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第四話


 ミュリエルお嬢様から逃げて部屋に戻ることは成功したが、そこで待っていたのは退屈だった。


 仕事が無いということは、元々仕事だった時間がフリーになると言うこと。


 しかし娯楽に興じようにも、勉強しようにも物が無い。


 まじでやる事が無い。


 本当に暇。


 これだったら働いた方がマシな気がしてきた。


 けど折角の休みだし、情報収集だって成功していない。


 休みを返上するのは我慢の限界が来ない限り辞めよう。


 ということで寝る。これしか策は残っていない。


 人間寝れば勝手に数時間経過してくれる画期的なシステムが搭載されている。


 おかげで夕食を逃しそうになったが。


 夕食も食べたことだし、また寝るかとイザヤが横になった矢先だった。


 突然セレスティナが部屋に入って来てこう告げたのだ。


「専属使用人?」


「そうなんです。三日後に決めるという話です」


「うーん、その専属使用人というのがまず分からないんだけど」


「あらまあ、知りませんか?」


「聞いた事は少なくとも無いはず」


「ジェネレーションぎゃふんとか言うやつですか」


「ジェネレーションギャップね。それに母親と息子の関係ならジェネレーションギャップならない方が可笑しいでしょ」


 「そうですね」と笑うセレスティナ。


「専属使用人と言うのは、雇い主の家族に仕えるのでは無く、特定の人物だけに仕える使用人の事です」


「名前の通りだね。従者とかレディースメイドって感じ?」


 従者、レディースメイドとは、特定の人物に付きっきりで世話をする使用人の事だ。


 男性を世話する男性使用人が従者で、女性を世話する女性使用人がレディースメイドだ。二つの違いは性別でしか無い。


「そうです。まさにそれですっ」


「じゃあ別に従者かレディースメイドでいいじゃん。何でわざわざ別枠を用意するの?」


「イザちゃんは賢いですね。お母さん感心しました」


「あ、ありがとう……」


 素直に恥ずかしい。


「イザちゃんの言う事は最もだと思います。しかしここである問題が生じてしまうのです」


「うーん? そうなの?」


「それは使用人が『ヴァシリア学院』に入れないって事です」

 

「……?」


「『ヴァシリア学院』は、男爵以上の貴族の位を持つ、又は親が持っていないと学園に入れません。そこで専属使用人を選んで、一代限りの男爵の地位を与えます。するとあら不思議、使用人として学園に入学することが可能なんですっ!」


「何その裏技」


「裏技ですが、地位の高い貴族は皆やっている事なんです。今まで使用人に囲まれて暮らしていたのに、急に一人で生活しろと言われても、簡単に出来るものではありません。それに万が一の時の為にも、一人は使用人が居て欲しいじゃないですか」


 成程な。


 生活を完全に親に任せていた子供が、急に一人暮らしをやれと言われても心身共に難しいだろう。


「そこでっ、暗黙の了解として、使用人一名に貴族の地位を与えて、学院内でも仕えさせているのですっ!」


「それって全部の貴族が行う行為なの?」


「いえいえ。出来るのは伯爵以上ですね。一大限りとは言え、貴族が増えすぎれば、貴族の位の価値が社会的に下がる要因になり得ます」


 ヒールデイズの舞台であるここ『オリフィラ王国』は封建制度が確立されており、王は自分に仕える無数の貴族たちに土地と自治権を与え、貴族は貢納、労役、従軍等を求められる。

 

 貴族の力関係の崩壊を招けば、それは王国の崩壊を意味するのと同義だ。


「そしてその貴族の管理を行っているのが、我らがエトワール公爵家当主であり、紋章院総裁の『スーワイト=エトワール』様なのですっ!」


 ステマか! 


 主の名声を轟かせるのも使用人の仕事だが、流石にわざとらし過ぎるよ母さん。

 

「……という事は、学院に入らない。もしくは学院に入れる年齢を越している場合には、専属使用人は必要無いよね」


「ええ。あくまでも専属使用人は学院に入る御子息御息女用であって、それ以外は従者、レディースメイドで問題ありません」


 ちょっと待てよ?


 そうなると、エトワール公爵家には現在、血を引く子供は一人しか居ないはず……。


 嫌な予感がしてきた。


「じゃあ、ウチは……誰の専属使用人を決めるの?」 


「ミュリエル様の専属使用人を同年代から選抜して決める、その中の一人がイザちゃんなのですっ」


「やっぱりー?」


 もう二度と合わないと思っていたのに、直ぐに再会する事になるとは。


「やっぱりも何も、他に人が居ません……から」


 最後を言い淀むセレスティナ。


 悲しそうな作り笑いをしながら。


「どうしたの?」


「何でもありません!」


「いや何でも無いならそんな顔しないでしょ……」


「何でも無い事にして下さい!!!」


 それは何かある事を認めてるよ母さん……。


 気にはなるが、こんなに嫌がっているし、追及は辞めよう。


「……まあきっと選ばれないでしょ」


「そんな事無いです! イザちゃんは立派に働いているし、私と違って頭も良いから、きっとミュリエル様のご慧眼に適う筈です!」


 いや彼女に慧眼も何も無いと思う。


「……別になりたいと思わないしなー……。母さんはなって欲しいの? 俺が専属使用人に」 


「勿論。イザちゃんは私と違ってもっと上に行ける存在ですから」


「俺にそんな才能は無いと思うけど」


「自覚と周りからの評価はイコールではありません。私はどんなイザちゃんでも応援します!」


 自分の事のように張り切るセレスティナを見て、イザヤの心情は複雑だった。


 母さんは専属使用人になる事を望んでいるのだろう。


 それでも、やっぱり専属使用人にはなってはいけない。


 なってしまえば最悪、悪役令嬢破滅に自分も母さんも巻き込まれてしまう。


 破滅フラグを回避する選択肢もあるが、リスクを考えるとやはり関係を無くす事が一番安全だ。


 それにフラグを回避させた結果、その先の未来が変化してしまう可能性もある。知っている未来を変化させず、身を守るなら、専属使用人にならず、公爵家との関係を切るべきなのだ。


 だから自分と母さんの安全を第一に俺は生きる。


 その為に専属使用人にならず、原作通りのストーリーをこの世界でも全うしてもらう。

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