幻のお菓子を求めて
ごきげんよう、ひだまりのねこですにゃあ!!
今日は幻のお菓子のお話。
◇◇◇◇◇◇
あれはどれくらい昔だっただろうか?
おそらく幼稚園時代だったと思う。
お盆になると父の実家には親戚一同が集まるのだが、その時に出されたお菓子に私は衝撃を受けたのだ。
美味い……美味すぎる……。
大人たちが談笑する中、私は一人で黙々とそのお菓子を食べていた。
しかし、忘れっぽい私のこと、そのお菓子のことはすっかり忘れてしまうのだが、
翌年お盆になり、父の実家に行くと思い出すのだ。
美味い……美味すぎる……。
そんなことを繰り返していたが、ある時を境にお盆に父の実家へ帰ることは無くなった。
祖父は私が1歳の頃に亡くなっており、残された祖母が叔父の家で暮らすことになったからだ。
父の実家は、長男である伯父が住むことになったが、あいにく伯父と父は性格が正反対で折り合いが悪い。
祖母が東京から四国へ移ってしまったこともあり、集まりは自然と消滅してしまった。
詳しい事情は知らないが。
そう……あの、すんごく美味しいお菓子が……食べられなくなってしまったのだ!!
とはいえ、忘れっぽい私のこと。
そのかわりに九州の母の実家に行けることになった喜びでそんなことすっかり忘れていた。
なぜなら、以前にもエッセイで書いたけれど、祖母の作るお菓子はどんなお店で食べるお菓子より美味しいからだ。
月日が過ぎてある日のこと。
ああ……食べたい……あのめっちゃ美味しかったお菓子が食べたい……。
不意に思い出したら止まらない。
熱い想いがあふれ出てくる。
しかし、あのお菓子の名前がわからない。
父と母に聞いてみた。
「え? 何それ知らないよ……」
しまったあああああ!!!! 私が全部食べていたんだった!!
私があんまり好きだから、全部もらっていたんだった……。
家族にあのお菓子の記憶はなかった。
さらにあのお菓子を持ってきていた伯母さんも、
「ああ……あれねえ……毎年いただいていたものだから……もうお亡くなりになっているからお付き合いも無くなっていて……ごめんね、わからないわ」
私に似て忘れっぽい伯母さん。名前が出てこないらしい。
なんてこった。まさかの手掛かりなし。
食べられないとわかると、食べたくなるのが人情。
それからというもの、人に会うと、そのお菓子の話をして、知らないか尋ねるのが習慣になっていた。
ちなみに、そのお菓子だが、
なんか竹の皮みたいのに挟んであるうすっぺらいゼリーみたいなやつ。たぶんぶどう味。
という大雑把なもの。
味は二種類あって、どちらも好きだったのだが、特にぶどうっぽい味の方が好きだった。
年々記憶が曖昧になってゆく一方で、思い出補正でどんどん憧れだけは募ってゆく。
このまま幻で終わってしまうのか……。
そう思っていた社会人一年目のある日。
長年の習慣で職場の人たちに幻のお菓子の話をしていた時、
「それって、のし梅じゃないの?」
パートのおばさんの一人がそんなことを言った。
のし……梅!?
いや……あれはぶどうであって、梅ではない……のだが、
いや待て、なんだこの懐かしい音の響きは……?
初めて聞いた単語ではない……そういえば、もう一つの味は酸っぱくてなんの味だかわからなかったけれど、梅と言われればそうだったような気もする。
「それって、ぶどう味もありますか?」
「さあ? 私は梅しか知らないけどね」
私は居てもたってもいられず、ネットで検索。
「あった……これだ……間違いない」
正確には山ぶどう味だったが、間違いなく私が食べていたお菓子だった。
幻のお菓子の正体は、山形銘菓「のし梅」 長年の謎が解けた瞬間だった。
1週間後、私は通販で取り寄せたのし梅山ぶどうを食べた。
「ねこちゃん、本当にのし梅好きね。ほら、全部食べちゃいなさい」
不意に思い出した言葉。こっそり全部私に渡してくれた白くて綺麗な手。
数年前、若くして亡くなった大好きな伯母さん。苦手な親戚の人たちの中で、唯一大好きだった人。
父と雰囲気が似ていたからというのもあったからかもしれない。
「……美味しい、美味しいよ、伯母さん」
十数年ぶりに食べたのし梅は、あふれる涙の味がして。
想い出よりもちょっぴりしょっぱい味がした。