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第一話 凍える日

寒い。


雪はしんしんと降り続いている。


俺は誰だ。

ここはどこだ。


周りには人家は無い。


足が冷たい。


腹が減った。

もう動きたくない。

 

針葉樹が茂る森の中をひたすら

進んでいく。


俺は何の目的でここにいたのか。

冬の装備とは、とても言えないつたない格好。


いや、普段着だろう。

この格好は。

長袖のシャツとデニム。

かろうじてジャケットは着てるが、

とてもじゃないが寒さはしのげない。


手が紫色になってきた。


どこか寒さを凌げる場所は無いか。

スニーカーは既に雪が入り、

ビチョビチョである。


足が冷たさを通り越して痛い。


歩いていると、まだ気が紛れるが

止まると指先から、つま先から寒さで痛くなる。


どこからか声が聞こえる。


『この先に洞窟があるよ』


??


幻聴なのか。はたまた救いの声なのか、悪魔のささやきか。


眠い。朦朧もうろうとする意識の中、

ひたすら歩く。


ビュービューと雪は次第に吹雪へと変わる。


前は見えない。

ゴーゴーと白い壁が、数センチの視界までさえぎるのだ。


死ぬ。このままでは死んでしまう。


疲れた体にムチを打ちながら、

俺は進む。


どこへ?

前に向かってるのか。

それとも戻ってるのか。


そしてこの先には本当に

洞窟なんてあるのか?

果たして、その洞窟は安全なのか?


ぐるぐると思考が回る。


もうどうでもいい。

兎に角洞窟を目指すのだ。


暫く歩いただろうか。

もう視界は白一色。


一寸先いっすんさきが白だ。


もうだめだ。

俺は死ぬ。


力尽きて倒れこむ。

あー鍋が食べたい。


あー。ラーメンが食べたい。

母ちゃんのお雑煮が食べたい。


人は死ぬ間際には、

こんな些細な事を思うのだなと、

ふと顔を上げた時!


眼の前に洞穴が見えた。


ど、洞窟だ!


その時、死を覚悟した一時いっとき前から猛烈に生に対して執着が湧いてきた。


ほふく前進で、動かない体を無理やり引きずりながら、洞窟の中に入り

その暗闇の中で気絶した。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

どれだけ長い間眠っていたのだろう。


頭が重い。


そうだ!

俺は吹雪の長中で彷徨い、

洞窟に辿り着き・・・。


ここは!


とても温かい。

そしてしっかりベッドに寝ていた。


足先は包帯が巻かれていた。

足先だけでは無い。


体中包帯が巻かれている。

右肩から両手首にかけ、

全身手当されていた。


誰が手当したのか。

誰かいるのか?


どう考えても、ここは人家だ。

夢なのか。


夢とうつつが区別出来ず、

頭がボーッとしている。


俺は違和感を感じた。

感覚はあるけど、

ある筈の物が無い。


どこだ?

何がだ。


一瞬で理解した。

何が無いのか。


視線の奥にある足首が、

俺の足首はそこには無かった。



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