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第83話 天涯魔塔ができた理由

 天涯魔塔、第61~64階層。

 広大な廃墟を探索し、上へ続く階段を探す形式のダンジョン構造。

 エネミーは死霊系。下層や中層とは異なり、不死属性を前面に押し出した連携によって、冒険者たちの道を阻もうとする。


 予め用意していた無数の対死霊系のアーティファクトにより、突破。

 大翔たちパーティーへの損害は皆無。



 天涯魔塔、第65階層。

 骨の竜を使役する、死霊となった聖女がボスエネミー。

 死霊聖女を倒さなければ、骨の竜は何度も復活する。対死霊系のアーティファクトでも、その復活は止められない。だが、死霊聖女を傷つけると、骨の竜の性能が時間経過で強化されていくギミック。


 大翔がエリアに隠されていた『弔いの鐘』を発見。これにより、ギミックを解除。

 アレスとニコラスの二人により、死霊聖女を討伐。骨の竜も同時に破壊した。

 大翔たちパーティーの損害は軽微。



 天涯魔塔、第66~69階層。

 エネミーの種類も、ダンジョンの構造や形式も変わらず。

 ただ、段々と死霊の数が増してくる。


 対死霊用の備蓄に余裕があるので、問題なく突破。

 大翔たちパーティーへの損害は皆無。



 天涯魔塔、第70階層。

 赤黒い衣を纏う虐殺者がボスエネミー。

 エリアは変わらず廃墟。街一つ分の廃墟の中で、隠れ潜むボスエネミーと戦うことになる。

 虐殺者の能力は、隠密と打ち消し。

 瓦礫の中に紛れ、存在感を希薄にする隠密術の持ち主。

 探索魔術から攻撃魔術。あらゆる魔術に対する『打ち消し』を可能とする異能も所持。


 ニコラスが半ギレしていたが、特に攻略に問題は無い。

 リーンとの修行で鍛え上げられた探索能力。狩人直伝の罠設置により、虐殺者を捕捉。大翔の召喚術とアレスの剣技によって討伐。

 大翔たちパーティーへの損害は軽微。

 ニコラスが不貞腐れたため、迷宮都市で一日の休暇を挟む。



 天涯魔塔、第71~74階層。

 ダンジョンの雰囲気と構造ががらりと変わる。

 廃墟から巨大な工場の中へ。場所というよりも、ジャンルが変わったかの如き変質。

 エネミーも死霊系ではなく、ドローンや暴走サイボーグなど、『高度な科学文明』を有する世界観の物へと変更された模様。


 突然のギャップにアレスの行動に戸惑いが混じる。ニコラスも魔力を用いない銃火器による攻撃によって負傷。魔力感知による防御の不備を自覚する。

 パーティーがほぼ半壊したので、大翔が召喚術によって率先して攻略。

 雷属性の魔術が弱点だと看破したので、ほとんどのエネミーを一撃で駆逐する。

 雷撃対策を施したエネミーも出現したが、大翔が操る『液体の召喚物』により、内部を漏電させたので問題なく攻略完了。

 大翔たちパーティーの損害は、半壊。

 重傷者は居ないが、世界観のギャップに慣れるため、数日を消費することに。



 天涯魔塔、第75階層。

 ボスエネミーは、赤いボディーアーマーを装備したサイボーグの軍隊。

 攻撃方法に魔術は用いない。銃火器による射撃と、高度な連携。サイボーグ化による人間離れした神経伝達により、『早さ』と手数で冒険者たちを阻もうとする。

 エリアは巨大な工場のワンフロア。数多の工業用機械はさび付いておらず、下手に触ると稼働し、『事故』を起こしてしまうという悪辣な仕様。


 その悪辣なエリアを、ニコラスの殲滅魔術によって更地へと強制フィールド変更。

 障害物が無くなったフィールドで、大翔の援護の下、アレスが獅子奮迅の活躍を果たす。

 大翔たちパーティーの損害は皆無。

 無事に攻略完了。


 攻略後、NPCとエンカウント。

 NPC――リリーとの商談が開始された。




「や、どうもどうも。お久しぶりですねぇ、皆様」


 リリーは以前と変わらず、予兆すら感じさせずにその場に現れた。

 胡散臭い笑みを浮かべて、慇懃無礼な口調も変わらず。

 ただ、リリーが大翔たちに向ける視線は、どこか親しみを感じさせるものだった。


「新進気鋭――いえ、迷宮都市でも有数の実力者となった皆様に、是非とも買っていただきたい商品があるのですが、いかがでしょうか?」

「…………随分タイミングが良いというか、見計らったみたいに来るよね、君」

「ええ、皆様の邪魔をしないようにと隠れていましたとも」


 先ほどまで気配が欠片も無かったというのに、いけしゃあしゃあと告げるリリー。

 大翔はその姿に溜息を吐くが、拒絶の言葉は吐かない。

 明らかに胡散臭く、どちらかと言えば敵に近いような立場を隠していそうなリリーではあるが、魔よけの効果があったのは事実。

 少なくとも、首狩りに対する何かしらの対抗手段を持っている商人である。

 詐欺行為を働いてきたり、何かしらの悪意を向けてくるのならばともかく、今のところは無害な商人を追い払おうとは思えない。


「まぁ、いいけどさ。それで、商品のラインナップを教えてくれるかい?」

「ふ、ふふふっ――エロ本、入荷しました」

「マジで!?」

『《大翔?》』

「いや、いやいや、シラノさん? これはあくまで驚愕の言葉であって、別に見たいとか、買いたいとかそういうわけじゃあ――」

「数多の世界の『制服』を集めた、制服コスプレ物でございますよぉ?」

「…………シラノ、ちょっと相談しない?」

『《わかりました、大翔。後で私が検閲して、大丈夫そうだったらお渡しします》』

「エロ本の検閲は相棒の役割じゃないよねぇ!?」


 とはいえ、大翔とシラノのやり取りを愉悦そうに眺めている様子から、確実に性格が良くない相手であることも確かである。

 従って、人当たりは良いものの悪意への対処は難しいアレス。馬鹿にされたと感じたら、即座に喧嘩を売る癖のあるニコラス。この二名は、前回に引き続き、意見は言いつつも直接は交渉に当たらない立場に。

 必然と前回と同じように、大翔が矢面に立ってリリーと商談を始める流れになった。


「えー、ごほん。エロ本に関しては置いといて」

「そうですかぁ? 折角、あらゆる伝手を使って手に入れたのにぃ?」

「ええい、前回の意趣返しはもういいだろ! さっさと商品のラインナップを提示してくれ」

「はいはーい」


 リリーが背中の荷物を下ろし、ずらりと床に並べるのはどれも貴重な品々ばかり。

 ロスティアと同レベルの技量を持つ、鍛冶師が鍛え上げた魔剣。

 十三人の聖人によって祝福された、あらゆる呪いを退けるアミュレット。

 一粒食べれば一か月間は無補給で動ける、秘伝の丸薬。

 その他、大翔たちのコネクションを使っても中々手に入りづらい物が、商品として周囲の

床を埋め尽くしていた。

 それはもう、背負った荷物にたっぷりと収納空間を仕込んでいたのか、このまま単独で市場でも開けそうなほどの商品の量だった。


「どうでしょう? 最前線に向かう冒険者は、何かを物入りのはず。ここらで一つ、物資の補給をしてみては?」

「でも、お高いんでしょう?」

「ふ、ふふふっ、まさかぁ。ウチは良心的な価格を売りにしていますので……それと、前回の商品を快く買っていただいたお礼といいますか、常連になってくださいそうなお客様へのサービスとして…………まぁ、これぐらいでいかがでしょう?」


 胡散臭い笑みのまま、リリーが大翔に手渡した値段表は確かに、どれも良心的な価格だった。

 もちろん、安くはない。一つ一つが迷宮都市で豪遊できるほどの値段が付けられている。だが、このランクの物資を補給しようと思えば、かなり割安に購入できる値段だ。


「こっちとしては嬉しい限りだが、何を企んでいるんだよ?」

「いえいえ、本当に純粋なサービスですとも」

『《大翔、見た限りですと不良品は混ざっていません。呪いの物品などもなく、良質な商品であるかと》』

「…………ふぅむ」


 大翔はしばらく悩んだ後、リリーの顔を見据えて決断した。


「わかった、そちらを信用しよう。アレス、ニコラス。シラノと一緒に、商品を選んで購入しておいてくれ。ポイントの余裕はあるから、何か必要だと感じたものは躊躇わずに買うこと。根拠が無くて、直感による購入でも全然構わない」

「「了解」」


 視線すら向けずに飛んでくる指示に、アレスとニコラスは躊躇いなく応じる。

 大翔がリリーをマークしている限り、とりあえずは余計なことを心配しなくていい。それぐらいの信頼関係は築けているため、二人は上層攻略のため、物資の購入に集中し始めた。


「さて、リリー」

「はいな、なんでしょう?」

「――――本題は?」


 そして、仲間たちが商品を購入している間、大翔はリリーへ切り込むように問いかける。

 単に『良心的な商売』をするために現れたのではないだろう、と。


「本題、なんのことでしょうかねぇ? いやはや、ヒロト様は疑い深くて困る……ですが、そうですね。皆様を待っている間、時間があれば『世間話』でもいかがでしょうか?」


 リリーは肩を竦めて、大翔の問いかけに答える。


「あるいは、『昔話』かもしれませんが。まぁ、単なるウチの感傷みたいなものですので、相手をするのが面倒だと仰るのであれば、恭しく沈黙させていただきますが」

「……いいさ。二人を待っている間、俺も暇でね。生憎、茶菓子は出せないが合いの手ぐらいは入れてあげよう」

「それはそれは、随分と気前のいいお客様ですなぁ」


 胡散臭く、飄然とした様子で語り始める。


「では、お言葉に甘えまして。これはですね、とてもとても昔の、そう、天涯魔塔と呼ばれる塔も無く、この世界に原住民である人類が居た頃の話です」


 天涯魔塔にまつわる、『真実』に辿り着かない、昔話を。



◆◆◆



 さてさて、ヒロト様はご存知でしょうか?

 大抵の勇者は、世界から認定されることによって勇者の資格を得ますが、イレギュラーもあることを。え? 勇者の資格を勇者本人から押し付けられた? 割と無断で? いや、それはイレギュラーが過ぎると言いますか……ともあれ、そういう奴ではなくて。

 ――――勇者召喚。

 世界が勇者たる資格を持つ者を認定するのではなく、他の世界の勇者を召喚する。

 あるいは、『勇者足り得る素質』を持つ者を召喚し、その者に無理やり勇者の資格を取得させる。

 まぁ、外法ですがこういう方法も一時期は流行っていたもんです。

 そして、この昔話は、そういう流行に捕まってしまった、一人の憐れな少女の視点で始めさせていただきましょう。


「はぁ? 私が勇者ァ? なにそれ、ふざけているの?」


 当時、異なる世界に召喚――いえ、拉致された少女はとても不機嫌でした。無力なる一般市民でなければ、その場で主犯を八つ裂きにしても足りない程度には不機嫌でした。

 ええ、何せ気になっていた漫画の新刊を買って来たばかりでしたからねぇ。スナック菓子と、きんきんに冷やした炭酸飲料を用意して、じっくりと楽しもうとしていた矢先のことでした。

 それはもうブチ切れておりましたとも。

 ああ、ありがとうございます。そうですよねぇ、万死に値しますよねぇ。

 ただまぁ、ただの一般市民の少女が万全の準備を重ねた、兵士――ああ、そうです。王城に召喚されたのですよ。召喚術師以外には、偉そうな王族とたくさんの兵士が居ました。しかも、武装は槍ですよ、槍。おいおい、熊でも相手にしているのかと思いましたねぇ……いえ、思ったそうですよぉ、その少女は。

 はい、そんなわけでですねぇ、武装した兵士たちに囲まれれば、いくらブチ切れていても否とは言えないわけですよ。仕方なく、指示……いえ、命令に従いましたとさ。


「…………ダンジョンを攻略しろぉ? この私にぃ? 生まれて初めて武器を持ってから、一か月も経っていないこの私にぃ? テメェのところの兵士を使ったらいのではぁ?」


 そして、勇者の資格を取得してからしばらくすると、少女はダンジョン攻略を命じられましたね。天涯魔塔? いえいえ、あれはどちらかといえば地下に進むやつです。そうそう、進むほど地下深くに潜っていく奴ですねぇ。

 なんか魔導を極めた古代の王――魔王という奴が、ダンジョンを作って奥地に籠っている。その間、ずっとダンジョンの入り口から魔物が出てくるので、『ちょっとダンジョンに潜って魔王を殺してこいや』というわけでした。

 ええ、その通り。逆にテメェを殺してやろうか? とかテメェのところの兵士を使えよ、とか思いますよねぇ? その少女もそんなことを言ったんですが、もう何度も試して駄目だったから勇者召喚をすることになったらしく……素直に諦めておけばいいものを。

 まー、そんなわけで、いやいやながら少女はダンジョンを攻略させられるわけですよ。

 レベルが上がったら、真っ先にこいつらをぶち殺してやる、ぐらいは思っていましたけどね? ただ、少女の首には呪いの首輪が嵌っていたので、それをどうにかしないといけませんでしたが。とりあえず、意気込みとしてはそんな感じです。

 ただ、流石の無茶ぶりクソ王族も、勇者とはいえ素人を単独で潜らせるのは無理だと考えていたんでしょうね? 付き添いを一人、勇者である少女に用意したのです。


「初めまして、勇者様。僕はホロウ。貴方の盾であり、剣であり、道先案内人です。どうか、使い潰してください」


 それは、ホロウと名乗る奴隷の少年でした。

 呪いの首輪を嵌められながら、へらへらと笑う奴でした。

 元々は偉そうな王族と敵対していた国の王子様だったらしいですが、赤ん坊の頃に国が滅ぼされたらしく。ええ、物心ついたころには奴隷として扱われていたらしいです。

 ただ、奴隷とは言っても元は王族。しかも、魔術師の素養を持つ一族だったので、肉体的には虐待を受けていなかったようです。ええ、体は綺麗な物でしたよ、体は。

 …………ちがっ! 確認したわけじゃないです! ええ! 少女はエッチなことはしていません! だって、少女ですから!

 とにかく、勇者一人、奴隷一人でダンジョン攻略を始めたわけです。


「勇者様、お下がりください。僕が前に出て、盾になります」

「柔らかい魔術師が前に出るんじゃねぇ! 私の後ろに下がれぇ!!」

「…………???」

「首を傾げるなぁ! 戦術のお話をしているよ、こっちはぁ!」


 前途多難。

 その言葉が似合う有様でしたよ。本当にもう、ホロウはダンジョン攻略の基本もわかっていない奴でしてね? 元の世界でフィクションとしてダンジョン攻略を知っている少女にすら、色々言われるような奴だったのです。

 いや、本当に少女は大変だったでしょうねぇ。

 いわゆる成長系のチート持ち持ちの少女でしたが、ホロウという少年を庇いながらの試行錯誤。時折、現状にブチ切れながらも地道にダンジョンの構造を調べて、安全マージンを三重ぐらいにとって。

 本当にもう、今の冒険者たちが羨ましくなるぐらい大変でしたよ。


「勇者様、やりました! 魔王の書物から新しい魔術を覚えました!」

「よし、よくやったね、ホロウ! それでどんな魔術!?」

「はい! 僕の魔力を全て使って、眼前の敵を全て焼き払う奴です!」

「殲滅級の魔術だね! 制御はできそう!?」

「…………制御???」

「うっそでしょう? この子、今まで制御せずに魔術を使ってたの? ああもう、どおりで他の魔術師よりも燃費が悪くて、威力がバカ高いと思ったら」


 …………まぁ、楽しいことが皆無だったかといえば、そうでもなかったですがね。

 薄暗い地下のダンジョンを進むような、死と隣り合わせの冒険。

 それは間違いなく、少女とホロウにとっての青春だったでしょう。

 ええ、辛いことも多かったけれども、楽しかったです。

 最後の最後、地下の最奥に潜む魔王を討伐した後、それまでの日々を名残惜しんでしまうほどに。

 ――――それが、よくなかったのでしょうね。


「勇者様、あぶないっ!」

「えっ?」


 魔王が最後に放った呪い。

 それは呪った対象に『自分と同等の知識』を植え付けるものでした。

 いえいえ、人格を転写したわけではありません。あくまでも知識だけです。

 そう――『超越存在に成りかけていた』ほど、魔導の深淵に踏み込んだ魔王。その知識をホロウは植え付けられてしまったのです。

 油断してしまった少女を庇った所為で。


「……あ、あぁ、これは、だめ、です……ゆうしゃ、さま……ぼく、を、ころ、し……うぐっ! この、このっ……はぁ、はぁ……殺して、ください。僕が魔王……いえ、それ以上の災厄と成り果てる前に!」

「ほ、ホロウ? 嘘だよね? だって、お前と私は一緒に――」

「早く!!」


 ホロウは理解していました。

 ここで自分が死ななければ、最悪の事態が起こると。

 自分だけではなく、世界も……少女も殺してしまう結果になるのだと。

 だから、その最悪を避けるために死を望んでいたのです。


「だ、駄目だよ……だって、ホロウ。お前は、私と一緒の世界に帰って……一緒に、遊んで。ほら、漫画とかアニメだって! 美味しいご飯だって! 私は、お前に何も! 何も約束を果たせていない!」

「勇者様……それでも、それでも! 貴方は僕を殺さないといけないのです!」

「嫌だ! そんな結末は認めない! 何か、何か方法が――」


 しかし、愚かなことに少女はその最善を逃してしまいました。

 いつの間にか、ホロウに情を抱いてしまったのでしょう。まだ、少女と呼ぶ年齢でしかない勇者には、大切な人を殺す判断なんて出来なかったのでしょう。

 はい、そうですねぇ。ヒロト様の予想通り…………決断は、ホロウがしました。


「……ごめんなさい、勇者様」

「ま、待って……なにこれ、体が……駄目! 駄目よ、ホロウ! そんなことしないで!」


 少女の精神に魔術で一時的に干渉し、魔術でホロウ自身の首を落とすように命じたのです。

 もはや、ホロウは自殺できるような存在ではなくなっていたが故に。

 少女が持つ、勇者の力で殺してもらうしかなかったのです。


「いや、嫌よ! こんなのは! こんな結末は認めない! 私は! 私はぁ!!」


 抵抗の末、少女は手に持った大鎌でホロウの首を刈り落としてしまいました。

 勇者として召喚された少女は、何一つ守ることすらできずに、大切な人を自らの手で殺めてしまったのです。

 ふ、ふふふっ、ええ、ご明察です、ヒロト様。

 滑稽だったのは、悲劇にすらならなかったのは。

 その時既に、何もかもが手遅れだったのです。

 ええ、つまり――――手遅れだったから、首無しの王は誕生したのですよ。



◆◆◆



「これにてウチの『昔話』は終わりです。ふふふっ、すみませんねぇ、結局は天涯魔塔について何も語らず、無様で滑稽な二人の物語を語っただけで」

「いや、途中までは良質な惚気話だったから、別にいいさ」

「…………意地悪ですねぇ、ヒロト様は」

「これでも親しみを込めて言っているよ。少なくとも、その『昔話』を聞く前よりは、君に親しみを持っているのは事実さ、リリー」


 長い昔話を語り終えた後、リリーの表情はどこか寂しそうに見えた。

 視線は大翔に向けられているというのに、視点はもっと遠く。ずっとずっと、遠くに離れた誰かに向けられているような表情だった。


「でも、わからないな。リリー、君はどうしてこの話を俺に聞かせたんだ? 正直、君みたいな奴は最後まで、『そういうこと』は語らないと思っていたのに」

「ふふっ、言ったでしょう? ただの『感傷』ですよぉ、ヒロト様」


 けれども、それはほんの一瞬。

 リリーは仮面でも被ったかのように、また胡散臭い笑みを浮かべている。


「期待している貴方様には、知っておいてほしかった。ただ、それだけのことですよぉ」


 大翔にはその笑顔が、まるで泣いているように見えた。

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