを見せて、
奴の疑心を仰いでしまった。
そう言えば、奴が洞窟の入口で倒れた時に声を聞いていた。
私は思い出した。
忘れていた。
聞いた事のある優しく凛とした声。
母?そう。母の声。
今まで忘れていた記憶。
あの大魔司教ガリウスが、この洞窟にやってきた時、母は殺された。
私の眼の前で。
母は最後の力で絆魂魔法を使った。
私を護る為に、その命と引き換えに。
強力な絆魂魔法はガリウスが私に触れると同時に発動し、ガリウスは雲散霧消し消え果てた。
何故今思い出したのだろう。
忌々《いまいま》しい数十年前の記憶だった。
もしかしたら、あいつが、
私をこの運命の楔から解き放ってくれたかもしれないのに。
又誰もいない。
この洞窟に、炎の精ファージと何年も過ごさなければならないのか。
足を切断するのも最初は戸惑いがあった。
でも孤独と寂しさが彼女を狂気へと導いたのだ。
聖騎士の末裔でなくとも良い。
ただ人恋しかったのだ。
「よー!しけた面してんじゃねーか。魔女さんよ」
誰もいない筈の洞窟に。
封印されて人知の届かない異空間に入口を封じられた洞窟に、
あいつが又戻って来た。
ど、どうして?
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俺は戻って来た。
あの封印の洞窟に。
触れたら腐って死ぬという霊剣三鈷剣を抜くために。
ローゼを魂の円環から、楔を解き放つために。
あの女に惚れている?
いや、そんなんではない。
でも魂の絆を感じた。
生まれる前から知っているような、
そしてこの剣を抜くのは俺であるという確信が何故かあった。
「ローゼ。さあ、三鈷剣へ案内しろ。
俺がお前の想い人だ」
三鈷剣からユラユラと瘴気が上がっている。
恐らくガリウスの呪いの効果なのだろう。
禍々《まがまが》しい妖気を纏わせている。
ゴクッ。
いざ対面すると緊張が走る。
「ローゼ見てみろ!この俺がハサンだと、ハサンの末裔と証明して見せる!」
俺は三鈷剣を手にした!
瞬間異臭が漂い、俺の手は、
俺の手は、溶け出した!
続く