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6.戦いの後で

「ふう、なんとかなったのう」

「それは……いいんですが」


 兵士たちの救助やギルドマスターによる聞き取り調査も終わり、町が平静を取り戻したころ、俺とクズハさんは店へと戻って来ていた。

 しかし、聞きたいことはたくさんある。


「どうして俺の能力のことを知っていたんですか?」

「なんじゃ、ワシが鑑定魔法を使えぬとでも思っていたのか?錬金術師は作成したアイテムをちゃんと使えるかどうか鑑定するのも仕事じゃろう?」


 言われてみればそうである。

 完成したアイテムがちゃんとできているか、新しくできたアイテムなら効果は狙い通りか……それを知るためには鑑定するのが当然か。


「それと……ミノタウロスを相手にできる冒険者はいないと言ってましたよね。クズハさん、楽勝だったじゃないですか」

()()()()、な。ワシは今は錬金術師じゃ。冒険者ではなかろう」


 言葉遊びじゃあるまいし……なんか腑に落ちないぞ。


「それに……そう言わないとお主が動かぬじゃろう?」

「俺が……?」

「そうじゃ、確定でレアドロップを手に入れられる能力の持ち主じゃ。ワシもミノタウロスのレアドロップは知らぬでな。やつのレアドロップが何か、知りたかったのじゃ」


 なるほど、元々はダンジョンの深層に出現するような魔物だ、あんな強敵のレアドロップが出るまで狩るというのは並大抵のことではないし、もしまだ見ぬレアアイテムを持っているのではないかと思うのも分かる。

 ……俺もゲームやってる時は、モンスター図鑑のドロップアイテム埋めや、それで手に入れたアイテムでアイテム図鑑を埋めていくのは好きだったし。


「それだけではなく、あの魔法の詠唱には時間がかかる。お主がいて攻撃を防いでいなければ発動などできなかったじゃろうて」


 確かに詠唱をしながら2分もあのミノタウロスの攻撃は凌ぎ切れないよな……魔法の射程距離の問題もある。

 そういう意味では俺が必要だったんだ。


「じゃあ最後に……ギルドマスターとは何を話していたんです?」

「ん?あれか。ミノタウロスはワシが倒し、お主は救助のためにワシがついでに連れてきた、ということにして報告していたんじゃよ。……実際にトドメを刺したのも、時間稼ぎをしたのもお主じゃが……どうも、お主は目立ちたくないと思っているようじゃからのう」

「ど、どうしてそれを……?」

「ん?そりゃあそうじゃろう。レアドロップを盗める特殊なスキルを持ちながらも、それを使って大量に稼ごうとはしておらんからのう。初日に持っていた守備の丸薬も、自分で使って余った分を持ち歩いていただけじゃろう。高く売れる物を大量に余らせながらも、売って換金しておらん。……となると、それを売ることによって悪目立ちしたくないと考えられるからじゃ」


 そこまでお見通しなのか……怖っ。


「……ありがとうございます、クズハさんのおかげで目立たずに済みました。確かに俺は平穏な生活を送ることができれば良いと思っています。だからこのスキルは公にはしていません」

「うむうむ。では逆にワシから質問じゃ」

「……なんでしょうか?」

「スキルのことを隠そうと思っているのに、なぜ隠しておらん?」


 ……どういうことだ?

 誰にも言ってないから、隠してはいるはずなんだが……。


「隠しておらんじゃろう?ワシみたいに鑑定魔法さえ使えば、お主のスキルは丸裸になるぞ?」

「……あっ」


 そういえばそうだ。

 召喚された時は普通の『盗む』と鑑定された。

 しかし今は……クズハさんにも鑑定で気づかれたように、レベルが上がっている。

 本来、レベルが上がるはずのない『盗む』スキルが。


「鑑定魔法だと、どこまで内容が分かってしまうんです?」

「そうじゃな……鑑定魔法にもレベルがあるが、ワシの中級鑑定はスキルレベルまで鑑定することができる。ちなみに初級だとステータスや道具の効能とかだけじゃな。上級だとスキルの内容まで分かると聞くが……」

「中級のレベルが分かるだけでも致命傷ですね……」

「うむ、長いこと生きてきたが『盗む』スキルのレベルが上がるという話は聞いたことがないからのう」


 レベルが上がっているのが分かるだけで、特殊なスキルであることはバレてしまう。

 それを取っ掛かりにして、スキルの内容を強引に聞き出されて……という恐れはある。


「しかしクズハさんが『隠さないのか』と言ってるということは……鑑定魔法を防ぐこともできる、ということでしょうか」

「ほう、カンが良いのう。隠蔽魔法と言うものがあっての……これを使えば、ある程度の鑑定魔法からステータスやスキルを隠すことができるのじゃ」

「しかし、魔法ということは制限時間などもあるのでは……?」

「うむ、しかし魔法は道具に籠めることができる。例えば鑑定の鏡のようにな」


 そうか、隠蔽魔法を籠めた道具を持っていれば、鑑定魔法に反応して打ち消すことができるのか。

 しかし、更なる疑問が出てくる。


「鑑定の鏡には有効回数がありました。隠蔽魔法を籠めても、使い切ってしまうと補充も必要ですよね?」

「その通りじゃ。じゃからお主に一つ提案がある」

「なんでしょうか?」

「そういうった魔法の道具は魔力を籠め直すことで、回数を回復できる。お主の魔力を上げれば自分で補充できるぞ」


 自給自足できるのか……それはありがたいけど。


「俺、盗賊だから魔力なんてありませんよ?」

「うむ、それは分かっておる。じゃが、なければ上げれば良い。お主のその守備力のように」

「――!」


 守備力のように上げる。

 つまりそれは……。


「そうじゃ、幸い『魔力の丸薬』を持つモンスターがいるのじゃよ。森の中に、な」

「それなら明日からでも集められます。それで、そのモンスターと言うのは……」

「ドリアードじゃ。木の女性型モンスターじゃな、バトルビートルよりも奥地に生息しておる」

「分かりました、ありがとうございます」

「礼なら……そうじゃな、ミノタウロスのレアドロップを見せてもらおうか」


 忘れてた。そういえば盗んだあとに道具袋にしまったままだ。


「……これです」


 道具袋から袋を取り出し、クズハさんに渡す。

 まだ中身は見ていないから何が入っているのか、ちょっとワクワクする。


「これは……狂化薬じゃな」

「狂化薬?」

「うむ、これを飲むとしばらく自我がなくなり、ミノタウロスのように周りの者を見境なく攻撃し始めるアイテムじゃ」

「ちょ、ちょっと危険すぎませんか?」


 レアアイテムの割には使い道がなさそうだけど……。


「うむ。しかし自我を放棄する代わりに、攻撃力や魔力が三倍まで跳ね上がるのじゃ。そのため、単独で旅をする冒険者の最終手段として用いられることが多い。あとはこっそり食事に混ぜて敵に食わせ、同士討ちを誘うとかのう」


 うわぁ……結構エグいな……。

 こんなものが量産されたらと思うとぞっとする。いや、俺ができちゃうんだけど。


「ちなみにそういった使い道の多さと、これ以外では錬金術でしか作れないものだから値が張るぞ。そうじゃな、高ければ百万ほどで売れる」

「ひゃく……」


 さすがは深層モンスターのレアドロップか……守備の丸薬の五倍ぐらい……。


「よければこれもワシに譲ってほしいのじゃが……」

「もちろんいいですよ。今回はクズハさんがいなければ盗めなかったのでタダでもいいです。隠蔽魔法の情報も教えてもらいましたし、ミノタウロスにトドメを刺したのでレベルも上がっているはずですし」


 そう言って思い出した、レベルだけじゃなくてスキルレベルも上がっていたからまた試さないと。


「ふーむ、それはありがたいが……いいのか?百万じゃぞ?」

「はい、クズハさんにはお世話になっていますし、日ごろのお礼です」

「……まったく、お主は誑しじゃのう……」

「?何か言いましたか?」

「いや、なんでもない」


 クズハさんの言葉は小さくて聞き取れなかったが、おそらく悪いことは言われてないはず……。


「とりあえず、当面はこれを使うが良い。五回ほどではあるが、隠蔽魔法を使えるだけの魔力は籠めてある」

「これは……指輪ですか」

「うむ、常に身に着けておくものなら、そういった装飾品が良かろう」


 そうだな、うっかり外したままにしちゃいました。みたいなミスも減るだろうし。


「ほれ、左手を出せ」

「分かりました」


 左手を差し出すと、クズハさんは俺の薬指に指輪をはめる。

 ……あれ、左手の薬指って……。


「これでよし、大きさもぴったりじゃな」

「そ、そうですね」

「ん?どうした?」

「いえ、なんでもないです」


 こっちの世界ではそういう風習はないのだろうが、思わずドキリとしてしまった。


「まあよい。ドリアードから大量に魔力の丸薬を盗んだらまた来い。指輪への魔力の籠め方を教えてやろう」

「分かりました、ありがとうございます」


 気持ちを何とか落ち着けると、俺は一礼をして店を出る。


 今日はいろいろあって疲れたから、よく眠れるだろう、ふぁぁ……。

 俺は欠伸をかみ切り、宿屋へと向かった。




 ……しかし、守備力の次は魔力のカンストを目指すなんて……。

 盗賊、盗賊ってなんなんだろうな……。

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