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45.魔王

「待たせたな、勇斗!」

「ご、豪!?」


 俺は勇斗へ放たれた魔法を魔力結界を使って打ち消す。間一髪だ。


「ほう……勇者の仲間か」


 魔法をかき消された事にも動じず、魔王はこちらを鋭い眼光で見る。

 そして再び詠唱を――。


「ぐっ!」


 クズハさんが極大炎魔法(インフェルノ)を魔王に向けて撃った。


「うそ……私の魔法とはまるで別物……」


 賢美(さとみ)が魔王を赤く染める魔法を見てぼそりと呟く。

 まあクズハさんの魔力は割と規格外だからな……今は呪いを解いてない状態とはいえ、精神の実を使って二倍になってるし。

 これで終わってくれれば楽なんだけど……そうはいかないか。


「ククク……まさか勇者たち以上の実力を持つ者がいるとはな……」

「……クズハじゃ。カースによってかけられた呪いの積年の恨み……ここで晴らしてくれよう」

「なるほど、お前はあの時の狐か。それならこの強さも頷ける……だが、弱い!」


 魔王が炎を振り払うと、先程と全く変わらない無傷の姿でそこに立っていた。

 ……妙だな、あれだけの魔法でダメージが全く無い……?


「さあ、もっと見せるがよい。お前たちの強さを」

「へっ、それじゃあオレが行くぜ!」


 アネットは魔王へと駆け出すと、壁を巧みに蹴って攻撃を避けながら徐々に距離を詰める。


「ぐぅっ!」


 アネットが素早さを攻撃力に転換するスキル『神速』を使い、魔王の片足を吹き飛ばした。

 よし、これで魔王の機動力は全くなくな――。


「……やるではないか、たかがワーウルフごときが」


 吹き飛ばしたはずの片足は空中で消え、魔王の足は元通りになっていた。

 ……魔王は不死身なのか!?


「そうだ、その表情だ。実にいい表情をしてくれる……」


 魔王が不気味に笑う。

 こいつ……何かがおかしい。俺なら見えるはずの赤く光る空間……盗むの当たり判定が見えないのも何かが原因か……?


「ククク……そこのお前が何を考えているか分からないが……我にはスキルなど通じん。これが我のスキルの一つ『スキル無効化(キャンセル)』だ」

「な……!」


 スキル無効化だって!? それじゃ魔王には『盗む』が使えない……!?


「更にいいことを教えてやろう、我には普通の攻撃は効かん。そして受けた傷は瞬時に回復する。……我を倒したいなら、『勇者』が『聖剣』で我を斬らねばならぬが……」


 魔王が床の金属を魔法で浮かび上がらせる。

 あれは……。


「先程勇者が我に斬りかかった時のものだ。この金属片は……聖剣だったものだ」

「!!」


 聖剣が折れた……。つまり、もう魔王を倒すことは……。


「ごめん……僕が力不足だったばかりに……」


 勇斗が折れた聖剣を握りしめ、俯く。


「ククク……今まで女神の召喚術によって苦しめられてきたが……今はもう女神はおらん。さあ、見るがよい」


 魔王が何かを詠唱すると、周りに大量のモンスターが出現する。

 その中には見た顔が……あれは四天王と呼ばれていた……。


「そう、召喚術は今や我が手中にある。絶望するであろう? 今まで人間を助けていた召喚術が我の手にあるのは……」

「女神様に何をしたんだッ!」

()()()()()()()()、女神の力を、この身体にな……」


 そんな……まさか俺たちをこの世界に召喚した魔法を、魔王が取り込んで使えるようになったなんて……。

 このままだと、人間が滅ぼされるのも時間の問題だ。


 ……そんなことを考えていると、頭に声が響く。


【ゴウ、私の最後の魔力をあなたに……】


「……女神か、まだ抵抗を続けるとはな。大したものだ」


 俺は暖かい光に包まれ、魔力が上昇するのを感じる。

 そして……。


【『盗む』のレベルが最大になりました】


 ……女神様のおかげでついに『盗む』のレベルが最大に。

 しかし、魔王にはスキル無効化があるため使えない。どうする……?


「……クズハさん! みんなを連れて脱出してください!」

「ゴウ! お主はどうするのじゃ!」

「……ちょっとした作戦があります。先に行っててください」

「分かった、無事に戻って来い」


 クズハさんが脱出アイテムを使うと、俺以外の全員の姿が消失する。どうやら無事に脱出できたようだ。


「一人残るか。豪気なものよ」

「……いや、そうでもないぜ」


 俺は、頭上に向かってマジックアローを放った。


「……じゃあな!」


 天井が崩れ、召喚されたモンスターたちが石の下敷きになるのを見ながら、俺は城の入り口へと駆け出した。

 途中でもマジックアローを放ちつつ逃げ、城を崩壊させて時間を稼ぐ。

 そして、外に出るとクズハさんたちと合流する。


「まさか城を崩壊させるとはな……じゃが、あやつはこれぐらいでは……」

「いえ、充分に時間稼ぎはできました。それに……」

「……ほう、やってみる価値はありそうじゃな」


「……その通りだ。我は脆弱なモンスターたちとは違う。この程度、かすり傷すら負わぬ」


 瓦礫の山を魔法で吹き飛ばし、魔王が再び姿を現す。

 他のモンスターは生き埋めか、それとも崩壊に巻き込まれて死んだか……魔王のみになったなら好都合だ。


「……まあよい、逃げ道などないことを知るがよい……!」


 魔王の身体が巨大なゴーレムのように膨れ上がる。

 頭には角、身体には翼、手足には鋭い爪と、異形の姿へと変貌する。


「……アネット、クズハさん、行きますよ」

「おう!」

「くふふ……全力でやらせてもらうぞ……」


 俺はクズハさんから呪いを盗み、クズハさんの真の姿を解放する。


「何……!? ステータスが4000を超えている……!?」


 クズハさんの魔力は2040、それを精神の実のバフで二倍にしたら4080だ。

 いくら魔王でもここまではたどり着けないだろう。


「だが……勇者と聖剣がない限り我は滅せぬぞ」

「……その必要はないんじゃよ……氷と風の合成魔法、ブリザード!」


 凍てつく冷気が全身に纏わりつくように魔王を襲う。

 これはダメージが目的じゃない。


「くっ……動けぬ……」


 魔王の手足を凍らせ、身動きを取れなくするのが狙いだ。

 これで攻撃が避けられることはなくなる。


「さて、魔王。お前は『勇者』と『聖剣』がないと倒せないと言ったよな?」

「その通りだ、我にはそういうスキルがある」

「じゃあお前の鑑定魔法で俺を見てみろよ」


 俺は鑑定を阻害するための隠蔽の指輪を外す。


「……!? ば、バカな……ゆ、勇者だと……!? 更に聖剣の特性まで持っている……!?」

「俺はゴウ、盗賊だ。『盗む』という何でも盗める超万能スキル持ちだ」

「『盗む』など、ドロップアイテムしか盗めない弱小スキルのはずだ!」


 魔王が狼狽し始める。

 それもそうだ。無力化したはずの勇者と聖剣を両方持つ者が目の前にいるんだからな。


「く、ククク……だが力は弱いようだな……その程度の力では、勇者が持っていた聖剣のように折れるだけ!」

「言っただろう? ()()()()()()、と」

「……ヒッ!? ち、力が……9999に……!?」


 俺は魔王の背後にある瓦礫の山から力を盗んだ。

 そう、盗めるものは装備からだけと思っていたが、それは俺の思い込みだった。

 そこら辺に転がっている石だって、投げつければ武器になる。つまり、城を崩壊させて大量に出た瓦礫の山だって、鋭利だから武器にもなる。

 そして、それらから力を盗めば……簡単に異常なまでの能力上昇(バフ)ができる。


「こ、ここは一旦態勢を立て直……ぐぎゃぁっ!?」

「へへっ、戦いの途中で会話に夢中になり過ぎだぜ?」


 会話の隙を突いてアネットが背後に周り、翼を切り裂く。

 もちろんすぐに回復するのだが……足止めには充分だ。


「さあ、観念するんだな、魔王」

「や、やめ……!」


 俺は魔王の頭上へと跳び、聖剣の力を纏ったダガーで魔王を一刀両断した。




**********




「大丈夫か、勇斗?」

「う、うん……まさかゴウが助けに来てくれるなんて……」

「妖精の長から召喚魔法のことを聞いて、俺たち召喚された四人が揃わないと魔王を倒せないと言われたんだ。それで急いで駆け付けたんだが……間に合ってよかった」

「でも、私たち何もしてないような……」


 賢美(さとみ)が言う。(ひじり)もそれに同調するかのように頷く。


「たぶん、道中も含めてなんじゃないかな。勇斗、二人がいないと危ない場面もあっただろ?」

「うん、二人がいなければ僕はとっくの昔に死んでたと思う」

「ほら、そういうことだ。勇斗がここまで来なければ勇者も聖剣もなかった」


 二人の表情が安堵したものに変わる。


「さて、それじゃ魔王も倒したし後は……」


【……ありがとうございます、異界の勇者たちよ】


 頭の中に直接声が響く。これは……。


【私はこの世界の女神。魔王に力を奪われ囚われていましたが、魔王が倒れたことにより、力を取り戻すことができました。ありがとうございます】


 半透明のような姿で宙に浮く女神様。それはゲームなどでもよく見るような神々しい姿をしていた。


【私はこの世界に魔王が復活する度に召喚を行ってきました。しかしいつしか魔王はこの力に目を付け、私を自身に封印することで私の持つ力を行使しようとしたのです。私は封印される直前に召喚の一部の力を人間に譲渡したのです】


「それが、俺たちが召喚された『召喚の儀』……」


【はい。しかし一部の力だけで召喚を行った際に不具合が起きてしまったのです。本来なら一人に集約されるはずの力が、分散されて召喚されてしまうという……】


 なるほど、妖精の長が言っていた全員揃って初めて討伐できる、というのはそういうことだったのか。


【私は魔王に封印されていた状態でも、千里眼を通して世界を見ることができました。……あなたたちのように、複数人が召喚されて、一部の人が無用の者と思われて追放されてしまったことも……】


 ……俺たち以前にも、そう言う事があったんだ。そして全員揃っていなかったから、その人たちは……。


【これは、私が魔王に封印されてしまったために招いた事態です。……既に失われた方たちには安らかな眠りを与えることしかできませんが……あなたたち四人には、どんな願いでも一つ叶えて差し上げましょう】


 どんな願いでも、か。


「それは……元の世界に戻るという願いも可能でしょうか……?」


 勇斗が女神様に尋ねる。

 ……そうだな、元の世界のことも気になるよな。


【はい、召喚と逆の手順で送還すれば可能です。時間経過については召喚された時点まで戻すことも可能ですし、こちらの世界で得た経験値やスキルも持ち帰ることができます】


「それなら……!」


 どうやら、勇斗、賢美、聖の三人は元の世界に戻ることが願いのようだ。

 俺は……。


【さあゴウ、あなたはどうしますか……?】


「俺……俺の願いは――――」

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