第十四話 ハサンの実
「あんたが私を守らなくてどーすんのよ!守って貰ってな~にが聖騎士なのよ!!」
ローゼはすっかり絡み酒。
エールからラム酒へお替りし、ラム肉&ドテチン肉を噛みちぎりながら杖を振り回している。
あまりの剣幕に周りの冒険者達も何事かとザワツキ始める。
恥ずい。
「おい。呑み過ぎだ。出るぞ」
ローゼは千鳥足だ。
俺はローゼを抱えて宿屋へ戻ろうとした。
その時、いかにもガラの悪い冒険者と思われるモヒカン顔と片目が塞がっているフランケン顔が近付いてくる。
「姉ちゃん、こんなショボい兄ちゃんなんか放っておいてさー。俺達と遊ぼうぜ」
俺は背中に汗をかく。
どうする?
こんな時どうする?
「なんだよ、コイツ。一言も返せねえよ。おい!何とか言ったらどうなんだ?チン◯付いてんだろーん?」
くぅー!典型的なパターン。
俺は震えそうになるのを抑えて精一杯の虚勢を張る。
「お、お前ら。見逃してやるから、さっさと失せな」
勿論目は逸らすし泳いだままだ。
「何だーん?こいつ。やんのか?あーーん?」
フランケンとモヒカンはニヤニヤしながらメンチ切ってくる。
やばい。せめてローゼを守らないと。
その時、霊体のセシアが俺に話しかけてくる。
セシアは召喚士の血筋と聖騎士にしか見えないらしい。
『情けないわね。口を開けて』
え?何?
『口を開けなさい。』
俺は何の事か分からなかったが口を開けた。
パクッ!
あ!これはハサンの実だ!
カリッカリッ!
コリッコリッ!
ムフフ!!!
「てめー!何喰ってん・・・・!」
ボゴッ!!!!!
ヒューーーー!!!
ドゴッ!!!
フランケンは俺の胸倉を掴んで殴りかかろうとしたが、
俺は人無でして軽くフランケンの横面に触れた途端、
フランケンは鈍い音と共に酒場の壁に吹っ飛び、更に壁に穴を開けて馬小屋まで吹っ飛び肥やしに頭から突っ込んだ。
足は漫画みたいにヒクッ!ヒクッ!
とピクついている。
俺の身体は1.5倍に膨らむ。
指を鳴らしながら、モヒカンに凄んでこう言った。
「馬小屋か?お前も馬小屋か?」
ジロリとひと睨みしながらジワジワ近づきメンチ切り返す。
「ひ!!失礼致しましたぁあ!」
これまた漫画のように一目散に逃げ帰るモヒカン。
見物していた酒場の客もザワツキながらも落ち着きを取り戻していく。
酒場のマスターが、ツカツカと近づいてきた。
「おい!あんたら。壁の修理代は払ってもらうからな!」
おいおい。俺は英雄じゃないのかよ。
トホホ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
マスターに詫びを入れて暫くこの村に滞在してお金を稼ぐ旨説明して取り急ぎ赦して貰う。
そして、すっかり呑みすぎて潰れているローゼを部屋に連れ帰り、ベッドに寝せる。
この酔っぱらいめ。
ひん剥いて襲っちゃうか。
本気じゃないけど、
いや、ちょっとだけ見るくらいなら・・
スケベ心が顔を覗かせてしまう。
ベッドに寝かして、スススっと衣服を脱がそうとした時、
『こら、雄一。ゲスだな』
セシアの声だ。
萎えるよ!ホント!
直ぐ出てくんなよ。霊体のくせに。
『ハサンの実を思い出したか。』
そうだ。ハサンの実とは、自分の内在神を引き出す実だ。
不動明王の力を化身しなくとも使えるアイテムだ。
マーラに来る前はハサンの実で、能力を上げながら場面で利用していたのを思い出した。
『残念ながらハサンの実は、このマーラで実体化するのは制限がある。
お前の力に応じて具現化していくであろう。それに私は霊体のままでは、お前達に干渉するのに限界がある。』
そう言うとウサギみたいな妖精が飛び出してきた。
「雄一!!」
「ピーニ!!」
ウサギの妖精は光りながら青い髪の女の子に変身する。
ギューッ!
わお!
ピーニは「会いたかったよー!」と
ハグしてくる。
『あとはピーニに任せたぞ』
霊体のセシアは、そう言い残すとスーッと消えていくのであった。
この妖精は現世の俺に付いていた妖精だ。
まさか離れ離れだったのに、こうしてマーラで出会えるとは。
今日は取り敢えずもう寝よう。
クタクタだ。
旅費も無い。明日からどうしよう。
まあいっか。
何とかなるさ。
続く
ハサンの実に繋がった。




