7.レベル3盗む
「ふぁ……ちょっと……どころじゃない寝坊したな……」
ミノタウロスと戦った翌日。
死んだように眠って、気がついたら太陽が南に位置していた。
時計がないから時間は分からないけど、夜になってすぐ寝たはず。
そして南中の時間が地球と変わらないなら今は昼。
「半日眠るほど疲れてた……ってことか」
俺はもぞもぞとベッドから起き上がると、いつもの装備に着替える。
保存食で軽い食事を済ませると、宿屋を出ようとする。
「あっ、ゴウさん。ちょうどいいところに」
話しかけてきたのはここの宿屋の一人娘。
俺より年下のようだけど、両親を手伝って宿屋の仕事をしている。
「あれ、俺に用事ですか?」
「はい、さっき冒険者ギルドのギルドマスターが来られまして……まだゴウさんが起きられてないことを伝えると、言伝を頼まれまして」
「ギルドマスターが?なんだろう……」
話を聞くと、昨日のミノタウロス襲撃の際のお礼を言いに来たらしい。
冒険者として真っ先に戦場に駆け付け、重症の兵士たちの治療にあたったとして、謝礼も出るとか。
……あれ、全部クズハさんのハイポーションのおかげなんだけど……。
「ありがとう、それじゃ俺は冒険者ギルドに行ってみるよ」
「はい、お気をつけて」
俺は言伝のお礼を言うと、宿屋を出て冒険者ギルドへと向かった。
**********
「うーん、俺はただ治療してただけなのに……こんなにもらってもいいものか……」
ギルドマスターから受け取った謝礼は二万ガルド。
治療が早かったおかげで助かった兵士もいたらしく、その人たちが報酬を上乗せしてくれたのでこの金額になったとか。
……これは後でクズハさんに渡そう。ハイポーションもタダじゃないからな……。
さて、寝坊した上に冒険者ギルドにも立ち寄ったからもう昼過ぎだ。
これから森の奥に入ると帰るころには日が暮れることになるし、今日はスキルレベルが上がった『盗む』を試すことに決め、俺は草原へと向かった。
**********
「おっ、いたいた」
草原に到着すると、待っていたとばかりにスライムが出てくる。
いつも通り突進を回避して、赤く光る空間に手を触れる。
これでウィンドウが出てくるはずだが、果たして……。
【ノーマルドロップ/レアドロップ/ステータス】
ステータス!?
いいのか、そんなものまで盗めて!
試しにステータスを選択すると、ウィンドウが切り替わる。
【力:2/技:1/素早さ:1/守備力:3/魔力:1/運:1/状態:健常】
ええと……これはどれを盗むか決めろということかな。
数値は恐らく盗める量だけど……守備力はカンストしてるから力を盗んでみるか。
力を指で選ぶとウィンドウがスッと消え、同時に力が湧くのを感じた。
なるほど、力を盗んで自分の物にしたわけか。
盗んだ後は赤く光る空間が消滅したため、どうやらステータスはどれか一つしか盗めないようだ。
そして、モンスターを倒すと盗んだステータスは元に戻るらしい。
つまり、自分には能力上昇、敵には能力低下という扱いになる。
ドロップやレアドロップを盗めなくなるのは残念だが、充分に強いと思う。
次に効果時間を検証してみる。
スライムからステータスを盗んで倒さずに放置してみると、およそ5分後に効力が切れた。
そして、赤く光る空間が復活したのを確認できたので、お互いの能力は盗む前に戻るのだろう。
ということは、ステータスを盗んで有利に戦いを展開し、倒す間際にレアドロップを盗む、なんて使い方もできるのか。
最後に状態についても検証したかったが……自分で状態異常になることはできないし、相手に状態異常を付与するようなアイテムも持っていない。
自分が状態異常になっている時に盗めば、状態異常を健常で上書きできるのかな……相手の状態異常、例えば毒や麻痺なんて盗もうとも思わないし。
いずれ使う時が来るかもしれないので検証はしておきたいが、まあそう急ぐ必要もないだろう。
検証が終わるころには日が傾きはじめていた。
収穫は検証ついでに倒したスライムの薬草だけだが、検証が楽しかったのでまあいいかな。新しいスキルを使うのってワクワクするし。
さて、日が暮れる前にクズハさんの所に寄って、二万ガルドを渡そうかな。
**********
クズハさんに二万ガルドを渡そうとしたのだが、クズハさんはクズハさんでミノタウロスの討伐報酬、使った分のハイポーションの代金ももらっていたらしく「これ以上借りを作るわけにはいかん」と断られた。
ついでにステータスを盗めるようになったことを話すと「ほう、これから先、更に進化するか楽しみじゃのう……」と言われて、更にスキルの詳細を説明させられてしまった。
そして、スライムのステータスと俺が盗む際に表示されたステータスは同じ値らしく、ステータスが全部盗めるのではないかという話にもなった。
もし全部盗めるとしたらとんでもない能力低下スキルだな、別の敵でも試してみないと。
そんな会話をしていたらいつの間にか夜になっていたので、とりあえず近くの食堂で晩ご飯を済ませ、宿屋に帰ってベッドの上に寝転がる。
「そういえばミノタウロスを倒したからレベルも上がってるかな」
俺は鑑定の鏡を持つと、『鑑定』と唱える。
……しかし、鑑定結果が表示されない。
「あ、そういえば」
俺は薬指の指輪を外す。
うっかりしてたな……でも、ちゃんと隠蔽魔法は発動しているみたいだ。
効果がちゃんと発揮されているのに安心し、再び鑑定を発動させる。
レベル:25
体 力:124
力 :32
技 :72
素早さ:102
守備力:255
魔 力:13
運 :78
えっ、ミノタウロスを倒しただけで一気に20近く上がってるのか……。
そして非力な職業と言われるだけあって、レベル25なのに力は低いな。
守備力は255のままということは限界を突破してはいないようだ。どうやったら限界突破できるんだろう……クズハさんなら知ってるかな。
肝心の隠蔽魔法のための魔力は13……これは魔力の丸薬が大量に必要になるぞ、がんばろう。
……しかし、こんなにも簡単に255になると、他の冒険者たちに悪い気もするが……与えられたスキルを有効活用した結果だし、まあいいかな。
さて、それじゃ早めに寝て、明日こそ魔力の丸薬を集めに行かないとな……。
俺は布団に潜って目を閉じると、すぐに眠気が襲ってきた。
……やっぱり、ミノタウロスの威圧感でかなり気力を消耗したんだろう……な……。
こうして、少しのんびりした一日が終わったのだった。