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8.ただいま魔力強化中

「よし、気合入れていくぞ!」


 昨日はゆっくりとした一日を過ごせたためか今日は寝起きバッチリ、朝ごはんを済ませるとすぐに森へと向かった。

 やっぱり睡眠は大切なんだな……転移前では夜更かしして授業中に寝ることもあったし。

 こちらでは娯楽というものはほとんどなく、電気もないので夜は暗く、すぐに寝てしまうことが多い。

 ……転生したことで強制的に健康的な生活スタイルになっているな……。


 ただ、旅を始めたら野営の時の見張りなども必要になるだろうし、この生活スタイルも安全な町の中にいるからこそ、か。

 でも、いつかは町を離れて、レアドロップ集めの旅に出るときも来るのだろうか。


 ……などという事を考えながら歩いていると、森の手前まで来ていた。

 さて、ここからは気を付けながら森に入って行かないと。


 というのも、ドリアードの攻撃が魔法だからだ。

 レベルは25になったものの魔力は13しかなく、これは魔法職のほぼ初期値らしい。

 幸い体力はあるからなんとか受けることができるが……一応、体力回復用にクズハさんお手製のポーションも持ってきた。

 「くふふ……これ一本でお主の体力を全回復できるぞ?道具袋にも優しい、細身の容器じゃ」と言われて購入したのだが……クズハさん、商売が上手いなあ。


 ……おっと、余計な事は考えないようにしないと。集中集中。




**********



 ドリアードを探す事、約二十分。

 バトルビートルには何回か遭遇したが、未だにドリアードは見つかっていない。


 もっと奥の方を探さないといけないか……と、草をかき分けていたら茂みの向こうに変わった木があった。

 周りの木よりも背丈が低く、一つだけ日が全く当たらないのに、痩せていない木。

 そして一番の違いは……()()()()()()()()()、ということ。

 ……アイテムを盗めるという事は、モンスターだ。

 なるほど、こうやってモンスターかどうかを見極めることもできるのか。盗賊は罠に強い職業であることが多いが、このように擬態を見抜くことも可能なんだな。


 問題は、あいつがドリアードかどうかということ。

 木に擬態するモンスターにはトレントなどもいるが、それがこの森にいないとも限らない。


 ……うーん、悩んでいても始まらないか。とりあえず盗んでみて魔力の丸薬ならドリアードってことで。

 内心、そんなガバガバな作戦でいいのかと思うが、一撃離脱を心がければいいだろう。


 俺はできるだけ音を立てずに近づくと、一気に懐へ飛び込んでアイテムを盗み、距離を取る。

 敵は盗むに反応して俺へと敵意を向け、擬態を解く。

 スラリとした茶色の身体に、胸の部分にはうっすらと膨らみが見え……健全な男子に何を見せてるんだ!ちょっとドキッとしたじゃないか!

 



 落ち着こう。落ち着いた。


 ……それにしても人間型のモンスターか、倒すのには抵抗があるな……。

 今まで倒してきたモンスターは不定形のスライム、虫のバトルビートル、そして人型のミノタウロス。

 ミノタウロスは人型ではあるものの、その大きさは人間の五倍以上はあり、人間として見るにはあまりにも異形だった。……だから倒せたのもあるかもしれない。


 それらに比べるとドリアードは人間とほぼ同じ大きさで、容姿も肌の色が茶色というぐらいしか人間の女の子と違いがない。

 つまり、ドリアードを倒すという事は、ほぼ人間の女の子を手にかけるようなもので……。


 そんなことを考えていると、ドリアードが何か詠唱を始めたのが聞こえた。

 ……しまった、魔法か!


 ドリアードが詠唱を終えると、彼女の後方から岩が飛んできた。

 俺は咄嗟に盾でガードするが……痛い。

 そう、物理攻撃のように見えるが、これはれっきとした魔法だから、ダメージは魔力依存なのだ。

 なんか納得がいかないけど。岩を物理的に投げるのとどう違うんだ。


 そして再びドリアードが詠唱を始める。

 ……やらなければやられる、ここはそういう世界だ。

 そう判断した俺は距離を詰め、詠唱で無防備になっているドリアードの胸に、一気にダガーを突き立てた。

 するとドリアードの身体が光り、ドロップアイテムの癒しの雫が足元に転がる。

 倒しても死体が残らないのは、こういう時はありがたいな……。


 複雑な思いを抱きつつ、ドロップアイテムを回収して次のドリアードを探すことにした。




**********




 その後もドリアードを探しては倒し、最終的には十個の魔力の丸薬を手に入れることができた。

 スライムに比べて効率は悪いが、現時点で必須のアイテムだから時間をかけてでも集め、魔力を上げて行かないといけない。


 ドリアードからのダメージを抑えるためにすぐに使っても良かったのだが、クズハさんが研究のために欲しがるかもしれないから、使うのはクズハさんと相談してからにしよ……。


「……?」


 ふと、誰かからの視線を感じた。

 しかし辺りを見回しても誰もいない。

 気のせいか、それとも擬態している他のモンスターでもいるのか……。

 少し気味が悪くなり、足早に街道へと歩を進め、そのまま町へと変えることにした。




**********




「ほう、十個も手に入ったか。なかなかの成果じゃのう」

「やはりドリアードの数は少ないんです?」

「うむ、擬態をしているだけあって警戒心も強く、人間の気配を察知すると逃げ出す個体もおる」


 なるほど、それならスライムやバトルビートルと違ってなかなか遭遇しないわけだ。

 それで十個も手に入ったのなら御の字か。


「ところで、ドリアードを狩り過ぎて森からいなくなったりはしないんですか?」

「それは大丈夫じゃ。モンスターは瘴気から生み出され、倒してもしばらくすると新しい個体が出現するのじゃ。間隔はモンスターによって異なるが、ドリアードなら二日から三日じゃな」


 だから草原のスライムは毎日狩っても狩っても数が尽きなかったのか。

 ……あれ?でも復活するなら……。


「……もしかして、ミノタウロスも復活したりしません?」

「ふむ、良い所に気付くのう。あれは突然変異じゃな。モンスターは瘴気の濃い所ほど強くなる傾向にある。例えば魔王の居城の近くや、人の手の届かぬダンジョンの深層などじゃ。この町の近くなど、人の生活圏の近くは瘴気が薄く、弱いモンスターしか出現せぬのじゃが、極々まれに瘴気が集まり強大なモンスターを生み出すことがあり、それが突然変異と呼ばれておるのじゃ」

「それが、あのミノタウロス……」

「うむ。ただ、あそこまで瘴気が集まるのは聞いたことがない。せいぜい普段の二倍程度のレベルのモンスターが出るぐらいなのじゃが……」


 スライムがレベル1なのを考えると、せいぜいレベル2か3ぐらいのモンスターが普通なのか。

 それなのにレベル50のミノタウロスが出てきた……これは異常事態と言ってもいいだろう。


「突然変異の例は各地で聞くが……ここまでレベルが高いモンスターが出現したのは恐らく初めてじゃな」


 魔王が復活したのと何か関係があるのだろうか。


「まあよい。考えておっても始まらん。……それより魔力の丸薬を使ってステータスを上げるがよい。魔力の籠め方を教えてやろう」


 そうだな、考えても考えても憶測の域を出ないだろうし、今はやれることをやればいいだろう。

 俺は手に入れた魔力の丸薬を全て使い、指輪を外してからクズハさんに鑑定してもらった。


「魔力は……48じゃな。かなり上がっておるではないか」


 レベルが25になっても13しかなかった魔力が48にまで上がっている。ほんとにチートだよなこの盗む……。


「これぐらいあれば指輪に魔力を籠めることもできるじゃろう。さて、方法なのじゃが――」




 それから30分ほどクズハさんから魔力の使い方を教わり、指輪に魔力を籠めることに成功する。


「うむ、なかなかスジがいいぞ。魔力は使い切っても自然回復するから、寝起きに籠めるのを忘れずにな」

「はい、ありがとうございます。……魔力があるなら魔法も使ってみたいんですけど……」

「無理じゃな。職業によって魔法の適正があるのじゃが……盗賊は魔法適正0じゃ」


 ゼロ。

 ひどい。


 そんな顔をしているとクズハさんが続ける。


「まあ魔力を上げることで魔法の道具に魔力を籠めることもできるし、魔法への抵抗力がつくので良いじゃろう。明日またドリアードの攻撃を受けてみい、大分軽減されたのが実感できるじゃろう」


 ファンタジーと言えば魔法、という印象が強いからできれば自分でも使ってみたかったが……まあしょうがないか。魔法防御が上がるだけでもかなり大きいし。


「あ、ところで……」

「なんじゃ?」


 俺は森で視線を感じたことをクズハさんに話した。


「ふぅむ、気になるのう……よし、明日はワシもついていってやろう」

「いいんですか?」

「うむ、その代わり癒しの雫をもらいたい。在庫が少なくなってきてのう」

「それでよければお願いします。今日の分も差し上げますので」

「おお、助かる。それでは明日、森に行く前にここに立ち寄るがいい」

「分かりました、明日はよろしくお願いします」


 クズハさんが来てくれるなら心強い。ミノタウロスを倒すほどの魔法を持っているから、視線の正体が何であれ解決してくれるはずだ。

 それに誰かと一緒に冒険するのも初めてだから、内心ワクワクしている。


「よし、早めに寝て明日に備えるか!」


 いつもの食堂でちょっと豪華な夕食を食べ終えると、俺は早々に眠りについたのだった。

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