第四話 ゴッサン
また俺は違うベッドで寝ていた。
まさか、ローゼに、
封印の魔女に掴まったのか?
辺りを見渡すと、
ローゼの家とは違う。
どこかみすぼらしいが、どこか温かみのある古いレンガ造りの家だ。
「若いの。気づいたか。」
白いヒゲのおじさんが、訝しそうに寝ている俺を覗いた。
おじさんの話では、たまたま森の中にある薬草を取りに来ていた所、行き倒れになっていた俺を発見したとの事。
おじさんはヤクモ(馬とヤギと牛の間の子のような動物)に俺を預けて、家まで運んできてくれたとの事だった。
おじさんの作ってくれた野菜スープとパンをムシャブリついて食べる。
「その食欲なら大丈夫のようだな。ところでお前さん名前は?どうしてあんなところに、そんな軽装で?」
俺は記憶が無い事や、封印の洞窟で過ごした経緯を説明した。
「封印の洞窟か。おとぎ話では聞いたことがあるな。昔かつて聖騎士が封印された洞窟の事だな。でも、そんな洞窟はここいらで見たことある奴はおらんよ」
果たして夢だったのか?
ローゼは、そして三鈷剣は。
そして俺はある事に気付いた。
あ!
驚愕以外の何者でもない。
失った筈の足がそこにはあった。
ローゼに切断された筈の足首が、
普通に存在し足の指先まで自由に動かせるのだ。
どうして??
あれは夢だったのか?!
◆◆◆
おじさんの名前はゴッサン。
この辺は年中雪で覆われており、
今は木こりや、猟をしながら静かに暮らしているのだという。
以前は集落があったとの事だが、
子育てや暮らしに不便な為、
村や町に人が移住していき、
ここらで住んでいるのはゴッサンだけらしい。
「お前は運が良いよ。
あ、お前は名前が無いんだよな。
ハサンはどうだ?伝説の聖騎士の名前だ」
名前?名前なんか正直どうでも良かった。
生きる意味が見いだせない。
ただ、三鈷剣とローゼにはもう一度対峙しなければと薄々気付いていた。
でも封印の洞窟はどうやってまた行くことが出来るのか?
『お前が望めば洞窟は現れるよ』
またあの優しい声がどこからか聞こえてきた。
◆◆◆
ゴッサンに世話になっている間、
ゴッサンの家の掃除や雪かきや、アヤカシ(モンスター)の解体を手伝うようになった。
雪かきは労力である。
やればやるほど力がつく。
俺のスタミナや『強さ』、『力』が少しずつレベルアップしていく。
【ステータス】
名前:ハサン
職業:家事手伝い
レベル:3
体力:30
MP:1
攻撃力:3
防御力:2
ちから:2
強さ:1
運:1000
賢さ:1
スタミナ:3
どうやらこの世界はゲームのような世界らしい。
ん?!
ステータスは脳内で呼び出せば見れるのだが、
なんと、運だけが滅茶苦茶良いらしい。
確かに!
ゴッサンがたまたま気づいてくれなかったら
間違いなく死んでいた。
今回のアヤカシはドテチン。
イノシシ型のモンスターである。
イノシシ等の解体と同じ。
毛を剃って内蔵を取り洗い、
肉を剥いでいく。
猛烈な獣臭。しかし、終わると、
ぼたん鍋ならぬドテチン鍋をゴッサンは振る舞ってくれた。
これが美味しい。
ドテチンはコリコリ弾力があるが、お酒で臭みを抜いてじっくりと醤油や地元のソース(中身を聞いたが教えてくれず)で漬け込んでそれを鉄板で焼いてから、
鍋に一口サイズで野菜と一緒に煮込むのだ
これが本当に美味しい!
ドテチン鍋を食べると俺の体力は上限値を超えた。
これはドテチン鍋の力なのか、それとも異世界の食べ物を食べると飛躍的に能力が上がるのか、皆そうなのか分からない。
でもこれが命を貰うことなんだと改めて感謝した。
すると不思議な事に感謝すると更に力が増していくのが分かるのだ。
「な、なんだ!これ!」
俺の体が一時的に光り輝く。
「ほー!感謝力の遣い手なのか。お前は、いやハサン。もしかしたら本当に聖騎士の生まれ変わりなのかもしれないな。」
ゴッサンは腕組みしながら唸る。
この世界マーラでは感謝の力で自身の力に変える者を感謝力の遣い手として尊敬され、それは聖騎士の加護であるとも言われているとの事。
そして、聖騎士を支持する聖騎士教徒、邪神を支持する邪神教徒が存在し、多分に漏れずその両勢力は対立しているらしい。
大部分は世に平和をもたらした聖騎士を崇める聖騎士教徒が多いのだが一部カルト宗教のように世界の破壊と再生を願うのが邪神教徒なのだと。
すっかり、体調も万全となった。
俺は決心した。
ローゼに会う。
そして三鈷剣を抜く。
いや、抜かねばならないと。
続く