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第99話 ゲームスタート

 何はともあれ、大翔は仲間と相談することにした。

 会場は聖火で祝福し、超越存在の影響を遠ざけた校舎。今まで、生き残りの避難場所として活用していた場所で、大翔たちは作戦会議を始めたのである。


「えー、というわけで。今回は俺と一緒に仮想世界に入り込む『突入組』と、この世界で万が一の事態に備える『待機組』に分かれたいと思います。では、まずは『突入組』への希望者を募りたいと…………思っていたのですが、予想以上に希望者が多いのでシラノによる振り分けで役割を決めることになりました」


 大翔たちの作戦会議は、校舎の中でも最も人が集まることが可能な体育館で行われることになった。

 何せ、大翔は勇者同盟の盟主であり、今こそその盟主に対する恩を返せる絶好のタイミングだ。勇者同盟に所属する者は誰もが大翔の下に集おうとして、けれども流石に人数が多すぎたので、パーティー単位での代表者だけが集まることになったのである。

 だが、それでもやはり、結構な人数が集まったので場所が体育館となったのだ。


『《各自の適性に合わせて、それぞれの組に割り振りました。厳正で公平な観点での判断ですので、皆様、どうかご納得下さい》』

「というか、皆。『待機組』も単なる備えじゃないからね? 俺の経験上、万が一のことは割と起こるから! その時に、何とかしてほしいっていういわば最後の頼みなんだよ。だから、本当に悪いと思うんだけど、『待機組』には命の危険がある。それも踏まえて、俺のことを手伝ってほしい」


 大翔とシラノ――ラジオ筐体の端末――は、ステージの上から仲間たちに語りかけ、作戦会議を主導する。

 眼下に集うのは、誰もが屈強な勇者たちばかりであるが、ステージの上で言葉を紡ぐ大翔に、緊張の様子はない。

 何故ならば、この場に居る者全てを知っているからだ。

 勇者同盟の盟主として、共に世界の危機を救うために動いていた者ばかりだからだ。


「はい、それじゃあですね! 具体的な作戦ですが、『突入組』はゲームスタート直後のランダム配置の後、自身の性能把握に努めてください! 説明した通り、弱体化の危険性がありますので、まずは生存第一優先! その後は、人探しが得意なシラノとアレスが皆さんを集めて回ります! その時まで、欠けることなく戦力を温存していてください!」


 故に、大翔はマイクも使わずに声を張り上げる。

 きちんと作戦内容が伝わるように、音声に魔力を込めて。

 自分の期待が仲間たちに伝わるように、想いを込めて。


「うっす! 『突入組』の捜索担当、アレスだ! マブダチの『シラノ』と一緒に、皆を探して回るから! 皆ぁ! 仮想世界でオレと握手だぁー!」

『《はい、この喧しいマブダチと私がコンビを組んで探しますので、ご安心して待っていてください。私たちの異能は優先的にリソースを回して保護されるみたいなので、発見できないということはあり得ませんので》』


 そして、当然ながらパーティーメンバーの士気はこの中でも群を抜いて高い。

 特に、アレスなどは世界を救ってからとんぼ返りで大翔たちに合流。諸々の後始末を放り出しての参戦である。

 大翔としては、後始末を手伝わされる予感しかしないが、天涯魔塔で苦楽を共にした仲間の参加はとても頼もしい。


「オレの異能で強化したシラノの千里眼なら、勇者でも探し当てられるんだぜ!」

『《まぁ、仮想世界に入った時点で世界の加護は遮断されるでしょうし。そもそも、今までの性能でも誰かの目撃証言を介して見つけ出せますがね》』


 何より、アレスがシラノと仲良くなっているという事実が、大翔にとっては嬉しかった。

 パーティー内でも、『頼もしいけど性格に難があるよね?』という扱いを受けることが多いシラノであるが、アレスとは波長が合ったのか、ご覧の通りの友情を結ぶまでになった。

 シラノが冗談でも『マブダチ』と呼ぶのは、かなりの好感度である。

 そして、そんな友情パワーで強化された計算能力で、シラノが導き出した割り当てが以下の通りだ。


・『突入組』

 シラノ。ソル。ニコラス。イフ。アレス。

 その他、ゴライも含めた外付けの加護ではなく、己自身の技量や知識に優れた勇者たち――総勢57人。


・『待機組』

 ロスティア。リーン。ノワール。志乃。現地の生き残りたち。現地の防衛、感知技術に特化した勇者たち――総勢41人。

 なお、『待機組』には聖火によって祝福したアーティファクトを配布済み。

 二体の超越存在の残滓によるデバフを最低限に抑えてある。


「もはや、僕に後顧の憂いはないよ。ヒロトから受けた恩義を果たすため。ヒロトと結んだ友誼に準じるため。この身の一片まで燃え尽きるように戦おう」

「はい、馬鹿ぁ! ソルの馬鹿ぁ! テメェ、嫁さんが戻って来たんだから、そんなことを言うんじゃねーよ、馬鹿!」

「でも、仮想世界で死んでも退場するだけだし」

「そういうことかよ! ええい、紛らわしい! つーか、そんな無茶をする前に、俺を頼りやがれ! これでも、大翔の聖火無しでもこの世界を歩き回れる程度には、魔術師として成長してんだからよぉ!」

「ニコラス……ふふふっ、そうだね。ああ、そうだった」


 『突入組』では、士気が高まり過ぎているソルを宥めるようにニコラスが声をかけて。


「うーん。ランダム配置の場合、マスターとセットの私はどうなるのかしら? そもそも、聖火が制限されると、必然と私も制限されるような?」


 その隣では、ワンピース姿で顕現したイフが、仮想世界での問題に首を傾げている。

 そして、彼らの周囲には同じように、喧々囂々と言葉を交わし合う勇者たちの姿が。


「リーンお姉ちゃん……正直、私は貴方に危ないことをして欲しくないんだが?」

「でも、ロスティアはヒロト様に協力するのでしょう?」

「…………不出来な弟子を助けるのも、師匠の務めだ」

「なら、そんな妹の手助けをするのが姉の役割なのよぉ?」

「…………わかった。ならば、待機班の誰一人も死なないように全力を尽くそう。あの弟子は、誰か一人でも欠ければ、それを一生悔やむだろうからな」


 『待機組』では、リーンとロスティアという神話の姉妹が、互いに心配を向け合って。


「というわけで、一時的にあなたに私の指揮権が貸与されるから。良い感じに使って」

「ふ、ふふふっ。つくづく、あの馬鹿は私のメンタルに負担をかけるね? とりあえずだね、ノワール君。君の所有者には後から『覚えておけ』と伝えておいてほしい」


 『突入組』よりも『待機組』の方が性能を十全に扱えることから、ノワールの指揮権をノーアポで貸与されて、静かに怒りをため込んでいる志乃が居る。

 そして、彼女たちの周囲には、この世界の生き残りと、数多の勇者たち。

 この世界のために、命を賭ける覚悟がある者たちが揃っていた。


 『突入組』と『待機組』。

 大翔の仲間たちはこの二つに分かれるが、そこに隔意などは無い。

 各々の理由はあれども、誰もがこの世界を救わんとして集まった者たちだ。


「うん。頼もしいね、シラノ」

『《ええ、とても》』


 大翔は眼下に広がる光景に、大勢の仲間たちの姿に、思わず笑みを零した。

 最初は二人きり。

 何もかもが終わってしまうような絶望の中から、大翔とシラノの二人きりで始めた旅だった。

 けれども、少しずつ仲間が増えていって。

 何度も冒険を乗り越えて。

 その果てに今、『二人きり』は『大勢』へと変わっていったのだ。


「じゃあ、そろそろ冒険を始めよう」


 だから今、大翔は何も怖くなかった。

 例えそれが、世界の命運のかかった冒険だったとしても。

 これから始まるのが、どれだけ過酷なロールプレイングゲームだったとしても。

 大翔には今、こんなにも頼もしい仲間たちが居るのだから。




『さぁ、ゲームスタートだ、ヒロト。君の救済が、私の絶望を覆せるかどうか、試させてもらうよ?』


 かくして、冬の女王のゲームは始まった。



●●●



 大翔が覚醒した瞬間、目に映ったのは『見慣れた天井』だった。


「…………陽光の乙女の試練で似たようなシチュエーションをやったなぁ」


 場所は自室のベッドの上。

 下着姿で仰向けに寝ている状態から、ロールプレイングゲームはスタートするらしい。


「さて、と」


 大翔は素早く起き上がると、周囲の状況を即座に確認。

 再現された自室は、大翔の中にある記憶のものと相違ない。そう、現代日本の家具や家電が揃っている。従って、この仮想世界の文明レベルは大翔たちの世界とそう変わらないことが推測可能だ。

 事実、ゲームスタートと共に大翔の脳内に刷り込まれた情報によると、このゲームの世界観は現代日本とあまり変わりなかった。多少国の名前や地名、歴史の一部が異なっていること以外はほぼ同じ。魔術に関しても、表向きには『存在しない幻想』として扱われているようだ。

 割り当てられた『役柄』としての記憶も、大翔の脳内に『前提情報』として刷り込まれて入るが、特筆すべき情報は見当たらない。

 いわゆる、『どこにでもいる普通の男子高校生』としての経歴だった。


「ふむ。やっぱり、権能や目立ったアーティファクトは全部制限されたか」


 周囲の状況と前提情報を確認すると、次に大翔は己の性能を確認し始める。

 自慢の『銀灰のコート』は当然の如く。ロスティア製の強力なアーティファクトは全て制限を受けている。

 大翔自身の魂に継承した聖火も、今は使えない。

 いつも大翔の聖火と共に在ったイフの気配も、近くには感じられない。

 収納空間から取り出せるのは、自らが魔導技師として作った作品。その他、魔導技師としての修行のために用意していた、雑多な素材があるのみ。


「シラノ、聞こえる?」


 この仮想世界のどこかにいるであろう相棒に呼びかけても、反応はない。

 千里眼で大翔の状況を確認しているかもしれないが、すぐにでも接触できるような場所に居ないことは確実。

 装備は微小。

 性能は格段に低下。

 相棒や護衛とも連絡がつかない。


「なるほどね。どうやら冬の女王は、レベル1の主人公で始まることをお望みらしい」


 つまりは、いつも通りの開幕の危機到来だった。



 かつてないほど弱体化した大翔であるが、今更その程度の絶望では焦らない。

 手早く可能な限りの装備を整えると、何食わぬ顔で登校の準備を始めた。

 どうにも、大翔に刷り込まれた情報によれば、今は夏休み明けの二学期始め。健全なる男子高校生である役に準じるのならば、大翔は学校に登校しなければならないのだ。


「仲間との合流は最優先にしたいところだけど、今の俺が下手に動くのもあれだしなぁ。それに、冬の女王曰く、これはロールプレイングゲーム。その意図を汲み取るのならば、可能な限り、プレイヤーではなくキャラクターとして演じて動くべきだろう」


 ぶつぶつと思考を口にしながらも、慣れた手つきでスクールバックを抱えて。

 大翔の家族の魂――その情報から再現された、『NPC』の家族に不審がられながらも。

 ごく普通の男子高校生として、大翔は登校を始める。


 見慣れた通学路――その中に混じる、見慣れない建物。

 既知と未知が入り混じった光景にめまいを感じながらも、大翔は通学路を歩いていく。

 この後、十五分も歩けば学校に着く予定だった。

 これから向かう学校には、大翔の元々の友達――その魂の再現物も居るので、学校に着いたのならば、情報収集に徹するつもりだった。

 何はともあれ、まずは情報。

 冬の女王がどういう意図で、このような世界観のロールプレイングゲームにしたのか?

 どうして、NPCとして大翔に近い者たちも起用したのか?

 まずは身近な疑問から解消していき、きちんとゲームらしく、この世界の謎や『冬の魔王』について調べ始めるつもりだったのである。


「おっと危ない」

「――――ちっ」


 雑多に生徒が入り混じる通学路。

 その混雑の合間を縫うようにして、一人の少女がナイフを突き刺そうとして来なければ。


「やぁ、黒幕。ついさっきぶり」


 大翔がギリギリとナイフを持った手を締め上げている相手は、小柄な少女だった。

 黒髪サイドテールの、黒縁眼鏡。目つきは鋭く、けれども陰鬱。服装は大翔と同じ高校の制服であるが、それにしても小さく細い。

 高校生の制服を着てもなお、中学生か小学生にも見えるほどに。


「はい、さっきぶりです、佐藤大翔」


 黒幕はこの仮想世界に於いて、小さく頼りない姿の少女だった。

 ともすれば、このまま大翔の腕力でも拘束が可能であろうと判断しそうなほどに。


「そして、さようなら」


 だが、大翔は知っている。既に知っている。

 どのような世界であっても、外見から人の強さは測り切れないことを。

 特に、魔力を扱い、魔術に長けた相手に対しては、外見による強弱の判断などまるで無意味だ。


「うぉっ!? なにあれ、やば―――」

「痴話喧嘩? いや、痴情のもつれ――」

「あのナイフって、本物―――」


 そう、たった今。

 黒幕が指を鳴らした瞬間、ざわめく周囲の人間が突如として黙り込んだように。

 僅かワンアクションで洗脳を施し、周囲の人間たち全てを支配下に置いたように。

 卓越した魔術の使い手は、どれだけ小柄で弱々しく見えようとも、一瞬にしてこのような真似ができる者ばかりなのだから。


「お生憎ですが、佐藤大翔。私はこのような茶番に手間暇をかけません。そうですとも。こんなゲームはRTA染みた最速攻略で終わらせてやりましょう」


 そう、例によって例の如く、つまりはいつも通りの――――大翔にとって、圧倒的に不利な状況での決戦が始まることになったのだ。

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